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俺はさっきまで皆といた広間で待たされていた。
ウルィルウさんがまた茶を淹れてくれたが、それがすっかり冷めてしまった。
更にしばらく待っていると、グォウヴォブ大臣がようやく戻ってきた。
白髭をたっぷり蓄えた彼はサンタクロースの格好が似合いそうだなとつい思ってしまった。
「エイト殿、お待たせしましたな。王の説得にちょっと時間がかかってしまった。どうぞこちらへ来てください。」
彼は穏やかな笑みを浮かべ、俺を促した。
見ると広間の左側には扉があり、そこから違う部屋へ移動するようだ。ここの内部の扉は岩ではなく、全て鉄製なのかな。
その扉もやはり低いので、少しかかんで通り抜け、数分歩くと扉が見えてきた。グォウヴォブが扉を開いた途端に目の前が眩しく、俺は一瞬目を細めた。
そこは外だった。
「え?あれ?外に出ちゃったんですか?」
「ええ、こちらに王の部屋がありまして。」
訳がわからないという顔をしている俺に、グォウヴォブが笑いながら言った。
「実際は、外に出たという訳ではありません。我々は入ってきた岩壁の内部に居ますよ。ただ、この広大な岩壁の内部には、いろんな空間ができているというだけです。」
見上げると広い空があり、鳥が飛んでいるのが見えた。俺たちはその日差しの差し込む庭園のようなところを歩き、石造りの小屋へ到着した。
「こちらで王がお待ちです。私も同席させていただくのでご心配なく。」
グォウヴォブが扉を開きながら言った。
いよいよあの王と話をするのか。気が重いな。
「来たか。」
グダァグダン王がこちらを見た。
あれ?なんかさっきとイメージが違う。駄々っ子みたいな不貞腐れた感じではなくなり、代わりに威厳みたいなものを感じて俺は気圧された。
「あの……失礼します。」
グォウヴォブが椅子を引いてくれ、俺は王の正面に座った。
「あらためて挨拶する。ワシがこのドワーフ国の王、グダァグダンだ。100年弱、この国を統治しておる。」
「俺はエイトと言います。21歳で、以前から冒険者として旅をしています。」
王は俺をじっと見て話し始めた。
「勇者にしては、思ったより若いな。……突然、ダルメル王から勇者をドワーフ国へ滞在させろと言ってきた。我々は外の世界とは商品の取り引き以外の交流はしていないというのにだ。」
王は、テーブルに置いてあったボトルからワインを注ぎ一息に飲み干した。
「飲むか?」
「あ、はい。少しいただきます。」
王はグォウヴォブにグラスを用意させ、俺とグォウヴォブにもワインを注いだ。かなりキツい香りの赤ワインだ。
「我々が交流を持たないのは、ドワーフの文化と技術に誇りを持っている為だ。我らの卓越した技術は我らだけのもの、人間に模倣などされたくない。分かるか?」
「えっと…職人としての誇り、でしょうか。俺は不勉強なので、言い方がおかしかったら申し訳ありません。」
「ああ、ここではそんな遠慮した言い方はするな、舐められるぞ。」
手をぶんぶん振って、俺をたしなめるようにする王。なんだこの人、意外と普通に話せそうだ。
しかし、王は暗い目をして言った。
「……しかしだ。その誇りも踏みにじられてしまった。人間界に住むお前はもう気づいているだろう。ドワーフの作る作品の質の低下について。」
そうだ。俺もそれはおかしいと思っていた。
「ええ、ドワーフ製品にしてはおかしいと思っていました。例えばこれですよね?」
俺はランプを取り出した。以前、シェアハウスに住む時に、街で買い求めた物だ。
王はそれに目を向けると、低い声で唸り始めた。
なんか怖っ。
「……枯渇だ……この国には、もう資源が尽きかけている……」
王が唸るように声を絞り出し、グォウヴォブが俺を見て言った。
「エイト殿。移動中にご覧になったと思いますが、我々は様々な鉱石を採掘し、製品を作ることを生業としてきました。人間界でも流通している魔導ランプや魔石コンロなどもそう。頑丈で実用的な物を作り続けてきました。」
王は、俺がテーブルに置いていたランプを殴りつけるように横に叩き出した。ランプは壁にぶつかって、簡単に首が折れ、粉々に壊れた。
「我々が作ってきた物はこんなヤワなものではなかった!」
王はまたグラスにワインを注ぎ、一気にあおった。
グォウヴォブは王からワインボトルを取り上げ、自分のグラスに注いだ。
この人たち飲むペース早いな、さすが酒好きと言われるドワーフだ。
「今は細々と採掘される鉱石と土を混ぜたもので作る材料で商品を作っています。なので、こんな壊れやすい物になってしまうのです。」
「しかし、それでも使えるものを作れるのは、凄い技術なのでは?」
王はギロっと俺を睨んだ。怖い!怖いから!
「お前はグァルグァイと同じことを言うのだな!劣化品でも仕方ない、生きていく為だと!そんなこと言われんでも分かっている!王として国民を守る為には仕方ないかもしれんと。しかし、誇りはどうなる!我々ドワーフの誇りは!!」
グダァグダン王は慟哭していた。テーブルに突っ伏して、ドンドンと叩きながら泣いていた。
「王……飲みすぎですよ。ほんと酒に弱いんですから。」
グォウヴォブはそう言いながらワインを一息にあおり、ため息をついていた。




