↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/13

010 ギフト

 翼翔が金の珠から引き当てたのは、鑑定という名のギフト。

 ギフトを所持しているルーターはそれなりにいるが、ルーキーが得るのはかなりの幸運が必要だろう。


「これはさすがに、俺が使うしかないよな」

 次はいつ引き当てるかも分からないのがギフトである。


 地球で売れば、数百万円にはなる。もしかすると、それ以上にもなる可能性だってある。

 だが翼翔は売るつもりはなかった。金はあとでいくらでも稼げるのだ。


「よ、よし、使うぞ……」

 震える指で金の珠を握り潰す。通常ならばアイテムが出現するが、白い煙が少しだけ立ち昇っただけだった。


「これで……鑑定のギフトを覚えたのか?」

 身体はとくに変化はない。ただ、鑑定ならば物の名前が分かるはずだと、ワークベンチをじっと見ると……。


 ――ワークベンチ 0CP


 目の前に文字が浮かんだ。

 実際に表示されているわけではなさそうで、隣にいたエールルは何の反応も示さない。


「翼翔さん……どうでした?」

「鑑定は物の名前と……これは売値かな? それが表示されるみたいだ。ワークベンチは0CPって出る」


「0CPですか。0CPって、売り物じゃないってことですかね」

「かもしれない……別のはどうかな」


 ――肩掛けカバン 60CP

 ――ナイフ 35CP


 やはり名前と金額が出た。

 肩掛けカバンは、ガチャから複数の種類が確認されているが、その区別はないようだ。


 ナイフも同じ。コモンやアンコモンは、金額で差がつくのかもしれない。

「そうだ、エールル。換金しなかったのがあったよな。それ見せてくれるか?」


「いいですよ。ワークベンチに載せますね」

 エールルがカバンの中から三つのゴミを取り出し、ワークベンチに置いた。翼翔はそれを鑑定する。


 ――青色のインク瓶 18CP

 ――研磨剤入りチューブ 22CP

 ――塗装剥離スプレー 17CP


 ワークベンチのときと同じく、名前と価格が表示された。

「表示されているのは、名前と売値だけだな。最初のは『青色のインク瓶 18CP』って出た」


「凄いことじゃないですか。もしそうなら、高く売れる物だけ持ち帰ることができますよ」

「そうだな……これは凄いことかもしれない」


 ただ、この鑑定に表示された価格が正しいのか。

 それを検証するため、エールルがゴミの一つを売却してくれた。


 すると結果通りの金額で売れたので、鑑定で出た金額が売値だと証明された。

 ゲームなら解説文も一緒に表示されるが、この『鑑定』にはそんな機能はない。


 だが、逆にシンプルでいい。

 ルーティングするものはゴミであり、詳細な説明文があっても意味はないのだから。


「でもこれ、発表しない方がいいな」

 鑑定は、小説や漫画、アニメの中では有名だ。


 ある国では、『看破』のギフトを手に入れたルーターは、国によって囲い込まれてしまった。

 嘘を見抜く人物が隣にいれば、交渉事が有利に運ぶからだ。


 結果、ルーターに自由意志はほとんど存在せず、いまも政治家の隣で粛々と嘘を見抜いているという。

 そのような例は特殊だが、鑑定のギフトという言葉だけが独り歩きした場合、思ってもいない方面からの接触があるかもしれない。


 せっかくルーターになったのだ。

 平穏に生きるため、翼翔は鑑定のギフトのことを秘密にすることにした。


          ◯


 翼翔は個人キーをワークベンチにかざし、溜まったCPを見た。

 現在の残高は2667CP である。 翼翔はほくそ笑んだ。


「よし、十連ガチャできるな」

 一回200CPのガチャだが、十連ならば1800CPでいい。一回分お得なのだ。


「翼翔さん、引くんですか?」

「ああ、実は十連するのは初めてなんだ」


『CP抽選』の隣に『CP抽選十回』というボタンがある。

 翼翔は迷わずそれを押した。


 ワークベンチ下部の排出口から、十個の珠が転がり出て行列を作っている。

 特別な演出はやはりない。


「どうでした?」

「ちょっと待って…… えーと」


 出た色は、黄黄白黄青白白白白黄の順だった。白は五個、黄は四個、青は一個で、残念ながら金色はなし。

「十個中、白は五個ですか。期待値通りですね。それと黄が期待値より多い感じでしょうか」


「エールルは、ガチャの排出率を知っているのか?」

「もちろんです。白色50%、黄色30%、青色15%、金色5%ですよ」


「そっか、だいたい俺の世界の統計と同じだな。白は半分で、金色は1/20って言われているから」

「排出率が分かったからと言って、出てくるアイテムが変わるわけではないんですけどね」


 確かに一喜一憂の材料になるだけで、あまり意味はない。

 地球ではゲーム内のガチャにハマるあまり、身を持ち崩す人だっている。


 排出率なぞ考えないほうが、精神衛生上いいまである。

「それで俺が得たアイテムはと……」


 翼翔はまず、コモンをすべて鑑定してみた。珠を覗かなくていいので楽である。

 鑑定した結果、白のアイテムは、肩当て(防具)、レーション、携帯ライト、鉄片、ポーチの五つだった。


「当たりは防具とポーチだな。上階に持ち込めるカバン類はいくらあっても困らないし」

「換金アイテムとか、別に入れられますしね」


 そしてアンコモンを鑑定する。

 保存食セット、銀片、レーザーサイト(武器パーツ)、拡張マガジン(武器パーツ)の四つだった。


 コモンの鉄片とアンコモンの銀片は、ワークベンチで武器や防具を製作や強化するのに使う。製作素材や強化素材として使われる。

 鉄や銀もアイテム産でないと塔の上階へ持ち込めないのだ。このような素材は上を目指すルーターが買い取ってくれたりする。


 武器パーツは拡張素材で、対応する武器につけることができる。

 これも店に並べれば、上を目指すルーターが買ってくれる。


 そして一つだけ出たレアを鑑定した。

「……軽小銃の設計図か」


 設計図はちょっと特殊だ。

 ワークベンチを使えば、一度だけ個人キーに登録できる。素材を集めれば、設計図にあるものを製作できるようになるのだ。


 レア以上の武具やアクセサリは、珠から出現させた時点で、その者にバインド(紐づけ)されてしまう。

 バインドされたものは本人以外使用できないため、売り買いができない。


 だが設計図から製作したものはバインドされていないため、売買可能となる。

 そのため設計図は、金策に有利であることから高値で売れる。


「設計図が出たんですか!?」

 凄いことですよとエールルは言う。


「上階では銃の需要は高いって話だけど、この設計図は下から二番目なんだよな。需要あるかな」

 この世界の銃は、拳銃型とライフル銃型の二種類が存在している。


 それぞれ威力によって、六段階に分かれている。

 拳銃の場合、掌銃、小型銃、短銃、拳銃、騎銃、大型拳銃という具合だ。


 ライフル銃も掌小銃、軽小銃、短小銃、猟銃、機関銃、重機関銃となる。後半は連射できるため、マシンガンと言い換えてもいい。


 今回出た設計図は、掌小銃よりマシだが、短小銃より威力がない。

「需要ですか? あるに決まっているじゃないですか。銃はカスタムして使うものです。改造次第で、威力が数段階もアップするんですよ」


「そうなのか?」

「そうなのです。みなさん、それはもうゴテゴテと改造していますって」


 はじめから威力のある銃は高価だが、安い銃でも改造次第で同じかそれ以上の威力が出るのだから、改造前提で求めるのだとエールルは言う。

 授業で異界のことは学ぶが、そこまで詳しくは習わない。積極的に情報を集めれば別だが、翼翔はまだまだ知らないことが沢山あった。


「じゃ、設計図は売らずに登録するとして、素材は……地道に集めるしかないか」

「軽小銃なら鉄片四つで製作できます。いま一つ持っていますよね。だったら、あと三つ集めればいいんですよ」


 軽小銃はレアからしか出ないので、コモン三つの方が出やすいだろうとのこと。

「そっか。素材だけなら、町で看板出して募集してもいいしな」


 募集するなら、地球からプラカードとイスでも持ち込んで、座っていればいい。

 アイテムを売りたいルーターがやってくるだろう。


 ただし、プラカードなどは上階には持ち込めないので、探索時はそのへんに置いておくことになる。

 大抵の場合、そういったものは自治組織によって撤去される。


「他のアイテムはどうしようかな……とりあえず珠のまま、持ってるか」

 異界管理センターに持ち込んでもいいが、コモン品は高く売れない。それにいまはまだ学生の身分。お金を必要としていないため、積極的に売却する意義を見いだせていないのだ。


「翼翔さん、ちょっと思ったのですけど、聞いていいですか?」

「別に構わないけど、どうした、エールル?」


「あの……ワークベンチには残高が867CPと表示されているのですけど、保険料分を残しておかなくていいんですか?」

「……………………あっ」


 万一、塔内で翼翔が死んだ場合、レプセの町の広場で復活する。

 そのとき翼翔は、個人カードと服だけを身に着け、保険は切れた状態となる。


 蘇生直後、まずするのは保険をかけることだ。だがいまの所持金では、それもできない。

「忘れていたのですね……」


「……うん、すっかり忘れていた。けどたしか、地球――俺の世界のことだけど、そこに帰れば1000CPくらいくれるはず」

 小言くらいはあるかもしれないが、出してくれるだろう。


「そうなのですね。ちなみに私はいまそれで借金状態です」

「国から借金した感じ?」


「はい。ちょっと失敗して連続死してしまいました。それでリュックと保険料代がなくなってしまったので、やむなく……」

 聞いてみると、エールルの世界はそれなりに厳しい環境にあって、社会福祉やセーフティネットを充実させる余裕がないらしい。


 そこで生き抜くには自己責任が基本で、社会システムもそうなっているとか。

「大変だな……」


「それが普通ですので。でも今回で借金を完済しても手元にいくらか残りますから」

 エールルは数枚の1000CPコインを見せてくれた。


 なぜガチャを引かないのかと思っていたが、そういう理由があったようだ。

 何はともあれ、ガチャを引いて保険料を溶かした翼翔と、借金返済のため余剰金がないエールルは、互いに目を見交わしてため息をついた。


 金欠コンビは、今度町で会ったらまた一緒に探索しようと約束し合って、互いの世界に帰るのであった。


          〇


 東京都千代田区にある宮内省。

 最新のセキュリティに守られたとある場所には、日本神話に登場するあの『三種(さんしゅ)の神器(じんぎ)』が保管されている。


 といっても八咫鏡(やたのかがみ)と草薙剣(くさなぎのつるぎ)はレプリカであり、唯一、本物と言えるのが八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)である。


 この勾玉だけが本物であり、いまも宮内省が管理している――という話は、広く知られている。


 ――だがそれは、偽りの情報である


 現在、本物とされている勾玉すらイミテーションであった。

 では、本物はどうしたのか。


 実は、宮内省の地下数キロにある密室に、ひっそりと安置されている。

 この情報の秘匿こそが、この国を支える最大の防衛戦略となっていた。


 なにしろ、そこへ至るエレベーターはない。

 侵入者を排除するために設置された多くの扉を潜り、細く長い階段を使うしかないのである。


 万一、無理やり突破する者が現れたとしても、侵入者を一瞬で溺死させるための仕掛けが、いつでも起動できるようになっている。

 そんな地下深くの場所で、勾玉は厳重に保管されているのである。


 これだけ厳重に保管されている理由を知る者は、あまりに少ない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。