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「ユージン、折り入って相談があるんだ。」
離れの部屋の主になった彼と向かい合わせに座り、俺は話を切り出した。
「相談?先日のエルフの件でしょうか。」
ユージンは不思議そうな顔をする。
行方不明のエルフの姫についてなら、俺の旅には同行できないと先日話をしたばかりだ。
「いや、エルフのことじゃない。多分、話に聞いたことくらいはあるだろう…呪われたドラゴンのことだ。」
もちろん全く予想外の内容だろう。ユージンは真剣な俺の様子に訝しげに眉をひそめる。
「もしかして、あの伝説の『火山島の呪われしドラゴン』のことでしょうか?以前本で読んだことならありますが。確か…遥かな昔、竜騎士が魔族の魔道士の呪いでドラゴンに姿を変えられ、その島に封じられているという…」
「そう、それだ。俺はそのドラゴンの呪いを解かなければならないんだ。」
…ならないというよりは、嫌でもやらされるだけなんだが。
俺の言葉にユージンは腕を組み、椅子に深くもたれかかりながら天を仰ぐようにして考えこむ。
「エイトさん…それは難題ですよ。呪いを解くだけならともかく、ドラゴンには恐ろしい爪や強大なドラゴンブレスがあります。一体どうやってそれを防ぐというのですか?」
「呪いを解くだけなら…って、自信あったりするのか!?」
思わず前のめりになる俺に、ユージンは真理の探究者としての表情を覗かせながら、「興味はあります。」と言う。
「うーん、興味か。ならドラゴンの呪いを解く、またはどうにかしてドラゴンから呪いの本体を切り離せるような…そんな詠唱ってあったりする?」
ユージンは静かに首を振る。
「そのような強力な呪いを解く、そんな詠唱はこの世界のまだどこにも無いでしょうね。」
そうか、やはり賢者レベル40のユージンでも難しいのか。
ユージンはこの部屋に置いてある小さな書棚の魔導書を見あげる。
「しかしながら、ここにはまだ私の知らない知識がある。この部屋や書庫に眠る、深淵なる世界の膨大な叡智…それを読み解くことで、私の詠唱の威力を高められるかも知れません。」
片眼鏡の奥にあるユージンの瞳が、その未知の世界への知識欲に煌めいた。
「エイトさん。もし私に時間を下さるなら、きっと解呪の詠唱を完成させて見せます。ああ楽しみだ…きっと世界が震え上がるような美しく荘厳な詠唱を編み出せることでしょう……」
陶酔したように熱を込めて呟くユージンに、何故か俺の背中はぞわりとする。何かとんでもない間違いをしでかしたんじゃないか…そんな予感に俺は震えた。
……いやきっと気のせいだよな、と俺はその考えを無理やり振り払う。
「じゃあユージン。詠唱は頼んだ。火山島に向かう準備ができたら迎えにくるから。」
「お任せください、エイトさん。」
いつもの穏やかな微笑みを浮かべて言うユージンに、そこはかとなく…いや明らかに不安を覚えるのだった。




