page.156
翌日はザガールド王子と顔合わせすることになった。
王宮で会うのかと思ったら、王子が運営している道場へ向かうということだ。
「その方がお互い気楽でいいだろうってさ。ザガールドの人となりも分かるだろう。」
朝食後、アルトと俺はさっそく馬車に乗り、街の中央から外れ、工業区を抜けた辺りにあるという道場へと向かった。
「この辺りはまだ来たことがなかったかな。」
馬車の外を見ながら言う俺に、アルトは頷いていた。
「まあそうだろうね。旅のついでに寄る方面じゃない。こんなところに興味があるのはユアン君ぐらいじゃないかな?」
馬車のメンテナンス関係の仕事をする父を持ち、自身も魔導馬車の研究のために、大学のような学術施設で勉強しているユアン。元気にしてるかな。
「あ、エイト。あの建物がザガールドの道場だ。」
アルトが指を差した方向を見ると、工業区の建物に紛れるように、他の建物より少しだけ高い灰色の建物があった。
「へぇ…王室の持ち物にしては地味な感じだな。」
「ザガールドは元々派手好きではないし、あれは廃工場を再利用している。とにかく頑丈な建物だと気に入っているようだよ。」
なるほど、アルトが曲者と言っていたように、王子というイメージとは違う人物のようだ。
馬車は道場の前に到着し、俺たちは門の前に立った。アルトが呼び鈴を鳴らすと、すぐに男性が現れた。王宮の制服を着ている青年だ。
「アルティウス様、そしてエイト様ですね。お待ちしておりました。」
「ああ、ありがとう。君は確かルークだね。王子のお付きは慣れたかい?」
ルークはびっくりしたようにアルトを見た。
「はい、そうです。僕のことを覚えておいででしたか。」
「ああ、もちろん。ザガールドが良い弟子を手に入れたと、君を紹介してくれたことがあったからね。」
ルークは顔を真っ赤にしていた。素直で可愛らしい青年だな。良く見ると10代半ばから後半といったところだろうか。
ルークが案内してくれたのは応接室だった。
「王子。アルト様とエイト様をお連れしました。」
ルークが扉をノックすると、中から「おう、入ってくれ。」という声が聞こえた。
中に居たのは、高身長でがっしりとした赤っぽい毛色の男性だった。エルフみたいに背が高い。平民のような簡素な衣服は、王子というよりは熟練の冒険者のような気配を見せている。
「アルト。久しぶりだな。エイト殿、よく来てくれた。」
ニカッと豪快に笑う様は、やんちゃっぽくはあるが、どことなく高貴さも感じるものだった。あの王とはかなり印象が違うけど、垂れ目が似ていて愛嬌がある人だ。
「まあ座ってくれ。ルーク、茶を出してくれるか。」
出された茶を見てアルトは顔をしかめていた。
「うぇ…またこれか。」
「まあ、そう言うな。これが一番身体に良いんだ。」
ザガールドはニヤリと笑い、一気にあおった。
俺の目の前にも同じ物が置かれていた。薬草茶というにはもっとドロっとしたような、いわば青汁だ。
青汁なら親に飲まされていたことがある。中学生の時、成長期だから飲めと毎日毎日。
俺は「いただきます」と手をのばし、青汁をひと口飲んだ。うん、かなり濃いが飲める。それを飲み続ける俺を、アルトは信じられないものを見るような死んだ目で俺を見ていた。
「ほう、エイト殿はこれを飲んでくれるんだな。美味いだろう。」
ザガールドは嬉しげに、ルークにお代わりを入れてもらっていた。
「それで、アルト。俺たちはドワーフの国を表敬訪問すると聞いたが、何をすれば良い?何せ父も行ったことがないという。リヴァリエル卿も同様だろう。」
「ああ、最初はエイトだけがドワーフ国に行くつもりだった。しかし父はこれを機に、ドワーフ国ともう少し繋がりを持ってもいいのではないかと王に進言したようだ。我々息子たちなら、まだ警戒はマシなのではないかとね。」
ザガールドはソファにもたれ掛かりながら聞いていた。
「ふーん。しかし俺は特に外交に興味は無いぞ。外交ならディノルドの方が向いていると思うが。」
ディノルドは第二妃の長子で、今は他国に外遊中とのことだ。
「今回は単なる訪問だから、外交という目で見ることのない君の方が面白いだろうとの人選だよ。僕らなら同世代だしね。」
同世代か。ならザガールドもアルトと同じ23歳くらいなのかな?
「なるほどね。それでいいなら納得だ。適当に顔見せしておくだけだな。ついでにドワーフの格闘技も見せてくれるかな?」
「ふふっ、それぐらいの方が警戒されなくていいさ。」
ザガールドは俺の方を見て言った。
「ところで、エイト殿はなぜドワーフ国に行くのかな?」
「王子、俺のことはエイトと呼んでください。ドワーフの国に行くのは、まあ、冒険者として探し物があるって感じで。」
間違いではないがはっきりも言えない。俺も誰が仲間になるドワーフなのか、まるで予想がつかないからだ。
「とにかく行ってみなきゃ分からないんだ。」
俺のこんな話に納得したのかしてないのか、ザガールドはアルトを見て言った。
「冒険者っていうのは、こんな適当な感じなのか?あの吟遊詩人の歌の内容とはかなり違う印象なんだが。」
「俺も冒険者のことは詳しく知らないが、俺も弟も信用できる奴だと思っているから。」
ザガールドはまだ少し不審げだったが、頭をブンブン横に振ってから言った。
「まあ、突っ込んで聞いて、めんどくさいのもいやだからな。とりあえずドワーフの国に行くのは面白そうだ。エイト、よろしく頼む。」
俺は差し出された大きな手を握り返した。
「王子、こちらこそよろしくお願いいたします。」
「エイト、俺のこともザガールドでいいぞ。さて、せっかく道場に来てくれたんだ。一緒に汗をかこう。」
手を掴んだまま離さない笑顔のザガールドに、俺も笑顔を浮かべたまま、内心の冷や汗は止めることができなかった……




