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page.178

「エイト。少しは顔色が良くなったな。バランのところで気楽にできているようで良かった。」


アルトは先程見せた固い表情を崩し、笑顔で俺の前に座った。


彼はメイドに自分用のお茶と俺のお茶のお代わりを命じてから、正面を向いて座り直した。


「どうだ?あの宿は。俺は泊まったことが無いんだが、バランたちとなら落ち着けるだろうな。」


「うん、そのお礼を言いに来たんだ。落ち着いて過ごせているよ。手配してくれて本当にありがとう。」


アルトはニヤッと笑いながら言った。


「しかし、せっかく3か月も取ってやってるのに、たった4日で出てくるとはね。そんなに俺に会いたかったのか?」


「は?いや、変な言い方するなよ。ただ、アルトにお礼を言おうと思ったのと買い物に来ただけだ。」


俺は何だか焦って返事をした。アルトは慌てている俺に爆笑していた。


「エイトってさ、ほんと真面目だよな。冗談も苦手そうだし。からかい甲斐があるよ。」


そう言って、すぐにアルトは真面目な表情になった。


「マイルと話をしたって?」


「うん、そうなんだ。」


俺はシェアハウスの皆がお別れにくれた手帳の中に、マイルが魔法のアイテムを隠していたことを話した。


「へぇ…数分しか話ができない水鏡か……」


アルトは腕組みをしながら、何やら考え込むようにして言った。


「アルト、もちろん変な事は言ってない。マイルを巻き込むようなことはしないよ。」


真面目な顔をして言う俺に、アルトはため息をついた。


「あの時はキツい言い方をしてしまったけど、エイトが理解してくれて良かったよ。ところでさ、今夜も話すんだろ?俺も参加させてくれないか?」


「えっ。もちろん良いけど、数分だからちょっと顔見るくらいだよ。」


「構わないさ。俺も今夜はバランの宿に泊めてもらうとしよう。エイトは買い物に行くんだろう?それが終わったらここに戻ってきてくれ。」


「ああ…分かった。」


「よし。じゃあ、また後で。」


アルトがそう言い立ち上がったので、俺もお茶を飲み干してから立ち上がった。




目当ての物が買えたので、リヴァリエル邸に戻るとアルトが用意をして待っていた。

一泊なので小さなバッグを持っている。


「じゃあ、行ってくる。明日の朝、迎えの馬車を寄越すよう手配しておいて。」


「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」


執事に見送られて、俺たちはリヴァリエル家の馬車に乗った。


いつもおしゃべりなアルトが、何故か馬車の中で無言だった。俺もなんとなく話しかけずにいた。



1時間足らずで馬車はバランさんの宿の前に着いた。


「エイトさん、お帰りなさい。まあまあ、アルト様。エイトさんを送っていらっしゃったのですか?」


出迎えに出てきて驚くクラリスさんに、アルトはウインクして言った。


「クラリス、数日ぶりだね。今日は僕も泊めてもらおうと思ってきたんだ。急だけどよろしくね。」


クラリスさんはアルトのマイペースさに目を白黒させていた。


「まあまあまあまあ!アルト様もお泊りを!?でもベッドはひとつしかありませんよ。」


「いいよ。エイトと一緒に使うから。」


クラリスさんは、俺を見ながら言った。


「エイトさんが良いなら大丈夫ですけど……」


俺を気遣うクラリスさんに、俺は微笑みかけた。アルトはある意味貴族だ。俺が必要以上に気を使うことを心配してくれたんだろう。


「大丈夫です。アルトと俺は、ひとつのテントで寝たこともあるので。」


「テント!?アルト様が?」


クラリスさんはまた違うことにびっくりしたようだ。


そういえば、あの時は大変だった。初めての野宿に興奮したアルトはテントの中でずっと騒いでいて、おかげで俺は寝不足になったんだった。


「まあまあ、クラリス。ここで立ち話もなんだし、中で話そうよ。」


アルトはにっこりして、クラリスさんを促すように彼女の肩を抱き、中に入っていった。


「おいおい、アルト。バッグは!」


俺は馬車の椅子に置いてあったアルトのバッグを取り、御者に「もう帰っていいみたいですよ」と伝えた。俺たちは馬車を降りたその場で話をしていたのだ。


御者は俺にすっと頭を下げ、表情を崩さず去っていった。プロだな〜。



とりあえず俺は、アルトをリビングに連れていった。


「本がたくさんあるんだな。もう読んだのか?」


アルトは本棚を興味深く眺めながら俺にそう聞いた。


「読んだというか一冊だけ。その地図の本。」


「ふーん、なかなか古い本ばかりだ。」


アルトはそれを手に取り、表紙だけ見てから本棚に戻した。


「マイルと話すのはいつ?」


「あ、夜になってからだよ。夕食後だ。」


今はまだ夕方だ。俺がそう答えると、アルトは本棚から一冊手に取った。


「じゃあ、それまで本でも読むとするか。懐かしいな、これ。子どもの頃に読んだものだ。」


彼はそう言い、ソファに座ると静かに読書を始めた。


「あ、じゃあ俺も。」


俺も本棚から野草の本を取り、向かいのソファで読み始めた。


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