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今日はバイナが教えてくれた市が立つ日だ。
屋台は食べ物系が多いのだろうか。通りすがりに何かの串焼きが良い匂いを漂わせている。
なんか美味そうだな、後で食べてみるか。
バイナは見れば分かるとニヤニヤして、エルフの出店がどんなものなのかは教えてくれなかった。まあのんびり探すか……と見回した矢先にそれはあった。
あ!あの蒼の髪の色は智のエルフ!
確かに他の種族にはない髪色だが、そのビジュがなんというか………ふくよかというかぽっちゃりというか。
髪をポニーテールにまとめ、大きな笑い声を上げながら、客に飲み物を渡してるようだ。
えー、なんかー、イメージと違うしー。
エルフのイメージがガラガラと音を立てて崩れてゆき、呆然と佇む俺に気づいたそのエルフ。
「お兄さん、何見てるだけなのよ〜。こっち来て試飲だけでもしていってよ。あははー。」
……陽気だな。悪い人、いや悪いエルフじゃないと分かる。
「ああ、こんにちは。ここは何の店なんだ。」
「ここはエルフ特製ヘルシードリンクの店だよ!」
試飲してみな、と小さなカップをぐいっと押し付けられた。甘い香りがするそれを一口含んだ瞬間、脳を刺激する快感に襲われる。
……ヤバ、これ、完全にミックスジュースじゃん。
こちらの世界では、味の薄いスープやらドレッシングなしのサラダやらで物足りなかった俺の味覚が、まさに今この瞬間、狂喜乱舞のフラメンコを踊っている。
俺の様子を見て嬉しそうなおばちゃん。
「気に入ったかい?なかなか美味いだろう。この辺りの特産のフルーツと、持ってきたフルーツたちのミックスさ。あたしは野菜やフルーツの相性を探求していてね。まあヘルシードリンクとはいえ飲み過ぎてこんな体型にはなっちまったけどさ。あっはっはっー。」
「ああ…凄いなこれ。一杯買うわ。」
「おっ、嬉しいこと言うねぇ。じゃあ多めにしとくよ。」
すっかり打ち解けた俺たち。
おばちゃんは研究しているだけでは意味がない、とこうして時々あちこちの町で店を出しているそうだ。
この人なら行方不明のエルフの姫について何か情報を持ってないか…と聞こうとしたその時。
「おや、珍しいね。こんなところに白銀のエルフとは。」
おばちゃんの視線の先を見てみると、そこには美の極致、白銀のエルフの姿。
一口にエルフと言ってもその中は別々の種族に分かれている。
紅のエルフ―戦闘を司る
蒼のエルフ―叡智を司る
紫のエルフ―慈愛を司る
白銀のエルフ―全てのエルフを統べる至高の存在
その至高の白銀のエルフがそこにいた。
おばちゃんには悪いがあれこそエルフ!
エルフ オブ エルヴズ!!
ザじゃなくて、ジ・エルフ!!!
さらりと流れる銀糸のように輝く髪、憂いを帯びた白金色の瞳、たおやかな容姿。
神が作り給うた、完璧な美がそこにはあった。
まさか……まさかあのエルフが、行方不明の姫なのか!?
俺は思わず駆け出した!
そのエルフがこちらを振り返り、必死な俺を見て何故かぎょっとした様子で走り出す。
「おーい、ちょっと待ってくれ!」
声をかけるが止まってくれそうにない。
こうなったら…俺は風魔法の高速移動―自身が発した風に乗り高速で移動ができる ―を発動させ、エルフの前に周りこんだ。
エルフは急には止まれない。俺とエルフは衝突した。
「いてて…」
気づくと俺はエルフを押し倒したような体勢で、エルフの胸に頭を押し付けていた。
ん……あれ?
このエルフには女性特有の柔らかいあれが無い。
「………男………?」
「男ですけど!!!それが何か!?!?」
真っ赤な顔をしてぷるぷる震えているエルフ。
うーん…俺はしばし思案の上交渉してみることにした。
「なあ、あんたがエルフの姫ってことにしない?」
「なっ……私は男です!姫などではありません!」
やっぱり無理だったか。
そして俺は周りの視線に気づいた。
「………何あれ?往来でエルフ押し倒しているとか……」
俺は真っ赤になり、咄嗟にそのエルフを引き起こし風魔法でその場を逃げ出したのだった。




