page.56
ふたつめのダンジョン探索も、アドの選択肢でゲットした奇跡の妙薬だけで終わった。
最下層の7層目で、妙薬があった部屋を見つけたということは、選択肢の転移はそのダンジョン内に限られる…ということだな。
しかし、このふたつめのダンジョン探索を終えた時点で、人間界ではすでに半月が過ぎている。
やばい、早く最後のダンジョン探索を開始しないと。
俺は翌朝、最後になる、そのダンジョンに足を踏み入れた。
ざわり…と背中が気持ち悪い。
ここは今までのダンジョンと違って何かがいる…そう思わせる予感のようなものだ。
ふと、気がついた。
今までのふたつのダンジョンは、俺がいつも見るような、人間界にあるのと同じジメッとした岩壁だった。しかしこのダンジョンの内部には、上下左右に細い蔦のようなものが生えている。
…ここは今までのダンジョンとは全く別物だ。
バンシーもスライムも何故か全く現れない中、俺はランプで周りを照らしながら、ゆっくりと進んでいった。
このダンジョンは下にではなく、奥に深いのか?
進むにつれ蔦の数がじわじわと増えてゆく。サワサワ…と葉擦れのような音も聴こえるようだ。これは、未知の植物系のモンスターか?
俺はランプを足元に置き、リバーシブルのマントを裏返して、隠密行動用のダークな色にした。それからマジックバッグから鋼のロングソードを取り出し背負う。
そして、ランプは左手に持ち替えて先に進むことにした。
しばらく進んでゆくと太い蔦が集まり、まるで壁のようになっていた。その太い蔦は触手のようにウネウネ、ザワザワ動きながら、その道の先が見えないようびっしり覆い隠していた。
そうっと近づいて、その蔦に触れてみようとした。
瞬間、それはジャキッと音を立て、鋭く太いトゲが無数に飛び出してきた!
「うわっ!」
慌てて飛び下がる。これでは容易には近づけないな。
でももしかしたら、この奥にこそ、このモンスターに閉じ込められたエルフの姫がいるのかもしれない…
うーん、どうしたものか。
とりあえず、俺は地面にどっかと座りこみ、その太い蔦の壁をじっくりと見つめる。
あのトゲでは容易には近づけそうにないし、ロングソードで断ち切れるかどうか。銀の剣には退魔の力はあるが、どちらかと言えばゴーストやリッチに効果があるもので、植物のモンスターには効かないだろう。
「……あ!」
そうだ、あれがあった。
俺はマジックバッグから、エルフの黄金の短剣を取り出した。チャーションの鑑定士、シャリーンの言葉を思い出したのだ。
―『閉ざされしもの、その道を開けよ』。
この短剣を対象となるものにかざしながら言葉を唱える。すると、どんなものでも抵抗できずに開かれる―
……よし、試してみるか。
俺は立ち上がった。
短剣を握りしめ、蔦に向かってかざし、彼女に教えてもらったエルフの古代語を唱える。
「《サエル・タル・オルト・ニーヴァエ》!」
すると蔦はブルブルと震えだし、真ん中から退くようにウネウネと上下左右に別れていった。
すげー!ほんとにこんなのも開いたりするんだ!
その時、声が聞こえた。
「えー、見つかっちゃったの?」




