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俺はマルトルを連れて、街から出たところの森の中にいた。冒険者のキャンプの様子を見せるためだ。
通常は夜間にすることだが、子どもを連れて野宿はできない。なので真っ昼間にテントを張り、魔導コンロで料理をして見せている。
マルトルが、鍋から立ちのぼる野菜スープの匂いをくんくん嗅いでいるのが可愛い。
「いつもこんな感じなんですか?」
「ああ、後はパンと干し肉くらいかな。水は湧き水が飲めるし、泉が近くにあれば洗濯もするよ。」
マルトルは俺の言葉をメモしている。一体どんな風に書かれているか気になるな。
「エイトさん。僕も吟遊詩人のジョワヤナさんみたいなかっこいい詩を書こうとしてるんですけど、難しいですね。なんにも浮かんでこなくて。」
それは、参考にしている俺の生活があまりに地味なせいじゃないのか?とはいえ、冒険者の生活なんてこんなもんなんだよ。とてもじゃないが、俺には吟遊詩人の詩みたいは真似はできない。
「マルトルは楽器が弾けるんだろ?普段どんなのを演奏してるんだ?」
簡単な食事を終え、温めたミルクを飲んでいる彼に聞いてみた。
「僕はギターを弾いて、歌う練習をしています。」
「へぇ、聴いてみたいな。」
マルトルは照れたように赤くなった。
「僕はかっこいい詩が書けなくて。聴いても笑いませんか?」
「もちろん笑ったりしないよ。俺はマルトルの歌を聞きたいんだ。」
マルトルは傍らに置いていた袋を開けて、大人のものより少し小ぶりなギターを取り出した。そしてそれを演奏しながら、済んだ柔らかい声で歌った。
僕の窓辺に花が咲くよ
まるで君の笑顔みたいだ
花は咲くよ
君が咲くよ
君が笑うように
花も咲くんだよ
歌い終わって真っ赤になっているマルトルに、俺はたくさん拍手をした。彼の声にぴったりな可愛い歌だ。
「おや、なんとも良い歌声が聴こえましたな。」
このねばっこい喋り方は……うげ、またあいつか。
振り返ると、やはりそこには先日会った彷徨える楽団がいた。マルトルは突然現れた6名にびっくりしている。
「冒険者よ、またお会いできましたな。そして音楽の天使がいらっしゃるとは。」
ヨガーロはそう言って、恭しくお辞儀をした。
「えっ、天使って?」
マルトルはキョロキョロしている。そんなマルトルをヨガーロは慈しみ深い目でみつめた。
「少年、そなたの歌声は天界の響きだ。よければ我らと一緒に歌いませんかな?」
ヨガーロはメンバーに合図をし、皆が演奏の準備を始めた。へー、本格的なんだな。ギターや打楽器、バイオリンに笛なんかもいる。
マルトルはヨガーロの側に呼ばれた。
「僕、あまり知らないですけど……」
オドオドしながら言うマルトルに、ヨガーロはウインクして言った。そのウインクも胡散臭いけどな。
「先程の歌ですよ。我々もう覚えましたから。少しアレンジしますが。」
後ろの楽団が静かに演奏を始めた。マルトルの歌に前奏を付けるように弦を弾き、ドラムを叩き、笛やバイオリンの演奏が流れ始める。
始めて聴いた曲のはずなのに、彼らの息のぴったり合った演奏に、俺は驚いて思わず息をのんだ。
そしてヨガーロが歌いだした。
うわ…なんだこの声。声、と言うより様々な楽器の音色みたいだ。低く高く、微かになったり大きくなったり。
そしてヨガーロはマルトルを促して一緒に歌い始めた。
その完璧なハーモニーと演奏に、声もなかった俺は、思わずたくさん拍手をした。
「凄いな!こんな凄いの初めて聴いたよ!」
語彙力が乏しくなったが気にしない。だって本当に凄いんだ。
マルトルも頬を紅潮させてヨガーロと見つめあっていた。楽団の皆も笑顔だ。
ヨガーロはマルトルの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「少年よ、良い声だな。もっともっと歌うといい。世界がお前を待っているぞ。」
そう言って皆に楽器を片付けさせた。
「では我らは行くかな。さらばだ。」
ヨガーロと彷徨える楽団は、また森の中に消えていった。あいつら、荷物多いんだから街道を歩けばいいのに。
マルトルは俺を見あげて言った。
「エイトさん。僕、感動しました!吟遊詩人を目指すのはやめて、僕の思う僕だけの歌を歌うことにします!」
「そうだな。マルトルにはそのほうが良いよ。」
俺の言葉に彼は顔をくしゃくしゃにして笑った。
その夜、マルトルの希望で家に帰ることになった。送っていくと船長は、宿代は支払い済みなので、もう1日ゆっくり泊まっていってくださいと言ってくれた。
「孫が本当に嬉しそうだ。エイトさん、ありがとうございます。」
「いや、俺は何もしてないよ。彷徨える楽団と一緒に歌って楽しかったみたいだ。」
俺の言葉に船長はひどく驚いた顔をした。
「今なんと!?彷徨える楽団ですと!あの伝説の。めったに人前で演奏をしない、鬼才の集団ですよ!」
ええっ!あの胡散臭いヨガーロが、そんな有名人だったのか。
「そうなんだ。マルトルのことを気に入っていたみたいですよ。」
「なんと…なんと。マルトルは将来、世界一の歌い手になるに違いない!エイトさん、マルトルを彼らに会わせてくれてありがとうございます!!」
船長は俺の手を取り、激しく上げ下げした。だから痛い!痛ってば!!腕千切れるーーー!!!
彼は俺に報酬を上乗せしてくれたのでありがたく受け取り宿に戻った。
ベッドに寝転がる俺の頭の中には、今日の歌と演奏が延々と流れていた。




