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夕食はクラリスさんの宣言通りシチューだった。
トマトをたっぷり入れて肉と野菜と煮込んだ、ハヤシシチューのような味だ。
俺はそのシチューをご飯にかけて食べた。やはりこれはハヤシライスだ!
「エイトさん、気に入ってくれたのね。たくさん食べてくれて嬉しいこと。」
クラリスさんがにこにこしながら、俺の2回目のお代わりをよそってくれた。
「クラリスさんが作ってくれるものは、どれも美味しいですね。このシチューの味付けはどうやってるんですか?」
この世界の料理は全体的に味が薄いのに、このシチューは香辛料でも入っているように味が深い。俺は高価な塩や砂糖を買ったりしているが、ここが宿とはいえなかなか一般家庭にはそんなに無いはずだ。
「ワシらはリヴァリエル家から充分な年金をいただけているので、高価な調味料を買うことができるんだよ。それを使っているだけさ。」
「まあ、バラン!それだけではないでしょ?エイトさん、バランはね、味付けに使えるハーブをとにかくたくさん知ってるんですよ。庭に菜園があるでしょ。あそこにたくさん植えてくれているので、美味しいものが作れるんですよ。本当にバランのおかげよ。いつもありがとうね。」
クラリスさんの言葉に、バランさんは照れたような顔をしていた。
「エイトさん、これも庭で採れたものですよ。どうですか?」
バランさんは話を逸らすように小さな器に入ったものを勧めてきた。固めに蒸した根菜にレモンのような柑橘の汁をかけたものだ。口直しに美味しい。
「これ、いいですね。口の中がサッパリします。」
「そうでしょう?ほら、こっちももっと食べて。」
食後のデザートにフルーツをいただいて、俺はリビングに戻った。
『随分と満足そうですね、エイト』
「ああ、アド。美味しかったよ。満腹だ。」
『まあ元気になってきたようで良かったです』
なんだ…アドも心配してくれていたのか?
「うん、ありがとアド。さて、マイルと通信してみるか。」
俺は部屋の灯りを明るくした。マジックバッグから取り出してテーブルの上に置いていたお皿に、マイルから貰った紙を入れた。
「水は普通ので良いんだよな?と言っても特別な聖水とか持ってないけど。」
テーブルの水差しから、そっとお皿に水を注いだ。
すると、中に沈む紙から淡い光が広がり、空中に手のひら大の水鏡のようなものが浮かんだ。
「……おーい、マイル。……聞こえる?」
俺はおそるおそるそれに向かい話しかけた。
『……エイトさん!良かった、使えましたね。』
水鏡の向こうにマイルの顔と、もはや懐かしいシェアハウスのダイニングが見えた。あーなんかほっとする。
「マイル!久しぶり。凄いな、こんな魔法が使えるなんて。」
『いえ、以前ね。アマルガリタさんが水鏡でタルスさんを呼び出していたでしょう?あれを見て思いついたんです。』
「えっ、あれを見て。うーん、さすがマイルはリヴァリエルだな。」
マイルは苦笑しながら言った。
『そんなことより、話ができるのはほんの数分です。お元気ですか?そこはどこですか?ドワーフ国ではないようですね。』
「ああ、アルトが手配してくれたバランさんの宿にいるんだ。ここでゆっくりさせてもらってる。」
『えっ、バランの!?懐かしいな、ふたりとも元気にしてますか?』
「うん、元気で優しくしてもらってる。」
『それは良かったです。』
俺たちは小さな水鏡越しに微笑みあった。
『エイトさん、困ったことがあったら何でもアルトに言ってくださいね。僕がお手伝いできればいいんですが、すぐに行くことはできないので……』
俺はアルトの言葉を思いだした。マイルを政治に巻き込むなというあの言葉だ。
「うん、そうする。ありがとう。ところで皆は?元気にしてる?」
『もちろん元気ですよ。ジェリコなんて、あの旅行のレポートが評価されて調子に乗っちゃって……』
『なに、マイル?何か言った?……あーーーーエイトさん!?何これ何これ!』
『ジェリコ!耳元で大きな声出さないで。今エイトさんと通信中なんだよ。あの、エイトさん、明日またこの時間で……』
興奮したジェリコがマイルを押しのけたのか、水鏡にはジェリコのアップが映った。
『こんなのマイルだけズルいぞ!エイトさーん!エイトさーん!元気ですか?エイ……』
あ、消えた。
俺は水鏡の浮かんでいた空間を見つめたまま、一瞬呆然とし、それから涙を流すほど爆笑した。ジェリコ、相変わらずすぎる。
ひとしきり笑ってから、マイルが明日と言っていたのを思い出した。
明日はほかの皆とも話ができるだろうか?楽しみだな。
俺は紙が消えた皿の水を捨てる為に風呂に向かった。ついでに風呂に入ろう。




