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またたく間にガザール滞在の4日目の朝になった。
昨日は食料の買い出しに行き、ブシュタールでは品切れだった米を入手し、あとチーズを数種と干し肉の追加に加え、日持ちするソーセージなんかも買った。これで旅の間もチーズを食べられる。
バンシルまでは馬車で10日の道程だ。
途中で村がある場合はそこに立ち寄り、宿泊も可能な場合もあるが、こうした乗り合い馬車での旅では、めいめい野宿可能な支度が必須なのが常識だ。
ドルマと待ち合わせしている馬車乗り場へ行くと、遠目でも分かる大柄な彼の姿があった。
「おーい、ドルマ。すまん、待たせたか?」
「いや、エイト。こちらも今来たところさ。」
ドルマの傍らには、ちょっと緊張した顔の小柄な女の子がいる。15歳くらいだろうか、分厚い眼鏡と肩より少し長い三つ編みが学生っぽく見えるな。
「この子はミンディといって、バンシルに住む従兄弟の子でな。勉強に使用する教材を取りにこちらに来てたんだ。俺が馬で送って行くつもりが、しばらく休みが取れなくてさ。よろしく頼むわ。」
ミンディはこちらを見て「よろしくお願いします。」と硬い声で言った。まあ知らない男と旅だと不安になるよな。
俺は明るくミンディに挨拶した。
「初めまして、ミンディ。俺は勇者のエイトだ。よろしく。」
握手しようと手を出すが、向こうからは手を出すそぶりは無い。
ドルマは苦笑しながら、ちょっと人見知りなところがある子なんだと言う。道中少しでもリラックスしてくれるとよいのだけど。
この乗り合い馬車は、20名くらいは楽に乗れる大型のものだ。そのほぼ満席の馬車に俺たちは乗りこんで、見送るドルマに大きく手を振った。
馬車はゴトゴト音を立て、心地よい揺れを感じながら進んでゆく。
ちなみにこの馬車に乗り合わせたのは、クーリガルドに加護を買いに行くような目的の人ではなく、買い出しや親類に会いに行くというような感じ。
だから途中の村で降りたり、逆に乗ってくる人もいた。
なんとなく、通学で利用していた路線バスみたいだ。
俺とミンディはポツポツ話をしていた。
彼女はバンシルに家族と住んでいて、専門学校のようなところで治癒士を目指して勉強中らしい。
それで、まだバンシルには入ってきていない教本を入手するために、国の中央部により近いガザールの親類のところに来ていたということだ。
治癒士とは、言うなれば医者だ。
魔法と実際の治療を融合させ、どんな病も根治させる努力をしている。とても立派な仕事だ。
仕事の専門性が高く、何より覚えることが多岐に渡るため、途中で諦めてしまう者も多いと聞く。
それをそのまま伝えると、ミンディの顔が輝いた。
「そうなの!そーなのよ!」
治癒士の勉強がいかに難しいかを、ガザールで買ったという本を俺に見せながら熱っぽく語る彼女。
どうやら打ち解けてくれたらしい。良かった、これでお互い居心地悪い旅にはならなさそうだ。
問題は野宿の時だな…さすがにひとつテントの中で寝るのは気まずいだろうとそれを話すと、彼女は自分用のはあるから大丈夫とのこと。
後でやたらと派手にデコられた、10代女子のノリの可愛らしいテントを見て、ちょっと引いたのは秘密だ。
野宿の夜には、他の旅人と一緒に持ち寄りで飯食ったりしてた。
焚き火を囲んでアコースティックギターみたいな楽器を鳴らす人の演奏が始まると、合わせて歌いだしたり、弾けるように踊りだす人がいたりして、老若男女問わず賑やかに楽しく過ごした。
一芸披露大会の強制参加みたいなノリには参ったが、とにかく笑って笑ってお腹が痛くなるくらいだった。
ほんとにここは本の中の世界なのか?
あまりに生き生きとした皆の雰囲気に、そのことを忘れてしまいそうになる。
途中の道にはたまに野獣も現れたので、俺がさっくり倒しておいた。すると移動で退屈な昼間は、皆、俺の冒険の話を聞きたがるようになった。
当たり障りのないようなのを選んで話をする。
魔獣の首を切り飛ばし、腹を切り裂いて魔石を取り出した話なんかしたところで食欲減退するか、悪夢にうなされるだけだからな。
まあ、ほんとは俺の中の勇者の記憶にあるもので、実際に俺がやったわけじゃないんだけどね。
そうこうするうちに、楽しく過ごした馬車の旅は終わりに近づき、遠くにバンシルの門が見えてきたのだった。




