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アルトが風呂の使い方が分からないと言ってきたり、寝ている間に布団を全部取られたりと色々あった夜だった。この、とことんおぼっちゃまめ!
ふたりで庭にいる鶏の産みたて卵を探しに行って、クラリスさんに目玉焼きにしてもらった朝食が終わり、アルトの迎えの馬車が来た。
「エイト。もし、どこかへ旅に出る場合は必ず言ってくれ。口を出したりはしないが、心配だからな。約束だ。」
そう言って帰っていったアルトの馬車を見送り、宿の中に入ると、バランさんが微笑んで言った。
「アルト様も昨日と表情が変わってましたな。エイトさんと楽しい時間を過ごされたのでしょう。」
そうなんだ。気づかなかったな。
アルトも皆とのおしゃべりが楽しかったんだろう。
「そうですか。俺も楽しかったです。騒いじゃってうるさくなかったですか?」
「え…?いや、全く?昨夜は静かなもんでしたよ。」
ということは、アルトは防音の魔法も張っていたのか。リヴァリエルってやはり半端ない。
キッチンのテーブルで、バランさんと少し話をした。
「おふたりが13歳の時でしたかね。マイル様が留学でリヴァリエル邸を去っていったんですよ。その後、アルト様はそれはそれは寂しそうでね。庭の隅でこっそり泣いている姿を度々見たもんです。館の中でのことは知りませんが、従姉妹のエル様が一緒に住んでいたとはいえ、食事もおひとりの日が多かったのでしょうね。」
そうか、マイルは王家に嫁ぐと決まっていたエルと一緒に居るのが辛くてリヴァリエル家を出た。
「跡継ぎの自分が責任を持つ」と言って、親にマイルの留学を説得したとはいえ、まだ13歳の少年だ。マイルを送り出したアルトが寂しくなかったはずがない。
しんみりした顔の俺にバランさんは言った。
「だから、アルト様が楽しそうにされているのを見て、ワシらも嬉しかったですよ。ありがとう、エイトさん。」
「バランさん。俺もアルトが仲良くしてくれていて、本当に感謝しています。」
俺はリビングに戻り、昨日アルトが読みかけていた本を手に取った。子どもが読むような冒険小説だ。
パラパラとめくっていた俺は、ある箇所に目が止まった。
それは、ある勇者が大きな敵と戦い、自分の命をかけて、敵を湖に閉じ込めたというものだった。
「湖……?敵を湖に……」
頭の中に何か浮かびそうだったが、それはうまく形にならず消えていく。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「エイトさん、いらっしゃる?」
「はーい。」
扉を開けると、シーツを抱えたクラリスさんが立っていた。
「あのね、昨日ふたりでベッドを使ったでしょ?だから一日早いけど、良ければシーツを取り替えようと思って。いいかしら?」
「あ、そうですね。それは助かります。」
俺はふと思ってクラリスさんに聞いた。
「クラリスさん、枕をふかふかにする方法って知ってますか?知り合いにあげようと思って買ってきたんですけど、思ったより固めだったんですよ。」
「そうなのね。じゃあ、渡してくれたら綿を調節してふかふかにしておいてあげるわ。今日は洗濯で忙しいから、枕は明日でも良い?」
「ありがとうございます。急ぎではないので、時間がある時で大丈夫です。」
俺たちはベッドのシーツをふたりで取り替えて、クラリスさんに買ってきた枕を渡した。
ふかふかの枕、あいつに渡したら喜ぶかな?
クラリスさんは俺を見て、何か言いたそうにしているのに気づいた。
「クラリスさん、何かありましたか?」
「ううん、そうじゃないんだけどね。エイトさんのいつも着ているその服ね、少し糸がほつれているわ。明日の朝に出しておいてちょうだい。洗濯してからほつれを直しておきますから。」
これは友人のエミルが、俺の何気ない相談から作ってくれた、この世界には他に無いパーカーだ。洗ってはよく着ているから、ほつれているのは気になってた。
「本当に助かります。ありがとうございます。」
クラリスさんはにっこり笑っていった。
「大切に着てるんでしょう?任せてちょうだい。縫い物とか編み物も得意なのよ。」
そう言って階段を降りていくクラリスさんに、俺は自然と頭を下げていた。




