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「あっははは!それは災難だな!!」
目の前でお腹を抱えて笑っているアルトに、俺は非難するように目を向けた。
ビンスタスに到着するなり、リヴァリエル家を訪ねて、とりあえずアルトに匿ってもらったのだ。
「アルト、ほんと笑いごとじゃないんだ。吟遊詩人が俺について、あることないこと広めまくっているから。全くもう、ギルドに行くこともできやしない。」
今や全土に俺のことは広まってしまっていた。エルフの美しいユニコーンを優雅に狩り、魔物を撃退した勇敢な勇者。各国の姫君の熱愛を受ける、すらりとした金髪碧眼の美丈夫だそうだ。
「でもさ、エイトは黒髪黒目じゃないか。もう噂は別人のことになってしまっているし、大丈夫じゃないか?」
「うん。でもそうとはいえ、ギルドの職員は俺がエイトだと分かってるし、実際依頼も殺到しているんだ。」
そうなのだ。普通の依頼もあれば、俺に会いたいだけの冷やかしの依頼も大量に届いていると、ギルド職員が困惑したように苦笑していた。
「まあ、金髪碧眼だという話に変わっているのは助かるけどね。」
「ああ、それは俺が流しておいた。吟遊詩人達に内容を変えるように依頼してね。さすがに外も歩けないようでは困るだろう?」
アルトは俺にウインクし、俺は目を丸くした。
「ええっ!そうか、アルトが手を回してくれたのか。ありがとう。」
「当然だろう、エイトは弟の親友だし俺の友でもある。」
アルトは紅茶をひと口飲んで、いたずらっぽく目を輝かせた。
「しかしさ、これで皆は居もしない金髪碧眼の勇者様を探す訳だ。なかなか痛快だな。」
「……偉大なリヴァリエルの次期当主の言葉かよ。」
俺はアルトに感謝しつつも、同じ顔のマイルとは違うやんちゃさに苦笑した。
しかし、金髪碧眼の勇者か……まさか、あの勇者アルマスが俺だと勘違いされたりはしないだろうか?
いや、さすがにあの天然のアルマスも人違いだと言うだろう……
言うよな?まさかレベル8で、調子に乗って変な依頼を受けたりしないよな??
そこはかとなく不安を感じつつも、俺は何かを話していたアルトに気が付いた。
「……おい、エイト。聞いているのか?」
「いや、ごめん。ちょっと考え事をしてた。何か言ってたか?」
「だから、俺もエイトと一緒に、ドワーフの国に行くから。」
「ええっ!そうなの!?」
アルトの話はこうだ。
俺のドワーフの国への自由入国許可を取る話の時に、国王は王子とアルトの表敬訪問の許可も取れないかと交渉していた。
ドワーフの王は表敬訪問を渋っているが、まもなくそちらも承認がおりるだろうと。
「まあザガールド王子と俺は日帰りだ。王族絡みはあまり長時間は滞在して欲しくないそうだよ。」
「そうなんだ。ドワーフ国はさすがに初めてだから、行きだけでも一緒なのは心強いな。」
「そうだろう。こちらもエイトが一緒なのが心強いだろうと、王の計らいだ。滞在時間中はエイトに護衛の依頼をするから。頼んだよ。」
そう言ってウインクするアルトだが、絶対お前の方が強いから。
その夜、リヴァリエル卿と奥方、そしてアルトとの食事に招待された。
「エイト殿。あらためて、エルを救ってくださってありがとうございました。」
深々と頭を下げるリヴァリエル夫妻に、俺は慌てて頭を上げてくれと言った。
「それより、アルトもドワーフ国に同行すると聞きました。表敬訪問なんですね。」
「ええ、我らの世代ではなかなか交流が難しいですが、ドワーフ国は隣国でありますし、次代ではもう少し交流ができればと思いまして。そう、王に進言してみたのですよ。」
リヴァリエル卿は穏やかにそう言った。アルトが家を継ぐ時に、実績を付けておく意図もあるのだろう。
「エイト、ザガールド王子はなかなか曲者だぞ。楽しみにしておいてくれ。」
「アルト!王子に対して失礼ですよ。」
リヴァリエル夫人にそう言われ、さすがのアルトもバツの悪そうな顔をしていた。
「ザガールド王子とはどのような方なのですか?」
「彼はダルメル王の第五妃の長子です。格闘技に傾倒しておりましてな。小規模ながら領地で格闘技大会も主催するほどです。エイト殿も選手として招待されるかもしれませんな。わっはっは。」
「うぇぇ、無理です!無理無理!!」
リヴァリエル卿は説明しながら、俺のビビった顔を見て笑いだした。
「あなた、そんなに笑わなくても。そうですねぇ、エイトさんは格闘技には向いてなさそうね。勇者だから剣技がお得意なのね。」
奥方が優しくフォローしてくれたが、俺の返事を聞いて少し顔色を変えた。
「ええ、あと風魔法が使えます。」
「何!エイト殿は魔法が使えると!」
「ええ、少しですが……」
身を乗り出すように言うリヴァリエル卿に、俺は少し驚いた。そうだ、この世界、魔法が使えるのは三大魔導家のいずれかの血を引いているという設定があるのだ。
「ふむ、ではエイト殿は何家の者か?リヴァリエルではないな。」
「……それが、俺は子どもの頃の記憶が無いので分かりません。剣士だった親父が、旅の途中で拾ったとかで。」
俺の話にリヴァリエル卿の顔が和らいだ。
「そうか。そのようなことが……」
「父さん。エイトの家系を調べることはできるかな?」
俺は慌ててアルトに言った。
「いや、いいよ。別に今更だし、手を煩わせるしさ。」
そもそもここはアドベンチャーゲームブックの中の世界で、俺は勇者にされただけの普通の大学3年生。
ストーリーの開始が森の中だったことを思えば、生い立ちは伏線どころか、元々設定されていないかもしれない。
「え…でも、本当に良いのか?」
「うん。それより今はドワーフ国のことが気になってるしさ。」
俺たちの会話を聞いていたリヴァリエル卿が頷いて言った。
「そうだな。他の魔導家に依頼して調べるとしても、相当な日数がかかるだろうし、そもそも魔導家同士にあまり交流はないのでな……」
「ええ、リヴァリエル卿。お気になさらないでください。」
俺はにっこり笑って、なんとか話を打ち切った。




