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ダルメル王国の都市・オクハリへの道中の、道から外れた森の中。俺は今そこをしょんぼり歩いていた。
森に入ってハクを呼び出そうとしたら、代わりに紅のエルフのハバンが出てきて、今日はユニコーン達の蹄鉄の交換日だからお休みですと言われたのだ。はーさみしー。
突然、前方からけたたましい獣の叫びと人の喧騒が聞こえた。見るとそこには、ワーウルフの群れに襲われている馬車と、なんとかそれを守ろうとしている護衛らしい人たちがいたのだ。
ワーウルフたちに森に引きずり込まれたか。護衛の彼らだけでは劣勢のようだ。
俺はその場に駆けつけ、銀の剣でワーウルフに斬りつけた!俺に斬られてバタリと倒れた仲間の姿と、俺の銀の剣を見て途端に怯むワーウルフたち。
奴らは銀が苦手だ。バルマスの王様にこの剣を貰っておいて良かった。
「どなたが知らんが助かる!おい!お嬢様は無事か!!」
護衛は俺に声をかけると、馬車を振り返った。その馬車の中には複数の人がいるようだ。
恐怖に慌てたらしいワーウルフの一匹は、馬車の扉からひょっこり身体を半分出した人物をがしっと掴んで、すぐ側にあったダンジョンに飛び込んだ!
「きゃー!」あがる悲鳴。
しまった、お嬢様が攫われたのか!
護衛は残りのワーウルフを追い払い、馬車に駆け寄っていた。そこには10代半ばの女の子の姿。
…え?じゃあ今、誰が攫われたの?
「爺やが!爺やが連れて行かれちゃった!」
「何!執事のセバスチャン殿か!」
執事にセバスチャンってベタな名前だな。どうやらお嬢様の執事が攫われたってことか。
乗りかかった船だ、俺はそのままダンジョンに駆け込んだ。
そのワーウルフと攫われた執事はまだそう奥には行っていなかった。外からの光がなんとか届く中、俺はそのワーウルフを斬り倒した。
そしてそこにしゃがんでた執事に大丈夫かと声をかけようとした瞬間、その爺さんが「危ない!」と体当たりしてきた!
「わ〜〜〜〜っっ!!」
俺と爺さんは暗闇の中、ダンジョン内部を転がり落ちていった。
しばらく転がり落ちた先は、平らなスペースになっているようで、そこで俺たちは止まることができた。
「いてて……爺さん大丈夫か?急に何するんだよ。」
「いや〜すまんの。あんたの頭に黒いものが飛んでいったからビックリしてつい、な。どうやらあれはコウモリだったようじゃ。」
コウモリかよ…爺さんビビりすぎだろ。
「しかし、結構落ちたのか?真っ暗で何にも見えないな。」
ダンジョンの暗闇は危険だ。どんなモンスターが現れるか分からない。しかしこう暗くちゃ、マジックバッグの中身を探そうにも手探りだ。
「そうじゃな。これじゃ何も見えん。」
そう言うと、急に周囲が明るくなった。
えっ、これは魔法の光じゃ。でも…無詠唱!?
この世界、無詠唱で魔法が使える人はそうそういない。おそらく伝説級の魔導士ぐらいだろう。まさか目の前のこの人がそうなのか?でも大魔導士にセバスチャンなんて名前の人いたっけ?
この人はどこから見ても普通の、白髪をなでつけ丸眼鏡でいかにも執事ですって服を着ているしな。
とりあえず聞いてみよう。
「あの、無詠唱で魔法が使えるって相当な実力者なんですよね?もしかして執事というのは世を忍ぶ仮の姿で、本当は大魔導士様じゃ……」
「再就職じゃが何か?」
言いかけた俺の言葉を遮るように、爺さんの乾いた声が響いた。
…さいしゅうしょく?
「魔導士でもな、年を取ると依頼は若いもんに取られて、年寄りには仕事が無くなってくるんじゃ。身体も動かなくなってくるしな。お前は冒険者じゃな?金は若いうちからしっかり貯めておくんじゃぞ。冒険者など、ギルド職員とは違って将来の保証がないんじゃからな。」
なんか突然、現実的なことを言われてるぞ?
「は、はぁ…そうなんですね。」
「うむ。年寄りの言うことは素直に聞いておくもんじゃぞ。」
うーん、確かに冒険者ってそんなものなんだろうなぁ。将来の保証がないか…就活を控えている俺には参考になる意見かも。アドの言う、勇者に永久就職は死んでもお断りだが。
セバスチャンは思案する俺のことを見つめていたようだ。
「ところで、助けにきてくれたんじゃったな。それはすまんかった。しかし、おぬしには全く関係のないことなのに、どうしてそんなことができる?」
「うーん…困っているようだったから、見ない振りなんてできなかったから、かな。」
「はっ、お人好しじゃな。」
その時、ダンジョンの中を反響する、爺さんの名を呼ぶ声が聞こえた。
「おや、お嬢様たちが呼んでおるな。まあこんなところにいつまでもおられん。とっとと出るか。」
爺さんはよっこらしょというように立ち上がり、右手を軽く上にかざし、くいっと手首を捻った。
すると、俺の身体は引っ張られるように浮かび上がり、あっという間に俺たちはダンジョンの入り口近くの、ワーウルフを倒したあの場所に戻っていた。
うっわ…大魔導士、半端ない。
「セバスチャン、大丈夫!?」
彼に気づいて飛びついているお嬢様。よほどセバスチャンが好きなんだな。
「お嬢様、あの若者に助けていただきましたぞ。まこと助かりました。」
「そうなの?お兄さん、ありがとうございます!セバスチャンはもうおじいちゃんだから、あんな怖いのに連れていかれて、もうダメかもしれないと思ったの。お兄さんがいてくれて本当に良かった。」
そう言って彼女は満面の笑みを向けてくる。
しかし、俺は爺さんが何故力を隠すのか不思議でしょうがなかった。実際俺の助けなんか要らないほどの力があるはずだ。まあワーウルフを倒したのは俺だから、それは間違いではないけれど。
セナと名乗ったお嬢様は俺に、シェバハールに来ることがあったら、お礼をするから尋ねてきてねと言ってきた。
セバスチャンは涼しい顔で彼女の後ろに控えている。
彼は別れ際にボソッと呟いた。
「勇者か……ふん、なるほど。」
俺は何故かそれが気になってしかたなかった。




