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ダルメル王国の都市、クヌルギ到着だ。
ここでもまず宿探しが難航した。冒険者ギルドで尋ねてみたが、相変わらずクーリガルド正教国へ向かう貴族やなんかが宿を占拠しているようだ。
ギルドの建物の横側に移動し、悩んでいる俺にアドが話しかけてきた。
『エイト、宿が見つからないなら、いっそ家を買ったらどうですか?』
「いやいや、すぐ移動するのにそんなん買わんだろ!」
『使わなければ、賃貸で貸して家賃収入にすればいいじゃないですか』
「お前、あの図書館でそんな本まで読んでたのかよ。」
アドの言うことは放っておいてだ。まずは滞在できるところを探さなきゃ。
無ければ森まで戻っていつもの野宿生活だ。でもできればベッドでゆっくり寝たいよぅ。
とりあえず飯でも食うかと歩き出すと、通りの右手に不動産屋があるのが見えた。ん〜、まあ賃貸も一応聞いてみるか。
「それならシェアハウスはいかがですか?短期から長期まで契約できますよ。冒険者で勇者なら信用もありますし、すぐ入れるところをご案内できます。」
いかにもやり手っぽい男性が担当だ。
シェアハウスか…いつも宿だからまだ利用したことはない。元の世界でも実家暮らしだから未経験の世界だ。うん、それも面白そうだな。
「じゃあシェアハウスにします。ちなみに、この辺りにはありますか?」
「そうですね、この近隣ですぐ入れるのは…ああ、学生用が空いています。男女5人が入っていますが、学生用でも大丈夫ですか?かなり離れた町外れで良ければ、冒険者用も空いていますが。」
俺は元の世界では大学3年生だ。学生ならたぶん年齢も近いだろうし、楽しそうな気がする。
学生用の家賃は1週間なら2ゴールド、1カ月なら4ゴールドとのこと。防犯上、街中にあるぶん割高にはなるらしい。ちなみに冒険者用は各自自衛ができるだろうと、かなり安くしてあるとのこと。
先日のワーウルフ事件の褒賞で、今のところ手持ちに不安はない。学生用で一応1カ月にしておこう。
「じゃあ学生用にします。1カ月にしておいて、例えば、その間しばらく留守にするのは大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。契約期間の部屋は確保されますから。」
そうか、部屋の確保か。
この先も宿が取れるとは限らない。念の為ここで数カ月押さえとくっていうのも手だが、戻ってくるのも大変か……
うーんうーん悩み出した俺に、担当は「どうされましたか?何かご不明な点でも!?」と何故か焦りだしたようだ。俺がやめておくとでも言うと思ったのか?
「いえ、期間をどうするか悩んでいて…この先、国の南部まで行くことになるので。」
「なるほど、期間ですか。うちは国内に支店がたくさんありますので、行く先々で相談もできますよ。私、ハスマの名前を出していただければと思います。」
ほっとしたようにニコニコして言うハスマ。
へ〜、チェーン展開しているのかこの不動産屋さん。それは助かる。
「分かりました。では一カ月でお願いします。」
俺は契約書にサインをし、ハスマにそのシェアハウスまで案内してもらった。
そのシェアハウスは通りを2つ過ぎた先にあった。2階建てのきれいな建物だ。ここは玄関の鍵と部屋の鍵は同じとなるので、無くさないようにとのこと。
まず部屋を見せてもらった。俺の部屋は2階に4部屋あるうちの、西側の角部屋だ。部屋の中には備え付けのベッドとクローゼット、小さな本棚と、それに大きめの机。いかにも学生が勉強するために使うような部屋だ。
1階にも2部屋あり、あとは共用のキッチンと広い食事スペース、それにバスルーム。
ハスマからそれらの共用部の使用方法の説明を聞いている時に男性が入ってきた。
「ハスマさん、こんにちは。新しい入居者さんですか?あ、もしかして冒険者の方ですか。僕はマイルと言います。よろしくお願いします。」
マイルが手を出してきたので、よろしくと握手をした。感じの良い青年だ。もしかしたら俺より年上だろうか。
彼は休み時間に教材を取りに帰ってきたと言った。夜に皆が戻ってきたら紹介してくれること、改めて共同生活のルールを説明してくれるとのことだ。
なんだか思ったより楽しくなってきたぞ。
俺はさっそく部屋で軽装に着替え、バッグを持って外出した。ミリアムさんにお借りしている、旅のアイテム一式のメンテナンスのためだ。
しかし、この都市にはほとんど滞在したことがないので、どの店が良いのか詳しくないんだ。
困った時には我らがギルド!ということで、滞在先が決まったことを報告し、メンテナンス対応してくれる道具屋について聞いてみた。
ついでに依頼の掲示ボードをチェックする。
今のところたいしたものはない。遠くの村でゴブリン退治の依頼がぽつぽつあるくらいか。これは誰かがすぐに向かうだろう。
ギルドで教えてもらったとおり、中央通りから裏手に入ってすぐにその道具屋はあった。店の表からでも、中に数多くの品が置いてあるのが見える。
入ってカウンターにいた青年に、道具のメンテナンスについて聞いてみた。彼は店主に聞くという。
「はいはい、メンテナンスのご依頼ですか。」
人の良さそうな店主が奥から出てきてくれた。
「ああ、旅で使っている物なんだ。全部きれいにしてくれるかな。」
俺は魔石ランプや魔導コンロ、テント等を取り出して、店の大きなテーブルに広げた。
「ほう、こりゃ見事な年代物だ。最近はなかなかこういう物を見なくてね。貴重な物だ。丁寧にメンテナンスさせてもらうよ。」
店主は目を輝かせるようにして、ひとつひとつ手に取って見ていた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
数日預かるとのことで、お願いしてから俺は店内を見回した。
これからシェアハウスに住むんだ。何か部屋に置くものが要るかも。
部屋の中を思い出すと、確か明かりになるものは無かったような。
俺は手近に並べてあった、広い範囲を明るく照らすような机用のランプを手に取ってみた。
ん…?なんかこれ、やけに軽いな?
それを持ち上げて裏側を見たりしている俺に、さっきの青年が声をかけてきた。
「あ、それはお安いですよ。最近入荷したばかりでね。学生さんに人気のものです。」
「そうなんだ。かなり軽いね。」
「ええ、最近のドワーフ製の商品はみんなそんな感じです。素材が変わったんですかね。少し動作が不安定だったりする物もあるけど、デザインもいろいろあるし、なにより安く買えるんで皆喜んでますよ。」
なるほど、これがアマリが言っていた廉価版か。うーん、やっぱりドワーフはそうそう壊れる物を作ったりはしないはずなんだけどな。
俺たちの会話を聞いていた店主が話しかけてきた。
「時代かねぇ。私たちの時代は貴方が持ってきたような、作りのしっかりした物ばかりだった。これなんてまさしくドワーフ製だよ。」
彼は俺が預けたランプを持ち上げて、そう言った。そして、店に並んでいるランプをちらりと見る。
「今はこういうのが流行りなのかもしれんがね。貴方のように、物を大事に使っているのを見ると嬉しく思いますね。」
「ありがとうございます。しばらくここに滞在するので、このランプ買います。メンテナンス、よろしくお願いします。」
俺はその机用ランプを包んでもらい店を出た。
ほんとに軽いなこれ。ミリアムさんからお借りしている冒険者用のランプとは大違いだ。
短期滞在の人には、こんな風に気軽に買える物が良いのかも。
でも、やっぱりドワーフがプライド捨てる訳がないと思うんだよなぁ。まあ、彼らの国に行ったら何か分かるか。
俺はそんなことを考えながら、シェアハウスに戻ってゆくのだった。




