page.166
夕食の時間だと起こされた俺は、グァルグァイに連れられて食堂へと行った。
ドワーフでごった返すその場所には、背の低い岩でできた大きな丸いテーブルがいくつかあり、それを囲むように床に座り込んで食事をするようだ。
彼らはその大きなテーブルから好きなように料理を取って食べていた。置いてあるのは何かの肉の薄切り、野菜をちぎっただけのようなサラダ、タマネギのようなものが浮いたスープだ。
「エイトさん。スープもお代わりいかがですか?」
グィナムィグが俺の皿にお代わりをよそいながら言ってくれた。彼はグァルグァイの弟だ。
まだ子どものドワーフだから、髭は全然生えていない。男のドワーフはみんな髭がどっさりもっさりしているが、女性と子どもにはほとんど髭が生えないらしい。
とにかく彼は今、初めて会う人間の俺に興味津々の様子だ。
そのグィナムィグが俺にべったりなせいか、他のドワーフは絡んでこず、落ち着いて食事ができた。
「王族は別の場所で食事したりしないんだな。」
戻りながらグィナムィグに聞いてみた。
「ドワーフは皆同じところに集まって食べるのですよ。違うのはお酒の量くらいじゃないかな。僕はまだ子どもだから飲む気はないけど。あはは。」
明るく笑う彼が可愛いな、何歳くらいなんだろう。ドワーフは人間より寿命が長いから、もし年上だったらショックだけど。
部屋に戻ると、グァルグァイと一緒にドワーフの男性が居た。そこそこ高齢なのかな。顔に深いシワと髭がグレーになり始めている。
「エイトさん、この人がガンラガンダだ。そちらの部屋でこの国について勉強すると良いよ。」
「え〜、僕もっとエイトさんとおしゃべりしたい〜。」
「ダメダメ。邪魔しないの。」
グァルグァイは弟の頭をぽんぽんと撫でて、彼を連れて部屋を出ていった。
俺はガンラガンダと呼ばれた男の方へと近寄り頭を下げた。
「ガンラガンダさん、ご教示よろしくお願いいたします。」
丸メガネをかけた彼は、厳しい目を俺に向けた。ちょっと怖そうな感じがしたが、まあ人間が好きなドワーフなんてそう居ないしな。
「ああ、よろしく。この国のことを知りたいんだな。ワシで分かることならなんでも聞いてくれ。」
話をしてみると意外と気安いのかも。
俺たちはグァルグァイが言っていた通り、隣の部屋に入った。小部屋と言いながら意外に広い。
グァルグァイが用意してくれていたのか、お茶が入った大きなカップを前に俺たちは床に座り込んだ。
ガンラガンダは、俺たちのお茶を脇に寄せて、テーブルに大きな地図を広げた。
「これがこの国の全体図だ。大々的に採掘される前だから、山の地形などは違ってみえると思うが。」
へぇ…これがドワーフ国なのか。意外と大きくないように見える。
『これだと愛媛県くらいの広さですかね』
アドがそう言ってきたが、俺にはその大きさが分からん。
『ミカンを転がすと、一兆五千個ぶんくらいですよ』
愛媛だからって全体にミカンが転がってるわけないだろ。
とりあえずアドのことは無視して、地図を凝視する。
「この国は大体3つのエリアに分かれている。私たちが今いる北部、特に何もない中部、そして南部。この丸がついているところは、鉄、銅、その他の鉱石が採れた場所だ。しかし今は南部の鉱山だけが頼みの綱となっている。」
ガンラガンダは地図の南の辺りを指差した。
「じゃあ、他のエリアはもう採り尽くした場所ということですか。」
「ああ、山も地面もとっくに掘り返してボコボコだ。」
「へぇ、するとダンジョンの中もですか?」
俺はふと思って聞いたが、ガンラガンダは意外そうな顔をした。
「ダンジョン?何を言ってる?ダンジョンに鉱石などあるはずがないではないか。」
「そうなんですか?ダンジョンは地下にあるから、壁とか掘り返したら鉱石が見つかるのかと思ってました。」
ガンラガンダは黙って俺を見つめていたが、やがてため息をついた。
「ダンジョンか。あれは『道』だぞ。」
「道?ああ、ダンジョンボスへのってことですね。」
「……ふぅ、私からは説明はできん。王に会ったら聞いてみると良い。」
ダンジョンが道?なんか初めて聞いた言い方だな。
まあ今はなんとかひとつでも使える鉱山を見つけるのが先なんだ。それでこの国の諍いを治めて仲間を見つけて……
あれ?そういえば、どうやってドワーフの仲間を見つけるんだっけ?ドワーフのクエストって妙に漠然としているんだよな。後でアドにヒントくれって言ってみよ。どうせ無駄なんだろうけど。
そのあと俺は、ガンラガンダに地図の写しをもらい、飲める水のあるところや、夜間過ごせそうな場所という、実用的なことを教えてもらうことに終始した。




