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「エイト。少しは顔色が良くなったな。バランのところで気楽にできているようで良かった。」
アルトは先程見せた固い表情を崩し、笑顔で俺の前に座った。
彼はメイドに自分用のお茶と俺のお茶のお代わりを命じてから、正面を向いて座り直した。
「どうだ?あの宿は。俺は泊まったことが無いんだが、バランたちとなら落ち着けるだろうな。」
「うん、そのお礼を言いに来たんだ。落ち着いて過ごせているよ。手配してくれて本当にありがとう。」
アルトはニヤッと笑いながら言った。
「しかし、せっかく3か月も取ってやってるのに、たった4日で出てくるとはね。そんなに俺に会いたかったのか?」
「は?いや、変な言い方するなよ。ただ、アルトにお礼を言おうと思ったのと買い物に来ただけだ。」
俺は何だか焦って返事をした。アルトは慌てている俺に爆笑していた。
「エイトってさ、ほんと真面目だよな。冗談も苦手そうだし。からかい甲斐があるよ。」
そう言って、すぐにアルトは真面目な表情になった。
「マイルと話をしたって?」
「うん、そうなんだ。」
俺はシェアハウスの皆がお別れにくれた手帳の中に、マイルが魔法のアイテムを隠していたことを話した。
「へぇ…数分しか話ができない水鏡か……」
アルトは腕組みをしながら、何やら考え込むようにして言った。
「アルト、もちろん変な事は言ってない。マイルを巻き込むようなことはしないよ。」
真面目な顔をして言う俺に、アルトはため息をついた。
「あの時はキツい言い方をしてしまったけど、エイトが理解してくれて良かったよ。ところでさ、今夜も話すんだろ?俺も参加させてくれないか?」
「えっ。もちろん良いけど、数分だからちょっと顔見るくらいだよ。」
「構わないさ。俺も今夜はバランの宿に泊めてもらうとしよう。エイトは買い物に行くんだろう?それが終わったらここに戻ってきてくれ。」
「ああ…分かった。」
「よし。じゃあ、また後で。」
アルトがそう言い立ち上がったので、俺もお茶を飲み干してから立ち上がった。
目当ての物が買えたので、リヴァリエル邸に戻るとアルトが用意をして待っていた。
一泊なので小さなバッグを持っている。
「じゃあ、行ってくる。明日の朝、迎えの馬車を寄越すよう手配しておいて。」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」
執事に見送られて、俺たちはリヴァリエル家の馬車に乗った。
いつもおしゃべりなアルトが、何故か馬車の中で無言だった。俺もなんとなく話しかけずにいた。
1時間足らずで馬車はバランさんの宿の前に着いた。
「エイトさん、お帰りなさい。まあまあ、アルト様。エイトさんを送っていらっしゃったのですか?」
出迎えに出てきて驚くクラリスさんに、アルトはウインクして言った。
「クラリス、数日ぶりだね。今日は僕も泊めてもらおうと思ってきたんだ。急だけどよろしくね。」
クラリスさんはアルトのマイペースさに目を白黒させていた。
「まあまあまあまあ!アルト様もお泊りを!?でもベッドはひとつしかありませんよ。」
「いいよ。エイトと一緒に使うから。」
クラリスさんは、俺を見ながら言った。
「エイトさんが良いなら大丈夫ですけど……」
俺を気遣うクラリスさんに、俺は微笑みかけた。アルトはある意味貴族だ。俺が必要以上に気を使うことを心配してくれたんだろう。
「大丈夫です。アルトと俺は、ひとつのテントで寝たこともあるので。」
「テント!?アルト様が?」
クラリスさんはまた違うことにびっくりしたようだ。
そういえば、あの時は大変だった。初めての野宿に興奮したアルトはテントの中でずっと騒いでいて、おかげで俺は寝不足になったんだった。
「まあまあ、クラリス。ここで立ち話もなんだし、中で話そうよ。」
アルトはにっこりして、クラリスさんを促すように彼女の肩を抱き、中に入っていった。
「おいおい、アルト。バッグは!」
俺は馬車の椅子に置いてあったアルトのバッグを取り、御者に「もう帰っていいみたいですよ」と伝えた。俺たちは馬車を降りたその場で話をしていたのだ。
御者は俺にすっと頭を下げ、表情を崩さず去っていった。プロだな〜。
とりあえず俺は、アルトをリビングに連れていった。
「本がたくさんあるんだな。もう読んだのか?」
アルトは本棚を興味深く眺めながら俺にそう聞いた。
「読んだというか一冊だけ。その地図の本。」
「ふーん、なかなか古い本ばかりだ。」
アルトはそれを手に取り、表紙だけ見てから本棚に戻した。
「マイルと話すのはいつ?」
「あ、夜になってからだよ。夕食後だ。」
今はまだ夕方だ。俺がそう答えると、アルトは本棚から一冊手に取った。
「じゃあ、それまで本でも読むとするか。懐かしいな、これ。子どもの頃に読んだものだ。」
彼はそう言い、ソファに座ると静かに読書を始めた。
「あ、じゃあ俺も。」
俺も本棚から野草の本を取り、向かいのソファで読み始めた。




