page.37
アドベンチャーゲームブックの理不尽極まりなさに腹を立てつつも、次の選択肢を選ばなければならない。
なんとか怒りをおさめ、25ページか42ページかを悩む俺。
「勇者エイト、こちら側に降りる階段みたいなものがありましたよ!」
声のする右側を見ると、壁際の裂け目のようなところから体を半分覗かせ、手を振ってくるアルマスの姿。
えっ…そんなのあり?
とりあえず、アルマスのいる方へ向かうと確かに階段がある。
「なあ…行ってみてもいいのか?」
アドにこっそり聞いてみると、アドはこともなげに答える。
『まあ、別にいいんじゃないですか?』
相変わらずの投げやりな答え。必ずしも正しい選択肢を選ぶ必要はないということなのか?まあ今は悩む時間も無い。
アルマスと合流し、下を覗いてみる。
ここにもヒカリゴケがあるようで視界は悪くない。
「アルマス、気をつけろよ。何が出てくるか分からないんだぞ。」
「ふっ、勇者エイト。このアルマスも勇者なのですよ。恐るるものなぞ何もなし!」
胸を張り、自信たっぷりに言い放つアルマス。いや…お前ダンジョン初めてなんだろ?その自信はいったいどこから。
……まあいい、とりあえず降りてみよう。
俺が先に立ち、その階段を降りている途中、下から何やら賑やかな音?声?が聞こえてきた。
降りきってしまうと、そこは割と広めのスペースとなっており、子どもが3人と……あれはもしや、コボルト!?
「誰!?ワンちゃんはいないよ!」
10歳くらいの、一番年上に見える男の子が俺たちを見て叫び、年下らしいふたりはそのコボルトを背後に隠すようにした。
一体どういうことなんだ?
俺は彼らの背後にいるコボルトを見た。確かにヨークシャテリアの子犬のように見える外見だが、あれはコボルトというれっきとしたモンスターだぞ。
アルマスは「わあ、可愛いワンちゃんだね〜。」と満面の笑顔で子どもたちに言っている。
アルマスお前…もしかしてコボルトも知らんのか。
しかしそんなアルマスの様子に安心したのか、子どもたちは俺たちに対して警戒を解いたようだ。
近隣の村に住む彼らは、しばらく前にこのワンちゃん(コボルト)を見つけて家に連れて帰った。でも母親に犬なんて飼えませんよと言われて、隠れ家として遊んでいたここに匿っているとのこと。
俺は不審に思いつつ、コボルトに目を向けた。
そのコボルトは目で何か訴えてくる。俺に話があるようだ。
とりあえず、俺は子どもたちに、遅くなる前に家に帰るようにと話した。アルマスが送って行くと言い、子どもたちと手を繋いで去ってゆくアルマス。
その天然極まりない勇者の背中に向かい、幸あれと適当に祈っておいた。
俺は下のスペースに戻り、コボルトの前に座り込む。確かに黙っていたら茶色のヨークシャテリアの子犬だな。
「お前、どういうつもりだ。犬のふりなんかして。」
コボルトは顔をぶんぶん横に振って話しだした。
「どうもこうも。移動中に群れからはぐれたところをマイサにとっ捕まったんだよ。あ、マイサってのはあの一番小さな女の子な。俺を犬だと思い込んで、喜んで遊ぼうとしてさ。」
あー…小さい子どもには、確かに犬としか思えないよな。俺は愛くるしいそのコボルトの姿を見ながら溜息をつく。
そろそろ群れを探そうと外に出た時にマイサに見つかり、連れ戻されたとのことだ。俺たちが悲鳴だと思ったのは、彼女の「だめーーーー!」という声だったのだ。
「自分たちが我慢したおやつや、貯めたお小遣いでお菓子買ってきたりするんですよ…なんか無下にはできなくて…」
溜息をつきながらコボルトが言う。
「ねえ、旦那。こっそり俺を逃がしてくれないですかね?」
「ええっ嫌だよ。今お前が逃げたりしたら、あの子たちに俺が一生恨まれる。」
うーん、とふたりで悩む。
あ、そうだ。
「なあお前、バイトしないか?」
「バイト?…なんです?それは。」
怪訝そうな顔のコボルトに、俺はマジックバッグから取り出した宝石を5つ手渡す。
「お前たちコボルトはキラキラしたものが好きだろ?これでしばらく子どもたちの相手をしていてくれ。次のギルドで、お前を逃がすよう話しておいてやるから。」
「ええっ。まあ、それなら良いですけど。でも、ギルドの冒険者に退治されたりしませんかぁ?」
「大丈夫だ。お前が子どもたちを優しく相手していたと言っておくから。俺は勇者だから信用あるし、安全は保証してやるよ。」
俺とコボルトの交渉は成立した。
そして、今夜はついでにここに泊まることにしたのだった。




