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夕食は、日が沈む前にとボリュームのあるハイティーをいただいて、俺は自分の部屋に戻った。
テラン君はまだ幼いので、お付きの青年ふたりが同室で過ごすらしい。
俺はベッドに寝転んでアドと話してみることにした。
「なあ、アド。昼間のあの大波ってなんだったんだ?やっぱり湖には異変が起きてるってことか?」
『さあ?そうなんじゃないですか?』
「またはぐらかすのかよ!もう少しストーリーを教えてくれてもいいと思うんだけど。アドはこの本のナビゲーターなんだろ!」
『エイト、なんだか機嫌が悪いですね』
「テランがもう少しで湖に落ちるところだったんだぞ……」
あの時は一瞬ヒヤッとした。あの小さな身体が目の前で浮いたんだから。咄嗟に手をのばして捕まえられてよかった。
『……ストーリーは無事進行しています。良かったですね、少しずつ元の世界に帰る時が近づいていますよ』
「……そうか、ありがと。」
アドは先の展開を教えてくれる気は無いようだ。まあこれまでもそんなこと無かった気がするけど。教えてはいけないルールがあるのかもしれないから無理強いはできない。
『エイトはダルメル王国のダンジョンにほとんど潜っていないですね?』
「ああ、だってダルメル王は『冒険者のことを勝手にダンジョンに入って好き勝手に物を持ち出してゆく無法者』って言ってたろ?そう言われるとダンジョンに行きにくいよ。」
『ふーん、まあいいですけど』
でもアドの言うのも分かる。俺、最近全くダンジョン潜れてない。
「またダルメル王に拝謁することでもあったら聞いてみるよ。じゃ、そろそろ寝る。おやすみ。」
『おやすみなさい、エイト』
俺はベッドサイドの灯りを消した。
使用人が扉をノックし、朝食の準備が出来たと声をかけてくれた。すっかり熟睡してしまった。
慌ててスカーフを身につけて、髪と目の色が変わっていることを確認してから眼鏡をかけ、着替えて食堂へ行った。
「おはようシェイド君。この船はどうかね?よく眠れたようで良かった。後半日でスクロに到着しますよ。」
男爵は朝からご機嫌で分厚いハムを挟んだサンドイッチを頬張っている。
スクロに到着すると船を降りて、今夜はスクロで一泊する。翌日馬車で国境を越えてフィルマルト王国に入り、そのまま首都サルティオルトへ直行するとのことだ。ファルナートを素通りとはありがたい。
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
朝食をいただいて部屋に戻ろうとした時、後ろから服を引っ張られた。テランだ。
「シェイドさん、お話しない?」
「ほう。シェイドさん、いつの間にかテランと仲良くなりましたか。テラン、シェイドさんに迷惑はかけないようにな。」
俺は男爵に会釈して、テランの部屋に行くことにした。彼は俺の部屋に来たがったが、マジックバッグを置いているので念の為だ。
テランは普通におしゃべりがしたかったらしく、彼が持ってきた絵本を見せてくれ、ふたりでそれについて話をした。
魔王城について書いてあった本は、怖いので置いてきたようだ。それは見てみたかったので、ちょっと残念だったけど。
船は問題なくスクロに着き、俺たちは荷物を持ち船を降りた。帰路はまたここから船に乗るということで、船長たちはスクロで留守番らしい。
スクロは国境近くのとても小さな都市なので、特に見るほどのものは無いし、数ヶ月に立ち寄ってもいるしな。
そういや、この近くに醤油に似た味の蜜を作るジャイアントビーの巣があるんだっけ。貰った蜜が残り少ないから探しにいきたい気もする。この旅の間は無理だけど、後日の予定に入れておこうかな。
その蜜を分けてくれたのが、ドワーフには珍しく旅をしているらしい変なヤツだ。あいつ元気なのかな。なんて名前だったっけ、パンダみたいな名前の。
俺はそんなことを考えながら、男爵たちの後に着いて今夜の宿に向かっていた。




