page.38
コボルトのいる洞窟で、俺は夕食を作り始めた。
野宿ではなく、久しぶりの屋内だからいつもと違うものにする。
干し肉をほぐし、パスタを茹でながらその湯で乾燥野菜を戻し、お湯を切ってから全部フライパンに入れてラードで炒める。塩と胡椒で味を整えて、焼きパスタの完成だ。
コボルトには干し肉をそのまま与えた。子どもたちの持ってくるおやつくらいしか食べていなかったので、久しぶりの肉の味にとても嬉しそう。尻尾振りながらガリガリ食ってるのが可愛い。
コボルトによると、ここは相当昔に放棄されたダンジョンであるとのこと。子どもたちに連れ込まれた時に、危ないからこのスペースから下に降りる道は塞いでおいたらしい。
ということは、あの矢が飛んでくる部屋は、このダンジョンの下層のどこかにあるということか。
コボルトが塞いでおいてくれて良かった。ファインプレーだな。
食事が済んで、ゴロゴロしつつ毛づくろいしているコボルトに、上には来ないよう伝えた。
そして、俺は選択肢が発生した、洞窟入り口から入ったすぐのあの場所に立ち、アドに声をかけた。
「なあ、アド。今日の選択肢で行かなかったページに、今から行くことってできたりする?」
『別に構いませんよ。罠のページが71ページのひとつだけとは限りませんけど』
「おい、怖いこというなよ。」
『じゃあ始めますよ。さてエイト、あなたはアドベンチャーゲームブックのページを選択し、先に進まなければなりません。どれを選びますか?』
いつもの賑やかな口上はされず、空中にスクリーンが浮かび、選択肢が表示された。
―25ページへすすむ→
―42ページへすすむ→
―71ページへすすむ→
25ページは単に行き止まり。42ページには黄金の短剣がある部屋があった。
なるほど、毎回こうやって行き先のパターンを見ておくのもいいかもな。もちろん先に当たりが出れば、罠のページには絶対にいかないけど。
「サンキュー、アド。お前、良いところもあるんだな。」
『まさか〜、良いところしかありませんよ。ふふっ』
……どの口が言う。
『……まあ、エイトに必要なことではありますしね』
「ああ、選択肢をやらないと、ストーリーを進めることはできないってことだろ?」
『そういうことです』
うーん、やっぱりアドは何か隠してるよな。俺が聞いても分からないことかも知れないけど。
「なあ…アド。これから何年かかったとしても、このストーリーのクエストを全て終えたら、俺はお前に引き込まれたあの図書館の時間に戻る。それは間違いないな?」
『間違いありませんよ、約束ですから。あら?もしかしてエイトは、この私と何年も一緒に居たくなったのですか〜?』
からかうように言うアドに、俺は肩をすくめて伝えた。
「そうではないけど、頼りにしてる。こんな訳の分からない世界で、さらに訳の分からないお前だけど、くだらないこと言い合ってると安心できるんだ。だから、これからもよろしく頼むよ。」
『……………………』
無言のアド。なんとなく、熱を感じる沈黙。
「あっれ〜〜〜、アドさん、もしかして照れちゃった?」
からかい返しをした俺。でも頼りにしているのはほんとだ。
『照れてません。これは私のお仕事なので』
なんとなく、アドのその言葉の中に動揺を感じた。
本まで動揺するとは、ほんとに変な世界だな。
さて、俺はそろそろ寝ようかと、コボルトの居る部屋に戻ってゆくのだった。




