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俺はシェルナート行きの馬車に揺られていた。
他の乗客は3名。本当にガラ空きだ。
逆に時々すれ違うサルティオルト行きの馬車はどれ満員のようだ。首都行きの馬車は増便されているんだろう。早朝から御者も馬もご苦労さまだ。
しかし本当に皆、収穫祭に行くんだな。あれじゃ今頃首都は人で溢れかえっているだろう。まあ日帰りの人もいるんだろうけど。
必死に首都の方向へと飛ばす馬車を見て、俺はふと、ドワーフ国の交通網を仕切っているコボルトたちの『トコトコエクスプレス』を思い出した。
コボルトたちが一生懸命トコトコを引っ張っている姿は可愛かったよな。
ここでの用が終わったら、またドワーフ国に行かなきゃ。良いヒントが見つかるといいが。
シェルナートまでは馬車で4時間の道のりだ。馬の休憩で馬車が止まったので、一旦降りて身体を伸ばした。ザガールドの道場に通ったおかげで疲れにくい身体にはなってきているが、長時間馬車に揺られるのはなんか別だな。
ちょうど昼時になったこの休憩時間に、少し涼しい木陰を見つけて、水筒の冷たいお茶を飲みながらカリンのお弁当を美味しくいただいた。
到着後、俺は真っ先にシェルナートに来るたびに泊まる漁師宿へ行った。部屋は充分空いているので問題は無かったが、宿帳にうっかり『エイト』と書きそうになった。
いかん今の俺は『シェイド』だ。
忘れるなよ、自分。
部屋に入りいったん変装を解いた。というか、常夏のこの国で、スカーフを首に巻いてると暑い。
『今から行くんですか?』
「いや、夕方からにする。だって、この時間に出るのは暑いから。それか夜なら、スカーフ外してても目立たないのか……アド、どっちが良いと思う?」
『さあ?私は気温など感じないので?』
「ずるっ!」
『別にずるしている訳ではありませんが』
まあ、こいつは本だからな。確かにずるいとかどうとか言う話ではない。
『首元が暑いなら、腰に巻けばどうです?』
「やってみたんだけど、それでは駄目らしいんだ。」
アルトにおしゃれなスカーフの巻き方もいろいろ伝授されたが、腰に巻いてみると変化が無かったそうだ。これは首元に巻かないと効果が無いらしい。エルフのこだわりか?
「まあ、少し緩めて巻くさ。とにかく出るのは夕方だ。」
俺はまた変装し、宿の主人に早めの夕食を頼みに言ったが、つい『いつもの』と言いかけて不審げな顔をされてしまった。危ない危ない。
この宿の名物は、漁師である主人が朝の漁で獲ってきた湖の魚を氷で締めた刺身だ。いろんな魚を盛り合わせてあって実に上手い。
俺はそれに手持ちの塩や、ジャイアントビーの蜜であるほぼ醤油をつけて食べている。
「うーん、美味い!」
さらに刺身とごはんのお代わりを注文し、次は海鮮丼からの冷たい海鮮茶漬けを堪能した。
「はー…美味かった。幸せだなー。」
満腹になったし、風呂に入って寝ようかな。
ごろりとベッドに寝転んだ時、呆れたようなアドの声が聞こえた。
『あの……エイト、何か忘れてません?』
「……あ!!」
そうだ。俺、これから出かけるんだった。
「アド、ありがと。すっかり忘れるところだったよ。」
『……目的忘れちゃってどうするんですか……』
呆れ果てたアドの声が、俺の脳内に響いていた。




