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エミルは俺に見せたいものがあるという。
「でも僕のは後でいいよ。先にエイトの買い物に行こうよ。」
ということで、今日はまず、アマンダの店でポーションを物色することからスタート。
薬屋街にあるアマンダの店―ここの店主のアマンダは腕の良い薬師だ。おまけにスタイル良き美人とくれば、彼女のファンの客が多いのも頷ける。
「あらぁ、エイトさんじゃない。お久しぶりねぇ。」
いつものように妖艶な笑みを向けてくるアマンダ。しかし、うっかりこの笑顔に騙されてはいけない。
「うふ、また良いものできたのよぉ。これは100時間起きていられる眠気覚まし。こちらは120時間戦える体力回復用のものよぉ。」
……こういう風なとんでもないものを、まったく悪気なく勧めてくる。
『エイト…もしやこのお店は社畜御用達とか?』
きょとんとした感じで言うアド。
いや、さらっと社畜言うな。
「僕、これ欲しいなー。課題をやらなきゃいけない時に使えそう。」
……エミル、お前もか。
俺はどちらも断って、アマンダ製の上級ポーションを大量に購入した。
お・ま・け♪といってさっきのヤバいポーションを、こっそり紛れこませようとしたので突き返しておいた。
俺はそんなゾンビみたいになりたくねぇ。
次に保存食を大量に購入だ。
マジックバッグは食料の常温保存が可なので、パン数種、パスタみたいな乾麺、干し肉、乾燥野菜やらをがばっとまとめ買いした。
この地方ではほとんど米の取り扱いが無く、物流自体が滞ってる今は入手できず残念。
あと、この食料品店では、なんと調味料もいろいろ購入できるのだ!
まあ高いんだけどね。
でもさ、この世界は味つけの薄い料理が多いから、どうしても味の変化って欲しくなるんだ。
昼になったので、エミルがよく行くという店のランチにした。今日のお勧めは魚介のスープスパみたいなものでなかなか美味い。そういや魚はしばらく食べていなかった気がする。
その後、防具屋へ行く。
肘当てや膝当てを買うためだ。
エミルは服と防具の関係に興味津々で、店員と楽しげに長々と話し込んでいた。
すっかり仲良くなった彼らのお勧めで、軽くて動きやすいものが入手できた。特にこの幅広の腰当ては持っとくべき!と力説されたり。
ふぅ、これでだいたい、旅の準備はできたかな。
いつのまにか夕方近くになったところで、エミルの家に誘われた。
初めて来たけど、一部屋にキッチンのスペースがある、1Kのアパートみたいなところだな。
もともと彼は、この国より南にある、フィルマルト王国の出身。
服飾士になるため、ここブシュタールにある専門の施設で学び、服屋でバイトして学費を稼ぎながら、実地の勉強もしているのだ。
「うわ、すっげ!」
さほど広くもない部屋の中には、大きなミシンと裁縫道具のBOXが5つほど。机やベッドはすみっこに追いやられて所在なげだ。
壁には埋め尽くされるほどのデッサンが貼り付けられ、試作みたいな物もハンガーにいくつか掛けられている。
驚いている俺にエミルは、服飾士目指している人の部屋はだいたいこんなもんだよと笑ってみせる。
そうなのか?俺にはこんなマジメ無理。
「エイト、ちょっとこれ着てみて。」
エミルが差し出してきたのは、まさか…これって……
「こないだエイトが店に来た時、こんな感じの服はない?って言ってたからさ。面白そうって思って試作してみた。」
「すげーなエミル!話聞いただけでこんなの作れるのかよ!」
「なんかエイトが詳しく言ってたからさー。ちょっとやってみようかなと思って。」
そこにあったのは、まさにフード付きの長袖パーカー。
やはり着慣れた物が欲しくて、先日エミルにこんな感じのものは無い?と説明をしていたのだ。
しかし、ちょっとどころでは無い、仮縫いだけど完璧にグレーのパーカーじゃん!
それをはおった俺の周りをくるくる回っているエミル。
「うーん、ここがちょっと突っ張ってるかなー。」
一旦脱がせて何やら確認している。
はー、こんなの作れるってほんと凄い。
エミルはにっこり笑って、今夜か明日中には完成させるねという。
「いやいや、お前いつも忙しいだろ!」
「こんな新しいアイディア試せるんだもん。もう楽しくてさぁ。」
くれるなら布と糸代だけでいいというエミルに、他にも何かお礼をしなきゃと説得する。
「うーん…じゃあさ、何か冒険に使ってて、もう使わないものってない?」
「そうだなぁ……今はちょっと錆びた短剣があるくらいか。」
「あ、それいい。それ頂戴。冒険者ってこういうの持ってるんだと思うとさ、どんなものを併せて着てもらおうかって思うじゃない?いつでも見られるように飾っておきたいんだ。」
そう言って、エミルは俺から短剣を受け取り、満足そうにうんうんと言いながら、それをデスクの上に立てるように置いていた。
とりあえず俺はエミルと明後日また会う約束をし、夕闇迫る中、なんだかうきうきとホテルへの帰路についたのだった。




