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「うぅーん!」
俺は起き上がり大きく伸びをした。
昨夜はアドに気持ちを吐き出せたことで、ちょっとすっきりしたかも。
よく考えたら、エルフの姫と聖女の加護の件を立て続けにやったんだし、そりゃ疲れも出るよな。
このギルド以外は何も無いようなチャーションに長居をしているから疲れているのかもしれない。ここでの用は終わったんだし、とっとと移動すれば良いんだよな。
よし!俺は両頬をぱちん!と叩いて気合いを入れた。
なんとか馬を手に入れて、湖にも行って、他の国に移動しよう!
ということで、とりあえず今日もギルドへ出向いた。もう経理局には用はないので、普通にギルドの窓口にだ。
「馬…ですか?そうですねぇ、この辺りでは難しいと思います。」
申し訳なさそうに言うマリーシェ。そう言うなら仕方がない、他を当たろう。と言っても、ここにはもうひとりしか知り合いがいない。
ということで、表通りのシャリーンの店に行ってみた。
「馬ですか?この都市は歩いてでもなんとか回れるので、街中で馬を使っている人はまず居ないし、クーリガルドに用があって馬で来た人はその馬で帰りますものね。」
こちらもハズレか。まあそうだろうな。
「そうか。じゃあやっぱり移動してから探すしかないか。悪い、じゃました。」
そう言って店を出ようとした時、シャリーンがいきなり叫んだ!
「あーーーーー!そうだ!!」
「うわっ!何いきなり大声出して!!」
驚く俺に、ずいっと顔を近づけるシャリーン。
近い、近すぎるってば!
「エイトさん、あれ出してください!この間の、白銀のエルフの王からいただいたというアイテム!」
その剣幕に驚きつつ、俺は先日王から貰ったアイテムを机の上に並べた。
指輪や腕輪が数個、短剣、鏡、スカーフみたいなものもあるな。帰り際にあれもこれもと渡してくれて、説明を聞く暇も無かったんだった。
シャリーンは彼女のエルフ語研究ノートを傍らに置き、それらをひとつひとつ確認し始めた。
「これだわ!」
彼女はひとつの指輪を取り上げた。
それは、俺には読めないエルフ語が周囲に刻まれた、なんだかゴツゴツして無骨な感じがするものだ。
「この指輪がどうしたんだ?」
シャリーンは興奮しながら話し始めた。
「エイトさん、この指輪をはめるとね。なんとユニコーンが呼べるのよ!」
「ユニコーン?…って、角が生えた馬のことか?なんかマンガで読んだことがある。」
「まんがって?いや、それはともかく、ユニコーンですよ、ユニコーン!エルフが乗る馬!!…ただし、この指輪に刻まれている説明によると、どうやら1日に1時間しか人間界に具現化できないみたいですけど。」
そのエルフ語ってトリセツなのかよ!?
それに、1日に1時間?何だそりゃ。まあでも居ないよりずっとマシだ。
それにしてもユニコーンか。
いかにもファンタジーで、なんだかドキドキしてきたな。
「よし、シャリーン。一緒に来てくれ!そのユニコーンを見てみようじゃないか!」
とりあえず、俺たちは街の外れにある森まで移動した。
ここは、先日俺を迎えに来たファイエルが、エルフの世界への入り口を開けていた場所に近い。なんだかそういう地点のほうが、この指輪を使うのに良い気がしたからだ。
「エイトさん。早く!早く!その指輪をはめてみてください!!」
興奮するシャリーンの目の前で、俺は恐る恐るそのゴツゴツした指輪をはめてみた。
すると目の前の空間がぐにゃりと歪み、その中から、何か白いものがぬうっと現れてくるのが見えた。
馬だ!ツノが生えている!
しかし…なんというか……デカい!足ぶっとい!
馬の背中までが、俺の身長くらいあるんだけど。
シャリーンもその大きさに、目を丸くして見つめている。
ユニコーンって、サラブレッド的なすらりと細い馬というイメージだったんだけど、この馬はなんというか……
これは、あの、あれだ!北海道にいるばん馬的な!
そのデカいユニコーンは、俺を見ると顔をすりすりして甘えてきた。顔がデカいから目も大きくて、たまらなく可愛げがある。シャリーンもそーっと手を伸ばして、反対側の顔をなでていた。
すると突然、ユニコーンの後ろ側からひとりのエルフが現れた。
あ!紅のエルフのムルーアじゃないか!ダンジョンで姫を探している時に、外の警備を担当していたやつだ。
「エイト殿。その指輪の波動に王が気づきまして。ちょっと説明に伺いました。」
にっこり笑うムルーア。それは助かるよ。普通の馬ならともかく、こんなサイズの馬は見るのも初めてで、さすがに扱い方が分からんからな。
エルフおたくのシャリーンは、彼を見て、顔が真っ赤になったまま固まってるけど。
俺はとりあえずシャリーンをそのまま放置して、ムルーアの説明を聞くことにしたのだ。
「このユニコーンの名前は『ダイハクリョク』と言います。呼ぶ時は『ハク』で大丈夫です。」
大迫力かよ、見た目のまんまじゃん。
「あなたは風魔法が使えると聞いておりますので、それで乗り降りしてください。一応手綱は付けておりますが、おとなしく優しい馬なので振り落とすようなことは致しません。」
ムルーアはハクのお腹の辺りをぽんぽん叩きながら言った。
「1時間という制限があるのは、とにかくよく食べるからです。人間界の草花を食べ尽くすと困りますからね。帰す時は指輪を抜くだけです。」
あ、ほんとだ。いつのまにやら、足元の草をもっしゃもっしゃ食べてる。
「ムルーア、ハクは草以外も食べたりする?」
「果物も好きですよ。喜びます。」
よっしゃ、なんか買っちゃおう。
ムルーアは俺の嬉しそうな顔を見て頷いていた。
「先日、あのダンジョンから姫を救出してくださった時には、疲労困憊のご様子でしたが、お元気になられて良かった。」
……いや、俺を疲労困憊にしたのは、ダンジョンじゃなくて、あんたたちのお姫様だよ。
「では、私はこれにて失礼します。何かございましたら、ハクを通じてお呼びください。」
「ああ。ありがとう、ムルーア。」
去って行こうとする彼に、ようやく硬直が解けたシャリーンが声をかけた。
「待って!いえ、お待ちください!」
「どうしました、お嬢さん?」
怪訝そうな顔をするムルーア。
「あああ、あの!私シャリーンと言います!握手してください!!」
「は……?」
何を言われたのかよく分からないといった様子のムルーアだったが、なるほど、というようにぽんっと手を叩いた。
「もしかして、エルフ語を解読して、エイト殿を手助けした方ですか。その節はありがとうございました。」
ムルーアは優雅にお辞儀をし、極上の笑みで手を差し出した。彼もエルフだ。輝くルビーの髪にその笑顔はもう犯罪だろう。
「あ……ありがとうございますっっ!!」
泣きながら両手でその手を握りしめるシャリーン。良かったな、エルフおたく。今日から推し変か?
彼が去った後、くたりと座り込んで宙を見つめながら「もう死んでもいい…」とかなんとか呟いている。怖いんですけど。
なんかホースセラピーみたいになっちゃったけど、1日1時間の相棒ができた。
「よろしくな、ハク。」
顔をなでると、ハクは嬉しそうに小さくいなないていた。




