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「1ヶ月後だ。」
ラーキンの声が無慈悲に響く。
聖女テレンツィアの加護を受けるには、それまで待てというのだ。
えええええ!1カ月後!?
こんな何もないところで、更に1カ月も待てというのか!?
さすがにショックを受けた俺の顔をニヤニヤと見ながら「精神修行の施設を紹介してやろうか?」というラーキン。そんな退屈なこと、絶対お断りだ。
とりあえず彼から予約票を受け取り、すごすごとギルドを後にする。
1ヶ月か…その間どうしようかな…一旦バルマス王国に戻ってみるか…と思いながら宿に戻ると、そこには客が待っていた。
「エイト殿。貴方がチャーションに着いたと伺いまして、お迎えにあがりました。」
そこに居たのは、以前ムユツミで出会った、白銀のエルフのファイエル。蒼のエルフの長、アマルガリタから連絡を受けて、俺を迎えに来たというのだ。
そういや俺の道中の宿は、全てアマルガリタが手配していたんだ。滞在について、当然彼女は把握しているよな。
しかし……この都合良すぎるタイミング。これは、この本の強制力が働いたに違いない。
ま、こんな何もないところで1カ月も待たされるのは御免だし、大歓迎だよ。
「ファイエル!久しぶりだな。また会えて嬉しいよ。ひとりで来たのか?」
「ええ。アマルガリタ殿は来ておりません。たかが迎えにエルフがぞろぞろ来たら何事かと思われますからね。」
にっこり微笑むファイエル。
それにしても、相変わらず美少女と見紛うほどの美貌を持つ彼に見つめられると、男と分かっていても耳の端が熱くなる。白銀のエルフは皆、こんな美形揃いなんだろうか。
「勇者エイト、王が貴方をお待ちです。さっそくですが我々の元へ来ていただけますでしょうか。」
荷物取ってくるからと彼に待っていてもらい、しばらく留守にするとラーキンに伝えるよう、宿の人にお願いした。
ファイエルと俺は、この都市の西の外れまでゆっくりと歩いていった。あまり外界に出向くことはないから…と彼は物珍しそうに周りを見回している。
全てのエルフを統べる存在である、高貴な白銀のエルフのひとりだ。そりゃ、おいそれと出歩くわけがない。今回も特例ってことか。
やがて外れにある森の近くまで来ると、ファイエルは立ちどまった。彼の口から紡がれるのは、美しく繊細な旋律。
途端に景色が一変した。
目の前には先程のうっそうとした森ではなく、まるで入れ替わるように、針葉樹を思わせる背の高い木々が周りにゆらりと現れ、清涼な空気が俺を包んでゆく。
遠くに聴こえる鳥の声も、なんとなく違うもののようだ。
「……ここがエルフの国なのか……」
「そうです。人間をお招きするのはめったにないことですけどね。」
確かにこれでは人間が勝手に入ることはできないな。
ファイエルが歩くと、木々が、草花が、まるで敬礼するかのように彼の前を開けてゆく。
その彼の歩みに合わせて、俺もゆっくりついていった。
「静かだな…誰も居ないのか?」
ファイエルに尋ねると、彼は振り返って、笑みを浮かべながら答えてくれた。
「今は、朝ですからね…皆、朝露を集めに行っているのでしょう。」
「朝?お前と会った時は昼過ぎだったけど?」
「そうでしたか。我々は人間とは時間の流れが違いますからね。」
ということは、もしここで1カ月過ごしたりしたら、戻った時には何年も過ぎていることになるのかもな…これは気をつけないと。
彼の後を静かに歩いていくうちに、やがて白亜の城が見えてきた。あそこにエルフの王がいるのか。
見たこともない繊細な細工が施された大きな門にファイエルが手をかざすと、それは音もなく内側へと開いてゆく。そこに居たエルフに何かを確認すると、彼は振り返って俺に告げた。
「エイト殿、ようこそ我らの城へ。王は応接間でお待ちです。」




