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翌朝9時に経理局の応接室で俺を待っていたのはラーキンだけではなかった。
ラーキンとともに居たのは、なんと、クーリガルド正教国の最高責任者であり聖職者のターラントだった。
「初めまして、勇者エイトですね。わたくしはターラントと申します。貴方のことはラーキンから聞いております。」
まさか、聖域の最高責任者が直々に現れるとは…その圧倒的な神聖力に気圧されながら、俺は彼に挨拶した。
「初めまして、ターラント様。よろしくお願いします。」
ラーキンは俺たちに応接室から出るように促し、ギルドの、更に奥の部屋へと案内した。
「ではターラント様。後はよろしくお願い致します。」
頭を深々と下げ、ラーキンは退室した。
ターラントはそんなラーキンを目で見送り、振り返って俺に微笑みかける。
「兄がお世話になっているようですね。貴方のことは、いつも感心したように話してくれます。」
不審げな顔をしたのだろう。ターラントはくすくす笑い言葉を続けた。
「ああ、彼は素直ではありませんでね。わたくしに対しても、ああした堅苦しいところがあります。本当は思いやりのある優しい人なのですよ。」
「そうなのですか。それだと嬉しいです。」
素直に答えた俺に微かに頷いて、ターラントは俺を部屋の中央へと促した。そこには転移用の魔法陣があった。
なるほど、これで彼は正教国の深部とチャーションを行き来しているのか。
俺たちは魔法陣の上に立ち、ターラントが転移の呪文を唱えた。
瞬間、俺は真っ白な部屋の中に居た。
ここがクーリガルド正教国か…エルフの国の神秘さとは違うが、ここも独特な穏やかな空気が流れている。
「エイトさん、こちらへ。」
ターラントの手招きに応じ、俺はクーリガルド正教国での一歩を踏み出した。
「ここは正教国の最も奥の場所となっております。それぞれの教会へは廻廊で繋がっておりますが、聖女テレンツィアの教会には特別な廻廊を通ります。」
ターラントに続いて高い天井を持つ白い廻廊を歩いていると、時々他の聖職者とすれ違う。彼らのゆったりしたアイボリーのローブを緩く締める帯は、青だったり緑だったりと様々だ。
俺の目線に気づいたターラントが言う。
「帯の色は所属の教会を表すものでしてね。ここには教会が10カ所あるものですから、それなりに人数が多く、所属が分かるようにしてあるのですよ。」
見るとターラントの帯は、銀糸で刺繍を施された金色のものだ。
「わたくしは本当は赤が好きなのです。子どもの頃は親から飴をもらうと、兄の分の赤い飴も欲しがって、よく兄を困らせていたくらいで。赤の帯を身につけられないのは本当に残念ですよ。」
「そうなんですね。じゃあ…下着を赤にしてみては?」
俺のその言葉を聞いたターラントは、目を丸くして大笑いした。
「はははっ!それは良いですね。今度兄に買ってきてもらいましょう。」
聖職者だけど気さくで、笑うと普通の青年っぽい。しかし弟の為に赤い下着を買いに行かされるラーキン…また睨まれそうだ。
「エイトさん、どうしました?我々もエルフみたいなものだと思っていましたか?」
「あ…はい。聖職者ってお高く止まってるもんだと思ってました。」
正直に答えると、ターラントは軽く頷いた。
「まあそうでしょうね。でも我々は高い神聖力を持って生まれた以外は、普通の人とそう変わらないのですよ。……まあ、テレンツィアは少し違いますが。」
えっ…と思った俺だが、ターラントはそのまま話を流した。
「食事だってそうです。エルフみたいに野菜や果物のみ食べていると思われていそうですが、ワインを飲んだり肉だって食べます。ソエキの肉だけですけどね。」
ソエキとは、別名神に捧げられたものと言われており、ある地方でのみ飼育されている。俺は味見させてもらったことはあるが、少し羊に似てるかな?というものだった。
「私はソエキを細かくしたものに刻んだ野菜を合わせて、小麦粉の皮で包んで焼いたものが好きなんですよ。」
ターラントの言葉に思考が停止する。
それって、まさか餃子じゃないのか!?
この世界には中華料理は無いと思っていたが、まさかこんなところにあるとは!?
俺の反応にターラントは「興味があるなら食べてみますか?」と言う。食べたい!もちろん食べたい!と凄い勢いでこくこく頷いた俺。
「では後で昼食をご一緒しましょう。今日の定食はソエキの包み焼きのはずです。」
は…定食?聖域で定食??
聖域のイメージが音を立てて崩れてゆく俺だった。




