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ホロウサに到着し、冒険者ギルドを訪ねた。すると、俺に依頼のメッセージがあるという。
「依頼って誰から?」
「アクレスティード号の船長からですよ。先日乗ったんですって?」
「ええっ、あの豪華客船の?」
俺はアクレスティード号が戻ってくるのを待って、船着き場のスタッフに船長との取り次ぎを頼んだ。
「おお、エイト殿!早速にありがとうございます!」
船長が握手してきた。またあのアクレスティード号に乗れるかと思ったが、残念、ここは船着き場の事務所だ。
恰幅良い船長が座ると、ソファがギシッと軋む音を立てた。
「実は、孫のことなのです……」
「お孫さんがどうかしたのですか?まさか!行方不明とか!?」
「いえいえ、それは違います。孫は無事です。しかし……」
あまりに真剣な船長の顔に、俺の喉がゴクリとなった。
「孫は吟遊詩人に憧れていましてな。貴方のフィルマルト王国での活躍を讃える詩にすっかり感銘を受けているのです。」
「は……?はぁ……」
あの大仰で嘘八百の詩かよ。あれがホントなら俺は超イケメンでハクはスラリとしたサラブレッドだ。俺は美しい姫と恋仲になってるそうだし、なんてうらやましい。
「そして孫は貴方を参考に詩を書きたいといいましてな。少しの間で良いので、孫を同行させていただけませんか?この近辺でだけで良いので。なんとかお願いできませんかな?」
俺はヨガーロを思い出した。でも彼とは違い、船長の頼みは断りづらい。
「ええ……まあ数日ならなんとか。」
「本当ですか!?いや~ありがたい。なら早速明日からお願いします。期間は一応3日ということで。エイト殿、本当にありがとうございます!」
船長は俺の手を取り、激しく上げ下げした。痛い痛い!腕千切れるわ!?
翌朝俺は、宿のロビーで船長と彼の孫に会った。
「マルトルです。よろしくお願いします!」
13歳だというマルトルは元気に挨拶してくれた。少年らしい張りのある可愛い声だ。声変わりはまだみたいだな。明るい茶髪をマッシュボブみたいにしているのがよく似合う。そういや俺もそろそろ髪を切らなきゃな。
彼は大きな袋を背負っていた。着替えと、彼の愛用の楽器が入っているとのことだ。
「ああ、俺はエイトだ。よろしく。」
「エイトさん、よろしくお願いします。じゃあマルトル、頑張ってな。」
船長はマルトルの頭をぽんぽんとしてから、仕事があると去っていった。
「エイトさん、これから何をするんですか?冒険ですか?」
吟遊詩人に憧れる彼は、俺に密着して詩を考えるのだという。目をキラキラさせて言うマルトルにちょっと困惑しながら、俺はとりあえず普通に過ごすことにした。
「今日は武器屋と道具屋へ行くんだ。旅の道具なんかを手入れしてもらうためにね。」
「はい!しっかりついていきます!」
ビシッと敬礼ポーズを取るのが可愛いな。
武器屋で鋼のソードを磨いてもらっていると、マルトルが質問してきた。
「なんで磨いてもらうんですか?」
「ああ、森で出会った野獣を数頭退治したから汚れたんだ。マルトルも持ち物が汚れたらキレイにするだろ?キレイにしておくと、次に使う時に使いやすいんだ。」
「なるほど。そうなんですね!」
テントもまだ1日しか使っていないが、ついでなので道具屋で汚れ落としとメンテナンスをしてもらった。
ということで、外出の用事が終わってしまった。
「……もう終わり?」
「うん。」
マルトルはきょとんとしている。だって俺が勇者だといっても別に華々しい日常なんかじゃないし。
あ、そうだ。
「マルトル、墓参りに付き合ってくれる?」
今日は3日に一度の、イルー島に行く船が出る日だ。おばばの墓はそこには無いらしいが、住んでいた家に行ってみよう。
「お墓参りですか?」
「うん。知り合いが最近亡くなったんだ。だから少し訪問しようと思って。」
午後の便でイルー島に渡った。小一時間で到着し、おばばの家に向かう。以前のように行列する人のいない、ポツンとした小さな小屋のような家だ。
「小さな家ですね。」
「ああ、独りで暮らしていたからな。イグナっていう、高名な預言者だったんだぞ。」
薄暗いその部屋は以前来た時のままだった。あの乾いたようなおばばの声がまだ聞こえてきそうだ。
「エイトさん。ここに何かありますよ。」
マルトルの言った、下の方の棚の奥を見てみると、かなり奥に隠れるように箱が置かれていた。マルトルの背の高さだからまっすぐ奥が見えたんだな。
その側に置いてあったらしい紙がはらっと地面に落ちた。見てみると、おばばの字でひとことだけ書いてあった。
『エイト、持っていけ。』
マルトルは紙を覗きこんで驚いていた。
「おばばさん、エイトさんが来る事を知ってたんですね!預言者って凄い!」
「……ああ、凄いな。」
相変わらず理由も書かないんだな。俺は苦笑しつつ、その箱をバッグの中に入れた。
「帰りの船の時間まで、村の方に行ってみる?」
「はい、エイトさん。行きたいです。」
俺たちはおばばの家を出て、時間潰しに村へと向かった。そう言えば村に入るのは初めてだ。
村で、俺は2人分のジュースを買った。村唯一の店であるその食料品店の人はおばばのことをほとんど知らなかった。
「あちらの外れに住んでた人でしょ?たまにここに買い物に来ていたけど、ひっそり亡くなっていたらしいですよ。」
どうやら俺が訪問した翌日にはこの世を去っていたらしい。もう会うことはないと言っていたそのままだったな。
帰りの船の時間がもうすぐだ。俺たちは店を出て船乗り場へと向かった。
温浴施設に寄ってから夕食だ。マルトルは冒険者が集う酒場に興味があるらしいが、さすがにそんなところに連れては行けない。なんとか宿の中の食堂で納得してもらった。
ベッドで眠るマルトルを見ながら、あと2日何をすれば良いのか、途方に暮れる俺だった。




