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バランさんの宿で健康的な食事と休息を取ることで気持ちが落ち着いてきたら、今度はなんだか家の中でじっとしているのが落ち着かなくなってきた。
スマホやテレビがあれば、見ながらベッドでダラダラできるけど、当然この世界にそんなものはない。
リビングに置いてある本はバランさんご家族のもので、遠慮しつつ野草の本を借りて眺めてはいたけど。
ということで、俺は動きやすい服を数着買い、ザガールド王子が運営している道場へ通うことにした。
道場のある工業地区は、ハウンカからそう遠くはない。俺は乗り合い馬車で近くまで行き、道場になっている廃工場まで歩いた。
近隣の方々と一緒に、柔軟場で1時間を過ごす。汗をかきながら黙々と身体を動かしている俺を見て、ザガールドはギョッとした風にこちらを見ていたが何も言ってはこなかった。
彼は毎日来ているのではないようだ。
さすがに王子としての公務もあるのだろう、姿を見るのは数日おきだった。
約一カ月、毎日道場に通い、宿ではバランさんの本を片手に、野草の見分け方を教えてもらったりしていた。
俺が毎日通ってきていると聞いたらしく、ある日柔軟を終えた俺にザガールドが声をかけてきた。
「エイト。ちょっといいか。部屋で話をしないか?」
彼の私室になっている部屋に通されて、椅子に座るよう促された。
「話すのは一カ月ぶりぐらいか。アルトに聞いたが、今は休暇中らしいな。だから声をかけないほうがいいかと思っていた。」
「そうなんだ。気を使ってくれてありがとう。うん、ちょっとゆっくりしたくて。」
「そうか?アルトは無理やり休暇を取らせたと言っていたぞ。」
ザガールドはボトルを取り出し、俺にカップを持たせてそれを注いだ。前に飲んだ青汁だ。
「ドワーフ国で疲れていたんだな。それに全く気づかず、カフェに誘ってすまなかった。」
そう言い頭を下げるザガールドに俺は慌てた。さすがに王子に頭なんか下げさせちゃいけない!
あ、でも王も割と簡単に頭下げてたっけ?親子だから似てるのかな?
いやいや、そうじゃなくて!
「ザガールド、そんなのやめてくれ。俺が弱かったんだよ。だから今ここで、基礎から心身を鍛えさせてもらっている。本当ありがたいよ。」
ザガールドはホッとしたような顔で俺を見た。
俺は青汁を飲みながら彼に聞いた。
「カフェで別れた後さ、グァルグァイを送っていったんだろ?ドワーフ製品はちゃんと売れてた?」
ザガールドは少し顔を曇らせて、言うか言うまいか迷っているようだった。彼は自分のカップに青汁を入れて、半分くらい飲んでから言った。
「商品は全部商人が引き取っていたが、思ったより収入にならなかったらしい。もちろん以前の品質の物なら高く売れただろうが、あの劣化版では仕方がないかとは思う……グァルグァイが落ち込んでいて、俺は見ていられなかったよ。」
資源の枯渇の影響は酷く、彼らはなんとか新しい技術を生み出して、製品を作り続けている。しかし、以前より壊れやすい商品を高く買って貰うことは難しいだろう。
「エイト、なんとか彼らの為に鉱石とか……見つからないものかな。」
ザガールドの顔が辛そうだ。グァルグァイと仲良くなって情が移ってしまったのか。
「うん、もちろんまた探しに行くつもりだよ。ただ、今は先にやることがあるんだ。」
「そうか。じゃあその後で良いから頼む。」
また深々と頭を下げるザガールドに、俺は頭を上げるよう必死でお願いするのだった。




