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今日のところはハクを帰すことにして、エルフと握手という衝撃にへたり込んでいたシャリーンが我に返ったところで俺たちは彼女の店に戻った。
明日旅立つと言うと、シャリーンが居住区の食料品店に案内してくれたので、そこでパンや干し肉等を補充した。もちろんハクにあげるためのくだものも大量にお買い上げだ。
彼女はここで買うのは、他の街より高いのに…とちょっと呆れ気味に苦笑していた。
聖女の加護を買ったことで、手持ちの資金はかなり減ってはいる。でもおかげで新たに装備を買う必要はないから、当面困るようなことはまず無いだろう。宝石がまだ有るので、それを換金すればいいことだ。
宝石と言えば、あの魔法陣入りの宝石の解析作業は進んでいるのだろうか?ユージン、皆とちゃんとやっていけてるかな?
シャリーンとスープの店に行って昼食を取りながら話をする。
これから湖に寄って、それからダルメル王国のオクハリに行く、という算段についてだ。
「湖?そういえば最近行ってないですね。今の季節なら気持ちいいと思いますよ。」
シャリーンはそう言って微笑んだ。
チャーションは世界の北側にあるので少し涼しい地域ではあるが、季節的には今は初夏だ。湖の辺りだとさらりとした気持ちいい風を感じることができるだろう。
「ああ、そうだろうな。チャーションに来る用事ってまずないからさ。だからこの辺りの岸辺にはまだ行ったことはないんだ。」
この世界には、4つの国に囲まれた広大な湖がある。アドに言わせると、琵琶湖の18倍ぐらいらしい。とにかく広すぎるってことは分かる。
宿に戻り、明日の朝出立することを伝え、部屋で荷物のチェックをして過ごした。
夜はシャリーンがご馳走してくれると言っていたので、彼女の店で待ち合わせ、チャーションの居住区エリアにある彼女の自宅に行くことになった。
エルフおたくの家だ、そんなグッズ?で溢れかえっていたらどうしよう…と怖い物見たさもあったが、普通にきちんと片付けられた、落ち着いた家だった。
聞いてみると、エルフに関するものは店の奥の事務所に置いてあるらしい。
「こんなもので恥ずかしいですけどね。」と彼女がテーブルに出してくれたのは、きのこの炊き込みご飯と小さな魚の開きを焼いたもの、根菜のサラダ、それにお吸い物のようなあっさりしたスープだった。
ここで炊き込みご飯なんて食べられるんだ!
そうか、シャリーンの出身はダルメル王国。米の生産が盛んなところだ。
「わ、このご飯美味い!シャリーンは料理が上手なんだな。」
きのこの旨味がよく出ているご飯をほおばりながらそう伝えると、シャリーンは「そんなそんな」と照れていた。
「親がね、実家から定期的に米を送ってくるんですよ。いくつになっても、まだまだ小さい子だと思われてるみたい。」
そう言いながらも嬉しそうだ。
そうだよな。俺の親も、いつまでも俺のことを子ども扱いしてくるんだ。俺だってさ、もうはたち超えてるのに。
そう言うと、シャリーンは目を丸くしていた。
「そういえば、まだそんなに若いのに、もうレベル30なんですよね!きっとエイトさんは子どもの頃から相当才能があったんだわ。」
……いや、単にこの本の勇者の設定がそういうことになってるだけなんでね。俺は単なる大学生。
「エイトさん。オクハリに行くなら、友達に渡すものを預けてもいいですか?」
「……エルフ関係の友達だろ。」
「当たり!」
へへ…と嬉しそうに笑う彼女。
「 ところで…シャリーンはムルーアに推し変するのか?」
ニヤニヤ笑って聞く俺に、瞬間顔を真っ赤にするシャリーン。
「えええそんな、白銀の王はもう殿堂入りでムルーアさんはそれとこれとは別で……もう!そんないじわる言わないでください!!」
動揺しまくって怒る彼女に爆笑する俺。
友人宛の荷物を預かり、明日の朝にでも食べて、と炊き込みご飯をおにぎりにしたものを貰った。
「エイトさん、また会いましょうね!」
元気に手を振るシャリーンに見送られながら、チャーションの静かな夜道を歩く俺だった。




