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page.187

宿に帰った俺は、バランさんとクラリスさんに、フィルマルト王国に行くためしばらく留守にすることを伝えた。


「まあまあ、寂しいこと。でもお出かけは良いことね。しっかり楽しんできてくださいな。」


クラリスさんがそう言うと、バランさんが思いついたように言った。


「ちょうどフィルマルトの収穫祭の時期ですな。なら、うちの息子もその時は首都に居るかもしれません。もしヤギルリア果樹園というのが出店していたら、是非覗いてやってください。」


「ヤギルリア果樹園ですね。分かりました。探してみます。」


フィルマルトの果樹園で働いているというノバンさんか。会ってみたいな。



俺はすぐさま旅の準備をし、出発の日の朝にはリヴァリエルの馬車が宿に迎えにきた。リヴァリエル邸でバローチェン男爵家から届いていた服に着替えて変装姿を整えた後、船の乗り場まで送ってくれることになった。


アルトは俺のマジックバッグがすっぽり収まるサイズの、ボストンバッグのような物も用意してくれていた。肩からかけられるようになっていて便利だ。


なるほど、冒険者でもないのにマジックバッグを持っていると分かると不自然だもんな。しかも、学生っぽい変装に合うように、落ち着いた色とデザインの物だ。


「エイト、充分気をつけてな。まあお前のことだから心配はしていないが。」


アルトが見送り時にそう言ってくれた。


「ありがとう、アルト。フィルマルトの土産を買ってくるよ。」


「ん〜。土産よりも、エイトの美少女姿を見てみたかったけどね。」


「まだ言う!?」


俺たちはがっしりと握手をして別れた。まあ、数週間後にはまた会うんだけどね。




馬車は小一時間で港に着き、バローチェン男爵が笑顔で出迎えてくれた。


「わが船にようこそ、シェイド君!」


それは大きめなクルーザーのような、なかなか豪華に彩られた船だった。まあ俺は元々船の種類には詳しくないけど。

男爵の後方では、使用人らしい人々が忙しく荷物を運び込んでいた。


「実は先月三つ子が産まれましてな。そのせいで妻は今回来ておりません。こちらに娘たちと息子がおります。皆、この方がアルティウス殿のご友人のシェイド君だ。」


俺は子どもたちが座っているところに案内された。

俺と同年代くらいの女の子がふたり、少し下かなと思う女の子がひとり、そして小さな男の子がひとりだ。

男の子はなんだか機嫌が悪そうな顔をしていた。


「シェイドさん、こんにちは。」


姉たちが挨拶してくれるが、男の子はそっぽを向いたままだ。


「こら、テラン。挨拶しなさい。」


バローチェン男爵が声をかけるが、さらにそっぽを向く。 


「すみませんな、テランは下の子たちが産まれてから、母を取られたと思っているようで機嫌が悪いのです。」


「いえいえ、大丈夫です。」


どうせ行き帰りで数日しか一緒に行動しない。仲良くなる必要も特に無いし。


俺は男爵とともに船に乗り込んだ。

そのまま船内のリビングに通されて少し話をした。


「シェイド君は、一応テランのお付きということにしてありますが、テランのお付きは他に2名おるので、シェイド君には特に何もしてもらうことはありません。首都についてからは、ご友人を訪ねるということですな。我々は収穫祭の最終日の翌日に帰路につきますので、その日の朝に我々の宿に来てください。」


「ありがとうございます。お手数おかけしますがよろしくお願いします。」


男爵は鷹揚に頷いて言った。


「昔からリヴァリエル卿にはお世話になりっぱなしなのだよ。今回も出産祝いをいただいておるし、たまには恩を返しておかないと。まあ、短い付き合いではあるがなんでも言ってくれたまえ。ハッハッハ。」


気持ちのいい人だ。緊張していた俺も、思わずつられて笑顔になった。


使用人に個室に案内してもらった時、ちょうど出航したらしく、船体がぐらりと動くのが伝わった。

さて、国境近くのスクロまで1日半の船旅か。ちょっとワクワクするな。


俺は荷物を置いて部屋に鍵をかけ、船の甲板に向かってみるのだった。



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