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俺はオクハリの冒険者ギルドで、依頼の掲示ボードを眺めていた。
この都市にもクーリガルド行きの貴族や豪族が来ている関係で、宿になかなか空きが無い状態が続いている。
エルフの国に行くまでは、蒼のエルフのアマルガリタが行く先々の宿を押さえてくれていたけれども、今は自分で手配しなきゃならない。
宿の料金も上がる一方で、一般宿でもなかなかの金額だ。オーバーツーリズムめ、ほんと困る。ということで、とりあえずここでいくつか依頼をこなして宿代+αを稼ぐのだ。
それにしても、この辺りは魔獣が増えているようだ。
ワーウルフやボア系の、凶暴な魔獣を駆逐する依頼がボードのほとんどを占めている。
これがひとつ30〜50シルバーか…宿代が一泊40シルバーだから、1日にふたつ以上こなせばなんとかプラスになってくる。
しかし、この魔獣の増加は、魔族が暗躍しているからだろうと先程誰かが言っていた。ここでも魔族の噂が出ているんだな。おかげで仕事が増えていると笑って言っちゃうのが、冒険者の困ったところだな。
ボードの前でうんうんと頷いている俺に、アドが話しかけてきた。
『エイト、良さそうなバイトは見つかりましたか?』
おいおいアド、人が集まっているギルドなんかで話しかけてくるなよ。お前の声は周りに聞こえないけど、俺は声を出さなきゃいけないんだからな。
だんまりの俺に、アドはさらに話しかけてくる。
『あ、エイト。これなんてどうです?貴族の家に1年間住み込みで、子どもに剣術を教えるバイト。依頼料いいじゃないですか〜』
また楽しそうに言いやがって。お前はどうして俺の旅を長引かせようとするんだ。俺は早く帰りたいんだってば!
俺は黙ったまま、ワーウルフ退治の依頼書を3枚取って、受付に手続きに行った。
顔なじみの受付のジリンはいつも愛想よく接してくれる。今回も俺が選んだ依頼内容を確認して、達成条件の説明をしてくれた。
「あ、エイトさん。もしよければお勧めの依頼もありますよ。こちらの貴族のお子様に剣術を教えるのなんてどうですか?勇者レベル30のエイトさんなら、もう大歓迎されますよ!」
ニッコニコして依頼書を見せてくるジリン…いや、お前もか。
「ねぇ、ジリン。何でそれがお勧めなんだ?確かに報酬はいいけど。」
すると彼女は何故か顔を赤くして、恥ずかそうに小声で言った。
「だって…これだと、エイトさんしばらくここに居るでしょ?いつもすぐ別の場所に行っちゃうんだもの……」
え…?
まさかジリンって俺のこと好きなの?
「いえいえなんでもないです!はい、エイトさん、受付できましたのでワーウルフ退治お願いします!」
「あ…はい。行ってきます。」
何故か丁寧語で返事をしてしまった。
でも複雑だなぁ、ジリンが好きなのって俺じゃなくて、俺の中の記憶にある勇者だからな。
ギルドの外に出て、人混みを離れたところでアドに声をかけた。
「なあ、アド。さっきの話だけど…」
『ふぅん、貴族の依頼を受けるんですか?』
心なしか口調がキツくないか?
「いや、受けないよ。そんなことをするより、俺は先に進みたいからさ。」
『もちろん、それが良いと思いますよ。じゃあちゃちゃっとお仕事やっちゃいましょう』
「おい、さっきと言ってる事が変わってるじゃねーかよ!」
いつも通りいいかげんなことを言ってるアドは放っておいて、俺は依頼書でワーウルフの出る場所を確認し、風魔法の高速移動で現地に向かった。
「ふぅ…なんか数が多いな。」
俺は銀の剣をマジックバッグにしまいながら独りごちた。
やつらの苦手な銀の剣を使っているので、まあ余裕なんだけど。
しかし、こんな見晴らしのいい草原だ。やつらの巣があるようにも見えない。やつらは一体どこから出てきてるんだ。
俺は見回すのをやめ、討伐の証拠の尻尾をナイフで切り取り、保管用の袋に入れていった。
確かにこんな凶暴な魔獣が増えているなら、魔族がこちらにちょっかい出してきているとか噂になるのも分かるな。
あ、魔族といえば。俺はバルマス王国の国境近くのダンジョン辺りで大魔族らしいやつを見かけたことを思い出した。俺に挨拶を、とかふざけたことを言ってたやつだ。あいつはまだあの場所に居るのだろうか?
ギルドに戻って早速ジリンに証拠入りの袋を渡した。
確認担当のスタッフの作業が済み次第、褒賞が貰える仕組みだ。
確認にしばらくかかるようなら椅子に座って待とうかなと思ったら、ジリンが声をかけてきた。
「エイトさん、ブシュタールのギルドからメッセージが届いてますよ。急ぎのようです。」
「そうなんだ、ありがとう。見てみるよ。」
旅をしている冒険者に連絡を取りたい場合、ギルドにメッセージを送ってくれるよう依頼するようになる。電報みたいなものだ。それはどこのギルドででも確認できるし、急ぎの場合はこうしてギルドのスタッフが教えてくれる。
俺はメッセージ確認専用のブースに入り、置いてある通信用水晶で、内容を確認してみた。
あ、ユージンからもきてる。先に読むか。えーっと…
『下宿先のミリアムさんの猫が子どもを産みました。かわいいですよ。ぜひ見に来てください。』
ユージン…お前、メッセージ送るのも無料じゃないんだぞ。まあ確かに見たいけど。どうせなら、頼んでいる詠唱の進捗を教えてくれ。
次に、ブシュタールのギルドからのメッセージを開封すると、そこには予想外の言葉があった。
「ん?王からの依頼について?」
怪訝に思いながらも、俺はそのメッセージに目を通しはじめるのだった。




