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俺は聖女テレンツィアを見つめた。
えっと…どうしたらいいんだろう?
『ふふ、そんなに緊張しないでください。』
彼女の優しい声が頭の中に響く。
「す、すみません!なんか緊張しちゃって。」
思わず頭をかく俺。しっかり見抜かれている。
『大丈夫ですよ。エイトさん…でいいですよね?私のことはどうぞテレンツィアとお呼びください。』
にっこりと笑顔を浮かべる彼女。良い人のようだ…ってこれも筒抜けなんだっけ!
ひたすら焦る俺に彼女はニコニコしている。まあ、こういうことはよくあるんだろう。
『ところでエイトさんは、私の加護がどうしても必要なのだとお聞きしました。私の加護は国家級の強力な守護であること、それはご存知なのでしょうか。その理由を直接お聞きしたくて、来ていただきました。』
俺は彼女にそのまま伝えた。
火山島の呪われたドラゴンのこと。
そのドラゴンの解呪をする任務があること。
その為には、自分の防御をできるだけ上げておく必要があること。
「おそらく勝負は1回限りです。次のチャンスはありません。その為にはあなたの強力な加護が必要なのです。」
テレンツィアは黙って聞いていた。
しばらくして、彼女の声が頭の中に響いてきた。
『私には冒険者のことはよく分かりませんが、あなたがその任務をとても重要と考えていること。そして、達成の為に私の力が必要だということ。それはよく理解できました。』
「テレンツィア!じゃあ……」
『良いでしょう。私の加護をお与えします。』
やった!加護がもらえる!!
『では、エイトさん。あなたが持っている物を、あちらの床の上に全て並べてください。』
「え?全て、ですか?加護が欲しいもののリストはお渡ししてあるのですが?」
『知っています。でも、全て出してください。』
俺は彼女のいう通り、剣や防具、衣類やブーツも出した。
「あの…全部って、今着ているものは置かなくていいですよね?」
念の為に聞いてみた。
『ふふ、あなたが全裸でも私には見えませんよ。でもそれは着たままで大丈夫です。エイトさん、私をそこまで連れていっていただけますか?』
あーびっくりした。全部脱げと言われたらどうしようかと思った。そして、彼女の言う通りに、俺のものを並べたところに連れていった。
テレンツィアは床に座り込み、俺の剣や防具などひとつひとつに触れてゆく。
ちゃり…と音がなった。あ、プライムに貰った護符のアミュレットが彼女の手に触れたのか。
『これは、グラスミィング家のものですね。懐かしいわ。』
「え?それをご存知なのですか?」
『ええ、私の生家の近くに住んでいる貴族の紋章が刻まれているの。』
そうか、聖職者や聖女たちは元々このクーリガルドで生まれた訳ではない。神聖力の強い者として、世界中からここに集められているんだった。
テレンツィアはそのアミュレットをまるで眺めるようにしてから手の中に包みこみ、それから俺に差し出した。
『エイトさん。これには貴方を思う気持ちが込められているわ。必ず身につけておきなさい。』
「あ、はい。分かりました。」
俺はアミュレットを受け取り、首から下げて、シャツの下に収めた。
全て確認したのだろう。
テレンツィアは俺のほうに顔を向けて、床の持ち物を指さした。
『これとこれには、加護は必要ない。後は加護を付与しました。』
彼女が指さしたものは、旅用の雑多なアイテム一式や、元々違う加護の付与されていた銀の剣とエルフの黄金の短剣。
それ以外は全て付与したというのか!
「いやいや、それだと予算をオーバーするから!!」
さすがに慌てまくる俺。そんなの破産しちゃうぅぅ!
『大丈夫。私の決定に逆らう者などおりません。』
にっこり微笑んで言うテレンツィア。
『ただ…ひとつ気になるものがあります。これはなんですか?』
彼女が触れているのは、エルフのダンジョンで見つけた、あの何でも治してしまうという妙薬が入った黄金の壺。
あ…これってもしかしたら、彼女の目が見えたりするようになるんだろうか。俺のその考えを読み取ったのか、テレンツィアの眉がぴくりと上がった。
『目が…見える?』
「そうです、これには何でも治してしまう薬が入っているそうです。もしかしたらあなたの目とかも全て治るかも!」
テレンツィアは壺に触れたまま、固まったように動かなかったが、やがてそうっと手を離した。
『エイトさん、これはあなたが持っていてください。きっと旅の中で役に立ちます。』
「ええっ!でも、それを使えば……」
『私には必要ありません。もし、これを使って私の神聖力が消え失せるようなことになってしまったら……私はそのほうが怖いのです。』
テレンツィアは俺に、彼女を立ち上がらせるように促した。
『私はね、私のこの力は、自分の身体を神に差し出した代償ではないかと考えているの。』
彼女は俺の両手を握ったまま、念話を続けた。
『貴方には貴方の使命があるように、私にも私にしか出来ない使命がある。そうでしょう?』
「でも…でも、テレンツィアはそれでいいのか?」
『それが私の運命…貴方にはそれが分かるのでは?』
そう言って微笑む彼女。その笑顔には後悔はない。
「分かった。じゃあそうする。」
『エイトさん。貴方の旅の無事をお祈りします。』
テレンツィアはそう言って、片手を俺の頬に添え、そして反対側の頬に軽く唇を落とした。
「………!」
さすがに驚いて真っ赤になる俺に、くすくす笑うテレンツィア。
『優しいエイトさん。全て終わったら、また会いにきてくださいね。』
彼女は俺に床のものを全てしまうように言い、ターラントに話が終わったことを念話で伝えていた。
扉が閉まる前に振り返ると、テレンツィアは俺に手を振っていた。
また、会えるといいな。




