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全身の痛みでピクピク震えている俺の頭上でその声はした。
「……これが噂の、勇者エイトの奇行というものか。ダンジョンの中で、いきなり叫び出したかと思うとばったり倒れるという……いや、皆の言う通り、なかなか不気味ではあるな。」
「リッチか!」
俺は痛みを堪えて身体を起こした。青白い顔の背の高い男。やはりあの時のリッチだ。
「勇者エイトらしき人物が入ってきたと、皆、息を潜めて見ていたぞ。ゴーストが知らせてきたので見に来たのよ。」
俺はなんとか起き上がり、リッチの前に立った。
「ああ、俺はあんたに会いに来たんだ。ちょっと聞きたいことがあって。」
「聞きたいこと?それでここに来たというのか。我の居るダンジョンは別じゃぞ?」
「あれ?ここじゃ無かった?」
「あの時言ったであろう?ここは仮住まいだと。あの後また引っ越したのよ。」
そうか……あの時、また違う場所に移動するとか言ってたな。
「じゃあわざわざ来てくれたのか?」
「そりゃあ、噂の奇行が見られるかも知れんとあってはな。好奇心が抑えられなんだ。」
俺ってダンジョンの見世物なのかよ。
「まあいいや。とにかくさっき言ったように、俺はあんたに聞きたいことがあって来たんだ。急で悪いけどしばらく時間をくれないか?」
「いやまあ、我には時間は腐るほどあるからいいが。では、移動するぞ。」
リッチが指をぱちんと鳴らした。一瞬くらっとする感じがして、俺たちは移動していた。
そこはやはりリッチのベッドルームだった。あの時運ばされた高級マットレスの上に、でっかいぬいぐるみが鎮座している。
「くぁぁ……よく眠っていたのに。まあ面白かったから良い。」
「起こして悪かったな。あ、これは手土産だ。」
俺はマジックバッグから枕を取り出した。クラリスさんがふかふかにしてくれた上、「お友達へのプレゼントなのでしょ?」と丁寧な刺繍が入った枕カバー付きだ。
リッチはその枕を見て、暗い目を輝かせた。
俺から枕を受け取ると、さっそく高級マットレスの上で枕に頭を置いて寝転んだ。
「おお……これはなんと素晴らしい!この柔らかさ…このフィット感……あと数千年は熟睡できそうだ……」
「いや、今寝るな!寝るなら話をしてからにしてくれ!!」
俺に言われて、リッチは仕方なさそうにしぶしぶ体を起こしたが、しっかり枕を抱きしめている。
「おお、そうだったな。これほどの貢ぎ物だ。何でも聞くが良い。知る限りのことは教えてやろう。」
はあ…やっと本題に入れる。
「ところで、立ったままでは話が出来ぬであろう?ここに座るか?」
リッチはマットレスをぽんぽんと叩いた。前も勧められたが、それはなんか嫌だ。
「大丈夫だ。俺には椅子があるから。」
俺はマジックバッグから椅子を取り出して、リッチの正面に座った。
「さて、我に何を聞きたいというのだ?安眠法か?」
「安眠からちょっと離れてくれ。俺が聞きたいのは『ダンジョンとは何か?』ということなんだ。」
「……ほう?」
リッチの空気が変わった。今までの冗談めかした雰囲気から、少し真剣になったようだ。
「俺はドワーフ国で、あるドワーフから聞いた。ダンジョンとは『道』だと。どういう意味なんだ?ダンジョンとは魔物が作った地下迷宮じゃないのか?」
「なるほど、お前が知りたいのはそれか。先に聞くが、お前は私を…ダンジョンボスとは何だと思っている?」
またこいつの質問返しか。
「昔、師匠が言ってたことだが、『ダンジョンボスとは、ダンジョンを支配する魔物の王』ってことだ。ダンジョンボスが魔物を操り人々を襲うから、冒険者はダンジョンを攻略し、ダンジョンボスを倒す必要があると。」
リッチはしばらく考えこんでいるようだったが、やがて静かに言葉を紡いだ。
「ふぅむ…それが『人間』の共通認識というものか。なるほどな……」
「何か間違っているというのか?」
リッチは静かに横に首をふった。
「まず…我々は人間を襲っているという認識は無い。勝手に踏み込んで来る者を追い払ってはいるがな。」
「じゃあ、例えばゴブリンたちが町や家畜を襲って荒らすというのはどうなんだ。そういう退治の依頼は絶えないぞ。」
リッチは俺を見据えて言った。
「長い話になるぞ。」
「構わないよ。その為に来たんだから。」
俺は椅子に座り直し、リッチの次の言葉を待った。




