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今、俺の目の前では、やたらと興奮している女性たちがひたすらキャッキャしている。
クーリガルド正教国の都市チャーションから、ダルメル王国のこのオクハリまでは、馬車で1カ月以上はかかるところを、ハクのおかげで2週間くらいで到着した。まあハクとただ遊んでいる日だけもあったから、もっと早く着けたといえばそうかもしれない。
彼女たちのあまりの騒ぎっぷりに、そんな現実逃避をしていたが、そのうちのひとりのアナリタに、強引に意識を引き戻された。
「ねぇねぇ!このシャリーンの聖典によると、あなた紅のエルフ様と知り合いなのね!」
そう、彼女たちはシャリーンのお仲間、エルフのファンクラブのメンバーなのだ。聖典と呼ばれているものは、シャリーンが書いたエルフのレポートらしい。薄い本ってとこか。
そしてアナリタは紅のエルフ担当とのこと。
シャリーンのレポートは大体いつも紫のエルフのことらしい。慈愛を司る彼らは、クーリガルドの教会を訪問した際まれにチャーションの街中にも姿を現す。それをシャリーンは遠くから見ることがあり、その様子を微に入り細に入り綴っているということだ。
それが今回は突然詳細に紅のエルフについて熱っぽく書き上げられている。紅担当のアナリタは興奮しつもも解せない様子。
「あ…まあ、そうだな。そういえば、握手のことは書いてあるのか?」
「握手!?握手って何?まさかシャリーンは紅のエルフ様と握手したの!?」
そう言って書類、いや聖典をじっくり読み始めるアナリタ。シャリーンは紅のエルフのムルーアと握手したことは書いていなかったのか。
…すまんシャリーン、やってしまったかもしれん。
ファンクラブのメンバーは、シャリーンを入れて今は4人。以前はもっといたが、引っ越しや結婚で卒業していったそうだ。
ひとしきり騒いで落ち着いた彼女たち。
眼鏡の女性、ファンクラブのリーダーのシュマルがあらためて俺に礼を言った。
「エイトさん、本当にありがとうございます。シャリーンとは手紙のやりとりだけでなかなか会えないので、元気に過ごせているのを教えてくださり嬉しいわ……で、握手って?」
「……えー、俺なんか言いましたっけ?」
にこやかだが目が笑っていない。怖い、怖すぎる。
「ところで、オクハリには用事があったのですか?シャリーンの使いだけでいらっしゃるには遠いですよね。」
「ああ、ドワーフの国に行こうと思ってね。」
「まあ!エイトさんはエルフ様だけじゃなくてドワーフにも興味があるんですね。守備範囲が広いわ〜。」
守備範囲ってなんだよ。
「この辺りまでドワーフは来ないけど、ドワーフ製の商品は割と出回っているわよね。最近は廉価版も増えてきて助かってるわ。」
蒼のエルフ担当のアマリが言う。
「廉価版って?」
「ほら、ドワーフの作る製品って丈夫だけど高いでしょ?でも最近、品質は劣るけど安い物が買えるのよ。」
どういうことだ?彼らは作る物に関して、とてもプライドが高い。そんな品質が劣るものなんて作らないはずだ。
「エイトさん、今日は朝までエルフ様について語り明かしましょう!もっといろいろお聞きしたいわ!」
「……いや、それは遠慮させてください……」
俺はこの場からどうやって逃げ出そうかと、ひたすら思案を巡らせるのであった。




