↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/178

page.47

「おお、私を呼び出すなど、どなたかと思えば勇者エイトではありませんか。経理局へは一体全体何のご用事がお有りで?」


目の前で嫌味たっぷりに話しているこの男は、チャーションにある経理局の上級ギルド職員であるラーキンだ。


チャーションはクーリガルド正教国唯一の都市だ。

そしてクーリガルド正教国というのは、実際は国ではない。この世界の教会が一カ所に寄り集まった場所である。


そこに居るのは聖職者と聖女たち。

彼らは常に、世界の平和のために祈りを続けている。


とはいえ、彼らも人間だ。もちろん祈るだけでは食べてはいけない。今回のように守りの加護が必要な人々から、その対価として『寄付金』を受け取っているのだ。


その寄付金を直接管理するのが、チャーションの冒険者ギルド内に設置されているこの経理局だ。加護を求める人々はまず経理局に寄付金を納め、職員が教会を手配する。


確かにいい考えだ。ギルド内の施設でのやりとりなら防犯上安全だし、聖職者ともあろうものが直接に「代金払ってくれ」とはとても言えないからな。



ラーキンが俺を嫌っているのは、前にここに来た時「聖職者なら無償でやってもいいんじゃないか?」と、至極まっとうな意見を言ったからだ。

あの時ラーキンは俺をここから文字通り蹴り出した。この真面目な中年男があそこまで怒ったのは初めてだったらしい。…というのが、俺の中にある勇者の記憶だ。


「ああ、今回は加護を買いに来たんだ。」


そんなことはまるで無かったかのように、俺はラーキンに切り出した。


「…ええと、私の聞き間違いでしょうかね?あなたが加護を『買う』?また、無償でとか言うんじゃないでしょうね?」


きりりとしたオールバックに、かけた眼鏡をくいっと上げて威圧的に言うラーキン。これ以上自分の貴重な時間を奪うならとっとと出ていけと、その全身で訴えている。


「ラーキン。話を聞いてくれないなら他のやつに代わってくれ。でも、これは貴方にしかできないことなんだ。」


以前とは違い、真剣な顔をし神妙に言う俺に、彼はほんの少し態度を軟化させた。


「分かりました、勇者エイト。奥の部屋へどうぞ。」



経理局専用の応接室に通され、お茶を淹れてくれたメイドが退室し、ラーキンが話しだした。


「で、勇者エイト。俺に頼みたいことって何だ。」


ソファに深くもたれかかり、いきなり砕けた態度になるラーキン。人目がないとこういうやつなのか。不信感丸出しだが、まあ話がしやすくていい。


「実は、俺は『呪われたドラゴン』攻略を控えている。」


ラーキンは眉をぴくりと上げた。


「…火山島のか?あれは伝説だろう。」


「いや、本当のことだ。俺はそのドラゴンの呪いを解かなければならない。そのために、最高級の加護が欲しい。ラーキン、貴方なら聖女テレンツィアの加護の手配ができるだろう?」


聖女テレンツィアは聖域の奥深くにおり、個人には滅多に加護を与えることはないという。しかし、半永久的で強力なものと聞く彼女の加護でなければ、このクエストを達成することはできない。


ラーキンは身体を起こし、呆れたように片腕を振り上げた。


「誰にそんなデマ聞いたんだ。一介の職員の俺にそんなことできるわけ無いだろう!」


俺は彼を見つめて静かに言う。


「いや、貴方ならできるはずだ。貴方はターラント様の兄なんだろう?」


ターラントとは、聖域の最高責任者である聖職者。聖なる力を持たなかったラーキンは、弟の補佐をする道を志し、経理局で勤務をしている。

これは以前、経理局の職員とチャーション唯一の酒場で呑んでいたとき、うっかりその人が口を滑らせたのだ。


ラーキンは俺を見つめしばらく無言だったが、ため息をついて視線を斜め下へと逸らし、ぽつりと「…高くつくぞ?」と言った。


「たぶん足りるくらいはある。」と答える俺。


ラーキンは天を仰ぐようにしてから頭を振り、しばらく考えてからこう言った。


「経理局の手順としては、加護については教会ごとの相見積もりを作ることになっている。それを見て、どの教会になら払えるかを決めてもらおう。不公平があってはいかんからな。」


「分かった。」


俺は受け取ったチェックリストに書き込んでいった。後からその装備に加護は不要ということになれば、その分は金額から引いてもらえる明朗会計だ。


ラーキンはそのリストを眺めて、後ほど宿に連絡すると言った。

俺は彼によろしく頼むと言い、応接室を後にしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。