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ひとつめのダンジョンは、完全に空振りだった。
バンシーの巣…というより、死んだエルフたちの魂なのだろうか。ランプの光に照らし出される、美しく透き通るような姿のものが泣きながら浮遊していた。
呪われると厄介なので、俺はアマンダの店で購入しておいた厄除けのポーションを頭から振りかけておいた。ちょっとミントのような香りがして、虫よけスプレーを思い出す。
このダンジョンは階層が3つだけと少なく、丸一日程度で中を確認できた。しかし姫の姿も無ければ、なんのアイテムも見つからんのは、単に疲れただけだったわ。アドの選択肢も無かったし。
ダンジョンから出ると、紅のエルフが出迎えてくれ、俺に向けて清浄のような呪文を唱えていた。
あなたたちのダンジョン嫌いはそこまでなのかと…いや、まあいいんだけどさ。
リーダーのムルーアは、お疲れ様でしたと気軽に声をかけてくれる。ルビーのような髪を持つ紅のエルフの中でも、ひときわ明るい色に見えるな。
彼らと話してみると、エルフの中でも少しは人間に近い部分がある気がする。
戦闘を司る種族だから、血気盛んなところもあるようだし。ダンジョンから何か魔物が出てくるのを、少し楽しみにしているなんて言うやつもいた。
一緒に呑めたら楽しいかもだけど、そこはエルフだ。彼らは酒なんて呑まないしな。
俺たちは城へと戻り、アマルガリタに報告した。
彼女は俺を労い、ふたつめのダンジョンはまた明日以降にしようと食事に誘ってくれた。
彼女の執務室で机に広げられていたのは、あの退屈なチャーションで、唯一俺を虜にした店のスープだった。
「わ、アマルガリタ!俺がこれを好きなの知ってたの!?」
「ああ。あの店は良いだろ?あたしが店長にいろいろ教えてやったのさ。あたしはエルフだから果物と野菜の組み合わせの研究だが、人間は他のものとアレンジができるからね。」
あの子、ゆくゆくは世界にチェーン店を出すんだろうね、とアマルガリタは笑っていた。
味付けのシンプルなものがほとんどなこの世界で、このスープが行く先々にあるようになると助かるな。
彼女は野菜スープを飲みながら、カレー味やエスニック、定番のコーンを次々と制覇している俺を楽しげに眺めていた。
「ところでさ、エイト。あんたに聞きたいことがあるんだよ。」
スプーンを置き、真剣な顔をするアマルガリタ。
「あんたが我々の姫を探してくれるのは本当にありがたいと思ってる。ただ、それがあんたに取って何の利がある?あたしにゃ、あんたが何か大きな目的があってここに来た。そう思えてならないんだよ。」
さすが叡智を司る、蒼のエルフの長だ。この人をごまかすことなんて簡単にはできないだろう…しばらく迷ったが、彼女には話しておくことにした。
「アマルガリタ、確かに俺には目的がある。」
俺は火山島の呪われたドラゴンの話をした。俺はその呪いを解かなければならない。そのためには姫をパーティーメンバーにする必要がある、と。
彼女は俺の話を聞き終わると、腕を組み、しばらく無言だった。
「話は分かったよ。でも、なんであんたが会ったこともない我らの姫が、その攻略パーティーのメンバーと分かるんだい?」
ゔっ……
それはもっともな疑問。まさかこの世界がアドベンチャーゲームブックのストーリーで出来ていて、そのストーリー上パーティーを組むとは言えない。俺は固まったまま、答えられなかった。
アマルガリタはそんな俺を見て、ふぅ、とため息をつき、下を向き目をつぶって言った。
「まあいいさ。今は言えないんだろ。ただ、あの王や王妃が溺愛する姫を簡単に同行させるとは思わないことだよ。」
「ありがとう…アマルガリタ。」
彼女は顔を上げ、にぃっと笑って言った。
「あたしゃあんたを気にいってるからね。なんせ、道端でエルフを押し倒した上にさらっていった勇者なんて見たことないからさ。」
「あああ、それはもう言わないで!!!」
赤面した顔を慌てて隠す俺を見て、アマルガリタは爆笑していた。
ここに彼女が居てくれて良かった、そう思えた夜だった。




