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「ちょっとウィンベルト!表の看板がクローズになってるけど、まだ夜にもなってない……ってエイト!?」
近所に買い物に行っていたカリンが帰ってきて、俺が居ることにびっくりしていた。彼女ももちろん再会を喜んでくれた。
ウィンベルトとカリンは昔、俺とパーティーを組んで依頼をこなしていた仲だ。彼らは突然引退し所帯を持ち、ここで暇な宿屋をやっている。宿屋を始めたのは、もう7年も前のことだ……というのが俺の中の勇者の記憶だ。
しかし、そもそも21歳の俺が7年以上前に彼らとパーティーを組めていたはずなどない。俺を勇者に設定した、この本の中のご都合主義。しかしそれでも俺たちは友人なのだ。
カリンは早速料理を振る舞ってくれ、俺たちはエールで乾杯した。
「エイトは収穫祭に来たの?凄く人が多かったでしょう。この宿には客はいないけどね!」
カリンはそう言って、ウィンベルトを軽く睨んだ。
なんでも以前、収穫祭に来た宿泊客が酔っぱらってカリンに絡んだことがあるらしい。「だからウィンベルトは凄く客を選ぶの。」とカリンは言って爆笑していた。
元格闘家のカリンに敵う客などいないだろうに。
「確かに道に人が溢れていたな。俺は今回シェルナートに用があって来たんだ。」
「エイトはわざわざ変装までして来たんだぞ。」
エールをあおりながらウィンベルトが笑っていた。
「へぇ。じゃあ大事な用なんだね。まあ明日から収穫祭だ。今シェルナートへなんて行く人はいないだろうから、都市間馬車もガラ空きじゃないかしらね。」
「そうか、シェルナートにはあまり人が居ないかもしれないな。」
「少なくとも観光客は居ないんじゃないか。エイトみたいな物好き以外は。」
本当にウィンベルトはひとこと多い。
「で、エイト。シェルナートには明日行くの?お弁当持ってく?」
「うん、明日行ってこようと思う。1週間後には帰らなきゃならないから。お弁当か…頼もうかな。」
「よし、じゃあ用意しとくわ。あまり辛いのは駄目だったよね。辛さ控えめのおかずにしとく。」
そういうカリンの用意してくれたメニューに辛いものは無い。本当よく覚えてるな。
「ところで、あの学生たちは元気か?」
ウィンベルトが俺にエールを注ぎながら言った。夏休み旅行をした時、皆ここに宿泊したんだ。
「ああ、最近マイルの魔法で話すことができたよ。ジェリコのこと覚えてる?後期で卒業したら、シェアハウス管理会社に就職するって。」
目を丸くしたふたりに彼の話を伝えたら爆笑してた。
「将来的には家を継ぐのか。それでも他に仕事をしておくってのは良いことだな。」
「あんたが焚き付けちゃったからね。」
カリンがウィンベルトを横目で見て、ウィンベルトはわざとらしく咳払いをしていた。
「さて、と。私はエイトの泊まる部屋を整えてくるわ。前と同じ部屋で良い?」
そう言ってカリンは2階に上がっていった。俺たちはなんとなく彼女が階段を上がるのを見ていたが、ウィンベルトがこちらを向いて言った。
「……お前が来たのは厄介ごとの為か?」
「いや、ちょっと知り合いに聞きたいことがあるだけなんだ。自分が納得したいだけなんだけど。」
俺は素直にそう言った。ウィンベルトはふぅ、と軽くため息をついた。
「お前はお人よしで、自分のことより他人の為に突っ走る癖がある。でも、今は自分の為に動いているんだな。」
ウィンベルトはニヤリと笑って言った。
「それならまあ安心した。そろそろ飲み過ぎだとカリンが怒ってくる頃だ。風呂を沸かしてやるから入って寝ろ。」
ウィンベルトは立ち上がり風呂の方へ行ったので、テーブルには俺だけになった。
「エイトー!部屋の準備ができたよーー!」
カリンの声が聞こえたので、俺も立ち上がった。




