page.169
1週間かけてドワーフ国内の北部辺りを旅したが、結局のところ、どの町に行っても話はだいたい同じだった。
『鉱山にはもう資源がない、だから昔と同じ高品質の物を作ることもできやしない。』
『鉱山に残ってるクズ石使って、劣化版でも作るしかない、しかしそれはどうしてもプライドが許さない。』
町の酒場で酒を奢り、聞き出せたことはこんな話ばっかりだった。
ある町では、昔気質の職人と、新しいシステムでいいという職人での喧嘩もしょっちゅう。実際に目の前で殴り合いを始めたのを慌てて止めた。
「これって、もうどうにもならないのかな……」
俺はトコトコの中で寝転んで、空を見ながら独りごちた。
「旦那、昼寝っスか?扉閉めときます?」
「いや、閉めないで。」
扉を閉められたら完全に棺桶だ。それはなんか嫌だ。
この旅でポチはタメ口になってきた。移動用のコボルトたちは町にある支店で交代しているけど、彼だけはずっと一緒だし。
それはともかく、ドワーフ国にはもう資源が無い。これは確実のようだ。山を掘っても地下を掘っても同じらしい。
ダンジョンは?と聞くと、皆、口を揃えて「ダンジョン?王がダンジョンには鉱石は無いと言っている。」と言う。
「ダンジョンには鉱石なんて無い……か。」
ダンジョンでオリハルコンの欠片を拾ったことはある。しかしそれは、わざわざ『アイテムとして置いてある』という感じだった。
「うーん……気になるな。」
俺はふと思いつき、ポチに声をかけた。
「ポチ。いったんダルメル王国に戻るよ。国境の門のところまで連れて行ってくれ。」
「えっ。帰るっスか?」
「うん、人に会ってきたいんだ。ちょっと遠いからしばらく戻ってこられないとは思うけど。」
……まあ、あれを人と言って良いかどうか。
そして俺はそのまま国境まで送ってもらい、ポチに別れを告げ、門を出てから気が付いた。
そう言えばビンスタスからここまで、馬車で半日くらいかかったんだった……
うーん…どうする?風魔法で一気にビンスタスまで行くとさすがに力尽きるよな。ハクだと目立つし、近くで馬車でも捕まえられるといいけど。
そう思いながらトボトボ歩いていると、突然後方から大きな声が聞こえた。
「おーい!エイトさーん!」
振り返ると、ゴーレムが引くデカい荷馬車に乗ったグァルグァイたちドワーフがいた。
「もう〜、外出するなら先に言ってくれよ。まさか歩いてビンスタスまで行くつもりだったのか?」
何故か追いついてきたグァルグァイに驚いたが、今日はちょうど商品の出荷日だったとのこと。
「エイトさんは案外適当なんだな。今度からは交通手段を確保してからにしないと駄目だよ。」
「いや、本当に助かったよ。」
荷馬車に乗り込みほっとして言う俺に、グァルグァイは笑っていたが、ふと真剣な顔をして言った。
「やっぱり知らない国で行動するって、冒険者でも大変なんだな。コボルトたちをつけたとはいえ、しんどいでしょ。エイトさんは疲れてるんだよ。実際あんな親父のわがまま聞くのも義務じゃないさ。」
「いや、大変なのは君たちだよ。早くなんとかできればいいんだけど。」
「うん、その気持ちだけでもありがたい。ところで、今回は買い物でもするのか?」
目をキラキラさせていうグァルグァイ。人間界の物に興味津々だもんな。
「あ、そうだ。グァルグァイ、今日時間ある?タイミングが合えばだけどザガールドに会えるかも。」
「大丈夫だよ、俺たちが帰るのは明日の朝になってからだし。商品の卸作業はバスンワングの仕事なんだ。なあバスンワング、高く売ってきてくれよ。」
「はぁ…そうしたいんだがな。」
バスンワングと呼ばれたドワーフは静かにため息をついた。彼は会計担当だそうだ。
俺は荷馬車を引くゴーレム達を見ていた。
人間界では魔法が使えるのは三大魔導家の血を引く者だけだ。しかしドワーフはだれでも土魔法が使えるという。人間とドワーフは見かけが似ているようでも全く違う種族ということか。
「土魔法のゴーレムか。」
「ああ、さすがにこの大量の商品を運ぶにはゴーレムでないと。トコトコエクスプレスには、さすがに重量で断られるんだ。」
そうだろうな、コボルトではこんな大量の荷物を運ぶのは無理だ。
昼を回った頃、荷馬車はビンスタスに到着した。
商人専用の出入り口で受付をするバスンワングたちと分別れて、俺とグァルグァイは工業地区にあるザガールドの道場に行くことにした。
グァルグァイはその光景に興味津々だったようだ。馬車の中からキョロキョロと周りを見ている。
「今日はザガールドが居る日だと良いんだけど。」
道場の呼び鈴を鳴らしてみると、ザガールドの弟子のルークが出てきた。
「あっエイト殿!そのお連れの方は……?えっと、とりあえず入ってください。」
ルークは俺たちを柔軟場へ案内してくれた。そこでザガールドは皆に柔軟の指導をしていた。
ルークに声を掛けられたザガールドは、こちらをチラリと見てから「ちょっと待っててくれ!」と声を掛け、また指導に戻った。
グァルグァイは俺に驚いたように言ってきた。
「ザガールドは王子なんだろ?この国も王家と平民が一緒に行動するのが普通なのか?」
「いや、ザガールドがちょっと特別なんだよ。」
皆がザガールドにお礼を言って解散するのを見送ってから、彼は俺たちの方に来た。
「エイト、久しぶり!グァルグァイも来たのか、歓迎するぞ。」
「いや〜なんかびっくりだよ。」
「ここは、単なる俺の趣味だからな。」
驚くグァルグァイに、ザガールドは親しみをこめた笑顔を向けていた。
ザガールドが着替えてくるのを待ち、俺たちはグァルグァイが好きだというヤカテムカフェに移動した。
「うーん、これこれ。やっぱり美味いなぁ。」
感動するグァルグァイを微笑ましく見ながら、俺はこれまでのことをザガールドに話した。
「採り尽くされた鉱山しかないのに鉱石を探せ、か……いやはや難問だな。」
腕を組んで考え込むザガールド。俺はアルトがお勧めしていたアム茶とフィンランのセットを堪能しながら話を続けた。
「他にも気になることがあるんだ。だから、俺はフィルマルト王国に行ってくる。」
「フィルマルトって、以前うちと合同採掘した国じゃないか?そこに何かありそうなのか?」
グァルグァイは夢中になっていたケーキから顔を上げて俺に聞いてきた。顔にクリームついてるけど。
「うーん、ありそうっていうか……ちょっと知り合いに話を聞いてくるだけなんだ。」
グァルグァイが俺の顔を見て、真剣に言った。
「エイトさん、親父が勝手なこと言ったせいで迷惑をかけて本当にすまない。でも、何か国の助けになることがあれば、俺にも教えて欲しいんだ。」
「グァルグァイ、もちろんだよ。でも今はまだ期待はしないでくれ。俺にも何が分かるのか、それすら分からないんだ。」
「そうなんだ。いいよ、気にしないでくれ。」
俺たちはカフェを出て、ザガールドはグァルグァイをドワーフたちとの合流地点に送っていくと行った。
「エイト、気をつけろよ。何かあったらいつでも言ってこい。」
ザガールドはニカッと笑って言った。俺はその笑顔にほっとするのだった。




