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page.190

翌日、俺たちは数台の貸切馬車で国境を越えて、フィルマルト王国に入国した。


さすがフィルマルトは常夏の国だ。ダルメル王国の秋服を着ているので、じんわり暑さを感じてきた。宿に着いたら夏物に着替えなきゃ。


「シェイドさんは、別の宿に泊まるの?」


同じ馬車に乗っていたテランが聞いてきた。男爵と俺が話していたのを聞いていたらしい。


「うん、俺は友達に会いに来たので、彼のところに泊まるんだ。」


「そうなんだ……」


テランは見るからにしょぼんとした。俺が一緒に行動しないのが寂しいのかな。


「テラン君、俺は先に大切な用事を済ませてこなきゃならないんだ。良かったら最終日の前日に、収穫祭のお店を一緒に回ってくれますか?」


俺の言葉にテランは目を輝かせた。


「うん!じゃあ待ってるね!」




彼らの泊まる高級宿の前に馬車は止まった。

俺はバローチェン男爵にお礼を言い、出発日の朝にここに来ることを約束した。


男爵は「シェイド君の泊まる宿に送らせようか?」と言ってくれたが、俺は歩いて行けるからと丁寧に断った。



見知った宿の前に着き、扉を開けた。

入ったところのテーブルには、目つきの悪い男が新聞を広げて座っていた。


「おう、なんだ学生か?……何か?」


座ったまま、横柄な口調でチラリと上目遣いを向けてくる。


「ウィンベルト。そんなに愛想悪いとまた客が逃げるぞ。」


俺の言葉にハッとして見てくる男の前で、俺は首に巻いていたスカーフを外した。エルフのスカーフによる変装が解けてゆく。


「な……っ!なんだ、お前…エイトか!」


「ああ、ウィンベルト。久しぶりだな。」


俺は変装用の眼鏡を外しながら言った。


「突然だけど泊めてくれるかな。ま、この感じじゃ他に客は居ないみたいだけど。」


「ほっとけ!まあ、エイトなら泊めてやる。収穫祭の特別料金だがな。」


「なっ!また俺からボッタクるのかよ!お前は全く相変わらずだな。」


ウィンベルトはいつものように、俺を見ながらニヤリと笑い、俺たちは再会の握手をした。



俺はウィンベルトに、北西の都市シェルナートに用事があってきたことを伝えた。


「しかし、まさか変装してくるとはね。あの勇者の噂のせいだな。」


ウィンベルトは俺に冷たい茶を出してくれながら言った。


「そうなんだ。俺とハクはこの国で目立ち過ぎたから。ほんと参ったよ。」


「吟遊詩人の奴らが面白おかしく話を盛っているもんな。アレを聴いた時にゃ俺も笑いが止まらなかったぞ。」


「もういいよ…勘弁して……」


ウィンベルトはひとしきり笑った後、真面目な顔をして言った。


「で、その世界一有名になった勇者殿が、お忍びでこなきゃならない用事があるっていうんだな。」


「そうなんだ。だからここに泊めてもらおうと思ってきた。」


ウィンベルトは腕組みしながら何か考えていたが、やがて俺にこう言った。


「貸し切りにしてやるから、好きなように滞在しろ。」


「……いや、だってそれって客が居ないだけじゃ……」


「収穫祭で浮かれて暴れるような客が来たら嫌だから、客を選んでいるだけさ。」


怯えさせて楽しんでいるだけだろう、お前は。


とりあえず今日から数日、ウィンベルトの宿に滞在だ。



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