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10分ほど歩くと森から出た。
目の前に広がるのは、この世界の真ん中にある広大な湖。
湖……だよな?
いや、俺の中の勇者の記憶では、ここでじゃないけど見たことはあるし知ってはいるけど。
どー見ても海!どー見ても水平線!!
微かに島がいくつかあるようには見えるけど、潮の香りがしないだけで、海だろこれは。
あーでも気持ちいいな。
今まで街か森しか見てなかったもんな。
波打ち際を散歩しているらしい人や、水遊びをしている子どもたち。寝ころんで日光浴をしている人もいる。あちらにはバンガローみたいな建物が並んでいるな。この辺りは宿泊も可能なのか。
爽やかな風が頬に触れ、優しい水音が聞こえてくる。
「……なあ、アド。」
『はい。どうしました、エイト?』
「ありがとうな。馬のことや、湖に来るのを勧めてくれて。なんか良い気分転換になった。」
アドの返事が聞こえないうちに、横から声が聞こえた。
「こんにちは!お兄ちゃん、どこから来たの?」
「えっ。」
声がしたほうを見ると、いつの間に来ていたのか、6、7歳くらいの男の子がそばに立っていた。親は周りにはいないみたいだ。
その子はにぃっと笑って、一緒に遊ぼうと誘ってきた。
「君、お母さんとか友達はどこ?」
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
「えっ、ちょっ!ひとりだと危ないんじゃ…」
その子は手招きしながら、湖の北側に走ってゆく。なんとなく放ってもおけないので、走ってついていった。
その子は岩場の陰に消えた。
「……あれ?」
そこに子どもの姿はなかった。確かにここに来たはずなのに。
キョロキョロしていたら、散歩中の男性と目があったので、彼に子どもが来なかったかを聞いてみた。
「ああ、この辺りの子なら、抜け穴で遊んでいるんじゃないですか?」
「抜け穴って?」
「ほら、この岩場なんかは湖の引き潮で現れるんですよ。たぶんあちらの岩場に抜けられるんじゃないかな?」
「湖で…引き潮!?」
男性の指さしたほうに、似たような岩場があり、さっきの男の子らしい子どもの姿が見えた。岩場の中はトンネルのようになっているとのことで、よく子どもたちが遊んでいるようだと。
「もう少ししたら、あちらの島への道も現れたりしますよ。」
えっ、島へ歩いて渡れるのか?
その男性に詳しく聞いてみると、この辺りでは、一定の時間に水が引いて抜け穴が現れたり、他の島まで歩いて行ける道が現れるらしい。
「今までそんな話は聞いたことがないんですが…」
「ああ、ここ数年のことだと思いますよ。だからまだ他の国とかには伝わってないかもしれませんね。この辺りは静かに過ごしたい人が多いから、皆わざわざ知らせてないんじゃないかな?」
そう言って男性は去っていった。
俺はその場に佇んでいた。
湖に異変が起きている?
これはこの本のストーリーの強制力なのか?
「なあ…アド。もしかしてお前、これを俺に教えたくて、湖に行けばって言ったのか?」
『さあ?たまたまじゃないですか?』
「また、そうやってはぐらかす……」
俺にはよく分からなかった。これはアドの好意だったのか?それともストーリーの操作なのか?
俺は大きく息を吐いた。
今は考えても分からないし、アドも教えてはくれないだろうが、もしかしたら湖の中の島を移動してゆく方法は、船で渡る方法だけじゃなくて、地下にトンネルもあったりするんじゃないか?
『それよりも、せっかく来たんですから、魚釣りとか貝掘りに挑戦してみては?』
「そうだな、今日はせっかく気晴らしに来たんだ。釣り竿借りてきて、魚の塩焼きでもしてみるか。この辺りだと何が釣れるんだろうな。」
アドの呑気な提案に苦笑して、俺は元来た道を戻って行ったのだった。




