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午後の便で、俺は首都サルティオルトに向かっていた。今からだと着くのは夜になってしまうが、今日は1週間続く収穫祭のまだ2日目だ。
ビンスタスへの帰路に着くのは最終日の翌朝と聞いているから、まだ日程的な余裕はある。リッチがすぐ見つかって、というか見つけてくれて良かった……
「……って、アド!選択肢!!」
ほぼ貸し切りの馬車の中、俺は小声でアドに話しかけた。
「俺、1ページしかやらずに終わったけど、良いのか?」
『……前に一度で正しい選択肢を選べて、そのまま勝ち逃げしたこともあるじゃないですか。だから良いですよ』
なんかまだ根に持ってそうな言い方だな。
「なんで同じページが2度出たんだ?」
『本の仕様です』
「理由を教えては……」
『まだ秘密です』
ん?いつもの『秘密です』から『まだ秘密です』に変わったぞ。
「ふーん…そうか。」
俺はなんとなくそれに気づかないふりをしながら、夏のような夕焼けを眺めていた。
「おかえり、エイト。今日中に帰れたんだね。」
宿の扉を開けるとカリンが出迎えてくれた。
「うん、やっぱり馬車の取り合いだったよ。一席空いていたところになんとか滑り込めた。」
「良かった。疲れたでしょう?夕食用意するから、とりあえずそこの豆でも食べてて。」
「ありがとう、カリン。じゃあバッグを置いてくるよ。」
俺は部屋にバッグを置き、土産を取り出して階下へ行った。
「珍しいもんじゃないけど、シェルナートの魚の干物。」
カリンに手渡すと、凄く喜んで受け取ってくれた。
「あ、これ美味しいんだよね。ありがとう、エイト。」
「ところでウィンベルトは?」
俺は姿の見えないウィンベルトのことを聞いてみた。
「ああ、収穫祭の間はね、地元の男たちは集まって夜間の見回りをしているんだよ。酔っぱらって暴れるバカなやつらもいるからね。」
まさにお祭り騒ぎか。見回りも大変だな。ウィンベルトが怪我する心配はないが、どちらかというと過剰防衛が心配だ。
「真夜中までには帰ってくるよ。エイトは気にせず、ごはん食べたら寝たらいいよ。明日はどうするの?」
「明日か…どうしようかな。まだ予定は無いから部屋にいるかも。」
「そうなの?じゃあアタシとお出かけしない?荷物持ちになってよ。」
「はは、良いよ。」
俺はカリンの提案に賛成した。リッチから重い話を聞いたから、ひとりでいるより気分転換が必要な気がした。
収穫祭の3日目だ。首都のメインストリートは人々でごった返し、少し外れたところまでもフルーツの出店の屋台が軒を連ねている。
その更に外れた辺りにあの人が居た!
エルフであることを隠そうともしていない、蒼のエルフの長でありながら果物の組み合わせの研究をライフワークにしているらしい、おばちゃんことアマルガリタ!
他のエルフは滅多に人前に姿を現さないのに、アマルガリタだけは自由に人間界に来てジュースを売っている。タルスが「長は自由すぎる」とぼやいていたっけ。
彼女は変装している俺に気づいて手を振ってきた。
目立つからやめてーと俺が非難の視線で訴えると、アマルガリタはきょとんとして大笑いしていた。
「あのエルフ、エイトに手を振ってなかった?」
「うん、知り合いなんだけど、変装中にはやめてほしいな。もしかしたら、後で宿に来そうな気がする……」
「そうなの?じゃあ何か用意しないと。エルフは肉とか食べないよね?フルーツでもいいかな。」
そんな話をしつつ、俺とカリンは買い物を終えて宿に帰った。今日はバランさんの息子さんのヤギルリア果樹園らしき屋台は見つけられなかった。明日探してみようかな。
「なあカリン。この季節しか取れない、珍しいフルーツってどこで売ってるんだ?」
「あ、それ?王城の中らしいよ。貴族しか買えない貴重なものだからねー。どんな味がするんだろ?」
帰宅するとウィンベルトがテーブルで待っていたようだ。妙に真面目な顔をしている。
「エイト…聞いた話なんだが、収穫祭5日目に勇者が招待されているらしいぞ。まさかお前じゃないだろうな?」
「まさか!俺は変装して来ているくらいだぞ。」
「そうだよなぁ。じゃあなんでそんな話になっているんだろうな。」
俺はハッとした。まさか……
「ウィンベルト。俺は旅の途中で勇者に会ったんだ。金髪碧眼の若い男だ。」
「へぇ、じゃあそいつがお前と間違えられてるって訳だ。ははっ、面白いな。」
「笑い事じゃない……だって、あいつのレベルはまだ8のはずだ……」
「……………………」
俺たちの間を寒い沈黙が支配した。常夏のサルティオルトに居るというのに。
「エイト。そのレベル8がさ、勇者として収穫祭で紹介されるってヤバくない?そのレベルじゃ、ひとりで魔獣も狩れないじゃないか?」
「ああ、あの勇者の噂のせいで勘違いされたとしたら可哀想だな。」
カリンとウィンベルトが頷きあっている。
勇者が俺の黒髪黒目ではなく、金髪碧眼だと噂を流させたのはアルトだ。俺が自由に動けるようにと、吟遊詩人を使って噂を撹乱させたと言っていた。
蒼白になっている俺を見て、ウィンベルトが言った。
「まあ様子をみようじゃないか。この国でお前とあのデカいユニコーンを見たヤツは大勢いたし、そのレベル8の勇者とやらも、勘違いをそのままにするような馬鹿なヤツじゃないだろう。」
「いや、そこが心配なんだ……」
あいつのことをどう説明したらいいか……俺はとりあえず黙ってしまっていた。




