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久しぶりに呑み過ぎた俺は、二日酔いのせいでなかなかベッドから起き上がれなかった。
もともとそう呑めるほうじゃないのに、ひとり旅の孤独の反動と―まあ脳内にアドがいるんだが―、久しぶりのドルマとの話が楽しすぎたからだ。
よっこらしょと、重い体をなんとか起こし、酔いざましにぐいっと水を一杯飲み干す。
さあ今日は、武器屋に剣を磨いてもらいに行かねば。
ここまでの旅の間は、ブシュタールで王から下賜された銀の剣ではなく、以前買った鋼のロングソードで、たまに現れる野獣や魔獣を倒していた。
だってなんかもったいないし、銀の剣に込められている退魔の力を使う必要は無かったからだ。
そのロングソードの磨き上げや、防具屋で防具のメンテナンスもしてもらいに行く。
長旅をするにあたって、それらのこまめなメンテナンスは重要だ。俺の気づかない刃こぼれや、防具に傷がついているかもしれない。
俺は勇者レベル30だが、それだからこそ油断は禁物なのだ。
…と、俺の中の勇者の記憶が言っている。
「へえ、この胸当てはなかなか良いものだねぇ。」
防具屋のチャムがそれを手に持ち、ひっくり返したりして見ている。ふふん、そのミスリルまじりの胸当ては、軽い衝撃などものともしない逸品なのだ。
「チャムさん、これに加護ってかけてもらうことはできるのかな?」
エルフの国に行く前にクーリガルドに立ち寄るのは、俺の武器や防具に加護をかけてもらう為だ。ドラゴン攻略時のために、できればこの胸当ての強度もアップしておきたい。
「あーそれは問題ないと思うよ。これには特に変な癖は無さそうだから。こういうのって買い取った時に、たまに呪いの残滓があったりするんだよねぇ。」
笑顔でちょっと怖いことを言うチャム。
「ダンジョンで持ち帰った防具なんかには、前の持ち主の思念や、ゴーストが憑いていたりしてさ。困るよね、あはは。」
…この胸当てが掘り出し物価格だったのはそのせいかも……いやまあ、彼がなんともない物だっていうならきっと違うんだろう。うん。
自分を納得させながら、店内を見回してみる。
何か良いものないかな。
『エイト、ここに呪いの歯ブラシがありますよ。磨いたそばから歯が抜け落ちていくって』
また、変なアイテムを見つけては楽しげに騒ぐアド。俺に買わせようとするの、ほんとやめて欲しい。
でも見かけは普通の歯ブラシだよな…とまじまじ見てみる。
「あー、それ?それこそダンジョンからの持ち帰り品だよ。面白いから買い取ったけど、なかなか売れないわ。安くしとくから、ね、買わない?」
楽しそうに笑いながら言うチャムに、俺は引きつった笑顔を返しておいた。ここはダンジョンの面白グッズ屋か?
また変なもの見つけたら持ってくるよ、と俺は苦笑しながらチャムの店を後にした。
あ、そうだ。ダンジョンのアイテムと言えばあれがあったんだ。
ふと思いだした俺は、その足で鑑定屋を訪ねることにした。アドの選択肢で発見した古びたコインと黄金の短剣。それらがどういったものか見てもらうためだ。
ダンジョンアイテム鑑定が専門のアルゴン爺さんの店は、確か通りの一本向こうだったな。まだ生きてるかな。
「おや、エイトじゃないか。久しぶりじゃの。元気でやっておったかな。」
アルゴンは俺を見て相好を崩し、俺の腕をぽんぽん叩いて迎えてくれた。お茶を淹れてくれる爺さんを見ながら、かなり歳を取ったもんだと思う。
さっそくコインと短剣を見てもらう。
アルゴンはにわかに真剣な眼差しになり、まずコインを手に取る。
彼はこの道60年のプロ中のプロだ。最近の鑑定士は魔道グラスを使ったりするが、アルゴンは、その眼鏡の奥で光る目と、長年の相棒である普通の大きな虫眼鏡のみで鑑定をしている。
彼は次に短剣を手にとり、鞘から出して刀身を見たり、柄の紋様や細工を子細に確認してゆく。
やがて、彼は深くため息をついて、鋭く俺を見た。
「エイトや…お前はまた凄い物を持ち込んだもんじゃな。」
「爺さん、何か分かったのか?」
尋ねる俺に、アルゴンは机の上のコインと短剣をちらりと見てから、俺をまっすぐ見据える。
「まずこのコインは、おそらく300年以上前のドワーフのものじゃろうな。お前も知っている通り、今はドワーフも我らと同じ通貨を使用しておるが、これはその前のドワーフが最も栄えていた時代のものだと思う。まあ詳しく調べる必要はあるじゃろうが。」
ひと息つき、また語り出す。
「この黄金の短剣はおそらくエルフのものじゃ。」
そして、刀身の表面を指先で示す。
「ほら、刀身のここに、旧きエルフ語と思われる言葉の綴りがある。今のエルフ語と似通っているところもあるが、これはワシには読めん。何かの護符かもしれんの。」
アルゴンは、彼の言葉に思わず息を呑む俺に、にっこりと笑みを向けた。
「こんな貴重な品々を手に入れたお前は、まこと天に愛されているかもしれんの。まあ、この短剣についてはチャーションの鑑定士に見てもらうがよかろう。あそこはエルフの文化に詳しいでの。」
「ああ…爺さんありがとう。そうするよ。」
俺はそう言って、アルゴンにそのドワーフのコインを手渡した。彼は恐縮していたが、まだ他に20枚近くあるしな。
「爺さんの鑑定研究に役立ててくれればいいよ。また何か分かったか聞きにくるから、それまで預かってといて。」
そう言いウインクする俺に、ニヤリと笑うアルゴン。
「まったく…お前は相変わらずこの年寄りをこき使うつもりじゃな。」
俺は鑑定料を机に置いて、また来るよとアルゴンの店を後にしたのだった。




