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翌朝、俺はドワーフ国内の旅に出発することとなった。
早朝だというのに、グァルグァイとグィナムィグが見送りに来てくれた。
「エイトさん、気をつけてね。」
「国内の土壌は採掘の影響で荒れているので、風が強いと砂塵もキツいだろう。フードをしっかり被っていた方がいいぞ。」
心配してくれるグィナムィグの言葉と、グァルグァイのその実践的なアドバイスがありがたい。
そうだ。風がキツいときは、風魔法で薄く結界を張ろう。丸一日でなければ魔力もそんなに消費しないし、以前買ったポーションもまだまだある。
「エイトさん、地図は持ったか?水筒に水を入れておいたが、一気に飲み過ぎるなよ。夜は冷えるぞ、しっかり保温が必要だ。」
グァルグァイのアドバイスが延々と続いている。こういうところ、お兄ちゃんらしさが出てるなと、俺は自然に笑みを浮かべた。
「ありがとう。コボルトたちがついているし、移動は彼らに頼れるから。しばらくしたら戻ってくる。」
彼らに手を振り、俺たちは出発した。
通常のトコトコは、2体のコボルトが直接引っ張るだけなのが、今回は運行責任者付きということで、トコトコ本体の前部に小さな席が取り付けられていた。俺ではなく運行責任者が移動を指揮する為だ。
しかし、出発前にはこんな一悶着があった。
「あのさ、旅の間だけでも名前で呼んでいいかな?」
俺はコボルトたちに提案した。
「俺たちには名前なんて無いっスけど?」
きょとんとして顔を見合わせるコボルトたち。
「でも、なんか俺がやりにくい。あだ名つけてもいい?」
文化の違いでなかなか理解してくれない。
とりあえず責任者のコボルトにだけは、区別する意味であだ名をつけさせてもらうことにした。
「さて、どんなのが良いかな〜。」と悩む俺。
ふと『なすび』と頭に浮かび、慌ててそれを追いやった。あの姫と同じ思考パターンにはなりたくない。
いかん、提案したというのになーんにも浮かばん。
「……ポチでいい?」
脳死で浮かんだあだ名が採用されたのだった。
俺たちはまず、北東にある岩壁沿いにへ向かうことにした。採掘途中で放棄された場所があるかもしれないという情報があったからだ。
トコトコで走っていると、確かに砂塵がキツいな。フードでもぴしぴし感じるのでお肌が荒れちゃう。
俺はうっすら風魔法を張ってみた。
「旦那、魔法ですか?」
ポチが振り返り話しかけてきた。こんな微かな魔力に気づくんだな。
「うん、砂塵がキツいから。魔法は嫌か?」
「旦那が魔法使ったのが気になっただけですよ。ドワーフも土魔法を使うしね。砂塵がキツいならスピード落とします?」
「いや、このままでいいよ。まず1つ目の場所へ行って様子を見よう。」
俺たちは廃棄された鉱山に着いた。ここは主に銅が採れていたエリアらしい。コボルトたちには休憩を取ってもらって、俺はひとりで鉱山の中に入ってみた。
「なあ、アド。鉱山でいきなり選択肢とか無いよな?」
『鉱山はダンジョンではありませんから、選択肢もありません』
「そもそもなんでダンジョンでしか選択肢を出さないんだ?」
『秘密です』
「あーもう、相変わらずの秘密屋さんめ!」
鉱山の中を見回したが、考えたら俺は鉱山で作業した経験も無い。どうやって鉱石があるかどうかなんて見分けるんだろう?
「お〜い、旦那〜。」
いつの間にか、鉱山に入ってきていたポチが声をかけてきた。
「ポチ。ついてきたのか。」
「いやあの、旦那は普通の石と鉱石の見分け方って知ってるんです?」
「……知らない……」
ポチは呆れたように言った。
「それで、なんでこんなこと引き受けてるんです?」
「知らん!王のムチャ振りだよ!なんでもいいから鉱石出る場所見つけてこいって!」
俺の悲鳴のような言葉を聞き、ポチは何やら考えた様子でその場に座り込んだ。
「旦那、ここはまず作戦会議といきやしょうや。」
俺はポチの前に座り込み、話を聞いてみることにした。
「そもそも、なんでここに来ることに?」
ポチの言葉に、素直に答える。
「この放置された鉱山に、まだ鉱石があるかもと聞いたから。」
「で?鉱山の知識も無いのに見てみようと?」
「見れば何か分かるかな〜と思って……」
ポチはすくっと立ち上がり、可愛い肉球のついた手で俺をぴしっと指差した。
「無駄!時間の無駄!体力の無駄!」
ぐっ…と言葉に詰まる俺に、ポチは重ねて言った。
「いいですか、旦那?鉱山の良し悪しなんてプロにしか分からんですよ!ここで素人が眺めていても無駄!こんなことしてるよりドワーフの集落でも訪ねて、まずは状況を聞いてみないと!」
「確かにポチの言う通りだ……俺は無駄なことをしてしまってた……」
ポチはにっこり笑った。更に犬が喜んでいる時の顔に見えて可愛い。
「無駄なことが分かった。それは一歩進んだってことで良いでしょ?俺に地図を見せて下さい。まずは一番近い集落か町に行きましょうや。」
俺は行き先を完全にポチに任せた。
そして風魔法を使い、俺の言葉が外に漏れないようにして、アドに話しかけた。
「なあ、アド……俺ってさ、適当に進めばストーリー通りになると、単純に思ってたかもしれない。」
『そうですね、そういう場合もあるかもですね』
「今はそうじゃないから、なんか落ち込むわ……」
アドは不思議そうな声で言った。
『なんで落ち込んでいるのですか?エイトはドワーフ国まで来ているのですよ。クエストはちゃんとこなしていってるじゃないですか』
「うーん…そういうことじゃないんだよな。訳が分からないのが怖いから、それから目をそらしているだけかもしれない。」
ポチが声をかけてきた。
「旦那!集落が見えてきましたよ。」
「あ、ありがとう。じゃあ行ってみるか。」
そこにはドワーフが10名ほど住んでいた。彼らは一家だそうだ。
「採掘の調査ですか?この辺りではもうなんも採れんですよ。仕方ないので、ワシらは芋を栽培して食ったり売ったりしています。職人の爺ちゃんなんてもう落ち込んでしまって……」
「そうか、仕事が無いんだもんな。」
「町の方へいけば職人の仕事はあるんですが、劣化版の製品作りじゃねぇ。でももうしょうがないのかな。」
「そんな状況なのか。ありがとう。あと、芋を売ってくれるかな、後で焼いて食べたいんだ。」
俺は芋の代金として銀貨を渡そうとしたが、そんな高額受け取れないと断られたので、代わりにパンとチーズを渡すと喜んで受け取ってくれた。
彼から買った芋は痩せ細ったものだった。ドワーフ国は元々栽培に適したような土地じゃないんだ。この岩と砂だらけの土地だから、大量に採れていた鉱石から作る工芸品の輸出に頼るしかない。
「ポチ、次は町に行ってみようか。今日はそこで宿泊しよう。」
「へい!」
俺はトコトコに乗り込んで次の町へと向かった。




