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この宿で過ごして4日目の朝。
トーストとチーズオムレツの朝食が美味しい。
今日はリヴァリエル邸を訪ねることに決め、食後のお茶を飲みながら、ふたりにその話をした。
「乗り合い馬車ですか?1日5回ほど通りますよ。」
クラリスさんがそう言い、バランさんは馬車が来る時間の少し前に、乗り場まで案内してくれた。
「乗り合い馬車だと途中でよく止まるから、2時間くらいかかるかな。リヴァリエル邸には、終点から15分くらい歩けば着くはずだよ。」
乗り場にはすでに待っている人が数名居た。バランさんは皆知り合いらしく挨拶していた。
「じゃあ、エイトさん。皆様によろしく伝えてください。気をつけてな。夕飯までには戻ってきなさいよ。」
手を振り見送ってくれるバランさんに、俺も手を振り返した。
「バランさんとこのお客さんかい?」
中年女性が話かけてきた。
「はい、そうです。」
「気持ちのいい人たちだろう。以前私が腰を痛めた時に、よく効く薬草を取ってきて貼ってくれたよ。」
「そうなんですね。とても優しい方々だと思います。」
その後、何度か乗り降りする人たちで止まりながら、馬車は終点に着いた。ここからだと、リヴァリエル邸までは徒歩15分くらいかな。
リヴァリエル邸を訪ねるとアルトは留守だった。
1時間くらいで戻るはずと執事さんに言われて、じゃあ買い物でもしてくるかと門に向かった。
その時、門が開いてリヴァリエル卿と奥方が入ってきた。
「おお、エイト君。いらしゃったのか。でもどうしたんだ。もう帰るのか?」
「リヴァリエル卿、奥様、こんにちは。今来たばかりですが、アルトが留守とのことで、買い物にいってまた戻って来ようと思います。」
「アルトは出かけているのか、それはすまないな。是非入ってくれ。アルトが帰って来るまで、私たちとお茶でもいかがかな?」
リヴァリエル卿と奥方だけの席とは緊張するが、お誘いいただいた以上断るわけにもいかない。
「ありがとうございます。では待たせていただきます。」
俺は彼らと一緒に、邸の入り口に向かった。
「で、どうだね、バランの宿は?居心地は良いかな?彼らなら良くしてくれるだろう。」
リヴァリエル卿は紅茶とケーキを出してもてなしてくれた。秋のフルーツがこぼれ落ちそうなくらい乗せられたタルトだ。
「はい、とても優しくしてもらっています。バランさんが皆様によろしくと言ってました。」
「ふむ、それは良かった。」
リヴァリエル卿は頷いて、紅茶を口に運んだ。
「しかし、意外だったな。君はうちに滞在するものとばかり思っていた。アルトと何かあったのか?それか、ドワーフ国で何か大変なことがあったとか。」
「いえ、アルトとは何もありません。ドワーフ国については…ちょっと。今はまだ話せるほどまとまってなくて……すみません。」
言い淀む俺に、奥方が助け舟を出した。
「あなた。エイトさんは今、バランのところで休暇中なのですよ。ねえ、そうでしょう?」
にっこり笑ってそう言う奥方の笑顔は、マイルに良く似ていた。
「落ち着いたら、エイトさんの方からお話してくれますわ。あの国のことは、焦っても仕方ないことですもの。」
「うむ…そうだな。すまない、エイト君。先程王と我々はドワーフ国の話をしてきたものだから。」
頭を下げるリヴァリエル卿に俺は慌てた。偉大な三大魔導家の当主に頭を下げさせるなんてヤバい!
「い、いえ!大丈夫です。また改めてお話させてください。」
リヴァリエル卿は頭を上げて、にっこり笑った。
「あ、じゃあひとつだけ。ホーデンには会いましたかな?」
「ホーデン?誰ですか?」
ホーデン……?なんか聞いたこと有るような無いような……
あ!以前リヴァリエル卿に聞いていた魔導士だ。
すっかり忘れてた……
アドが言っていた、『俺が忘れていること』ってこのことだったのか。
「ああ、もしかしたらエイト君には言ったつもりだけだったかも知れませんな。ドワーフ国に住み込んでいる変わり者の黒魔導士ですよ。会えたら一度戻って欲しいと伝えて欲しいのです。」
すいません……しっかり聞いてました……
「分かりました。ドワーフ国にはまた行きますので、探してみます。」
「手をかけてすまんが頼みます。まあ奴が帰ってくるとも思えないのですがね。」
その時、応接間の扉をノックする音が聞こえた。メイド
が扉を開けて、俺たちに伝えた。
「失礼いたします。アルティウス様が戻られました。」
「そうか、ありがとう。ここに来るように伝えてくれ。」
メイドにそう答えてから、リヴァリエル卿が俺に向かって微笑んだ。
「アルトが帰ってきましたね。では我々は失礼しよう。」
「リヴァリエル卿、美味しいお茶とケーキをありがとうございました。」
俺はその時、昨夜のことを思いだした。
「あ、リヴァリエル卿!俺、昨夜マイルと話をしたんです。」
「え?なんですと?マイルと?」
その時アルトが部屋に入ってきたが、俺はとりあえずそのまま続けた。
「マイルが通信用に水鏡を用意していて…昨夜それを使って少し話をしたのです。今夜も話す予定です。」
リヴァリエル卿と奥方は顔を見合わせて、ほっとしたような顔をしていた。
「そうですか。教えてくれてありがとう。マイルからはあまり連絡が無くてね。これからもマイルと仲良くしてやってくれると嬉しい。……ああアルト、お帰り。エイト君がお待ちかねだ。ではエイト君、ゆっくりしていってくれ給え。」
ふたりはアルトと俺を置いて出ていった。俺を見るアルトの表情は少し固かった。




