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ザガールドの道場は、近隣の人たちで賑わっていた。
この施設で教えているのは、しっかり柔軟するという運動の基本中の基本。その基礎ができてから、ダンベルような重い器具を使い筋肉を鍛える人や、ヨガみたいに身体をしなやかにする運動などに進める。なんと利用は誰でも無償だそうだ。
「以前、この工業地区では風邪などの病気が流行りやすくてな。しっかり働くためには、まず病気にならないように身体を鍛えようということで始めたものだ。引退した騎士や、元タンクなどの冒険者を私が人選して指導してもらっている。もちろん彼らには給与を支払っているぞ。」
ザガールドが道場の中を案内しながら話してくれた。なるほど、ここはさながらスポーツジムのようだ。
「道場っていうから、格闘技をメインにしているのかと思ったよ。」
俺が言うと、ザガールドはニカッと笑った。
「体力があり余っている奴らは、格闘技をやっているぞ。たまに王の御前試合なんかをやらせている。しかし戦士では無いからな、怪我をしないようあくまで余興だ。」
ザガールドは俺の動作を見て、みっちりと本格的な柔軟方法を教えてくれた。普段使わない筋肉を動かすこの運動は、しっかりやるとかなり汗をかくもんだな。
「柔軟は基本だ。ケガの予防や疲労回復に役立つ。頑張って続けてみるんだな。」
ガッチガチだった俺の動きを見て大笑いしていたザガールドに、俺も思ったより自分の身体がガチガチだったことに大笑いした。
帰り道、アルトは窓の外の工業地区を見ていた。
「しかし、よくザガールドに付き合ったな。」
「曲者どころか、至極真っ当じゃないか。性格も良さそうだし。」
明るく答える俺に、アルトは苦笑していた。
「まあね、性格は良いんだろう。魔法は毛嫌いしているのに、俺と普通に会ったりするんだから。」
「えっ、そうなのか?」
「まあ彼がと言うより、母親の第五妃の家がだね。知っての通り、この国を治める王は政略結婚で何人も娶る必要があるだろう?あの家とうちとは昔からの因縁があるそうだよ。」
そうか、王の子が多くなると、次の王が誰になるとか、そういうことで揉めることも当然あったんだろうな。
あ、政略結婚と言えばリヴァリエルもか。
「そういや、アルトにも婚約者がいるんだよな。リヴァリエルの血縁者の中から選ぶとか。」
アルトが俺の顔をチラリと見て面白くもなさそうに言った。
「ああ、マイルから聞いた?そうだよ、俺には15歳の時から婚約者がいる。」
「でも、メイリンのことも好きだったのか?」
「それも聞いたか。」
マイルからは、アルトには複数の彼女が居るだろうことも聞いたが、それは言わなかった。結婚するまではそれは自由らしい。俺にはよく分からんが。
「メイリンは可愛いな。はきはきと明るくて探究心がある。魔法に興味があると、たくさん質問してきたよ。あんな情熱的な子とずっと過ごせたら楽しいだろうなと思った。」
彼は馬車の天井を眺めながら、ふっと笑った。
「今は恋愛に興味ないと、しっかり振られたけどね。でも、もし彼女がビンスタスの施設で学びたいと言ってきたら、最大限支援するよ。」
俺は恋愛経験が無いに等しいので、こういう場合は何を言っていいのか分からず黙っていた。アルトはいたずらっぽい目で俺に聞いてきた。
「なあなあ、エイト。マイルはメイリンとヒマリのどちらかと付き合うと思う?」
「ええっ!知らないよそんなこと。それにマイルはまだエルさんのこと……」
「だろうね。でも、エルには王との子もできたんだ。兄としては、可愛い弟にはそろそろ吹っ切れてもらって、可愛い彼女でもできて欲しいじゃないか。」
「アルト……」
マイルは従姉妹のエルが王と結婚することが決まっていたから苦しくて家を出たんだ。それももう昔のこととはいえ。
「じゃあさ、エイトはメイリンとヒマリのどちらが好きなんだ。うーん、分かった!ヒマリだ!」
「勝手に決めるな!彼女たちは友達なんだから!!」
「ふっ、友情から芽生える恋もあるものだよ。」
「そうかもだけど!」
何故かアルトの恋バナ?みたいな話に付き合いながら、俺たちは馬車の中で賑やかにリヴァリエル邸に戻っていった。




