page.152
『エイト、これからどうしますか?』
「うん、しばらく歩いてみる。」
『それだけですか?』
「ああ、天気がいいからな。」
だって秋だ。
秋は俺の一番好きな季節なんだ。
日中はまだ暑く感じるが、朝晩涼しく感じるようになってきた。
木々は赤や黄色に色づき始めて……
「あ〜焼き芋食べたい。」
『なんですか唐突に』
「秋と言えば焼き芋だろ?」
『今の会話のどこから焼き芋が?』
風情の分からん奴め。まあアドは本のナビゲーターだから仕方ないか。
「まあとりあえずさ、フルヤタ村までは歩けそうだから。そこで休憩してハクで移動かな。フルヤタ村の近くにダンジョンがあるみたいだから、ちょっと潜ってみるのもいいし。」
俺はクヌルギのギルドで入手した、最新のマップを取り出してチェックした。今朝シェアハウスの鍵を不動産屋に返しに行った時に、ついでに立ち寄って貰ってきたのだ。
ハクに乗せてもらっても、どのみち今日中にホロウサに着くのは無理だ。なら気楽に構えよう。
街道を進みながら気づいたが、以前より貴族が乗ってるっぽい馬車が減っているような。前はガンガン走っていたのに。
「なあ、アド。前より街道が空いてないか?クーリガルドに向かう馬車が減ってんのかな?」
『今頃気づいたんですか?エイトが聖女の加護を貰うイベントを終わらせたからですよ』
「ええっ、てことはずいぶん前からじゃん。ということは、宿の問題も解決してるってことか。」
なんかそう聞くとストーリーが進んでる気がするな。しかし、そうなるとクーリガルドの都市チャーションも閑散としてそうだな。ただでさえ何もない退屈なところなのに。
「なあ、アド。」
『なんですか。今日はおしゃべりですね。寂しいのですか?』
「う〜ん、そうなのかも。」
『じゃあシェアハウスを出なくてもよかったのでは?』
「用も無いのに居座る訳にはいかんだろ。それって単なる不審者だわ。」
『おや、不審者の自覚があったんですね』
「なんだよそれ!」
そんな話をしながら脳内ナビゲーターのアドとふたり?での旅を再開した俺たち。のはずが……
「いやいや、ご遠慮など水臭い。勝手に着いていきますので、どうぞ我らにはお構いなく。」
なんでこんなことになってんだよ!
話は少し遡る。
俺は朝から街道を歩いていた。歩きのペースだとホロウサまではあと数日。早秋の景色も堪能したし、そろそろハクに乗せてもらって一気にホロウサまで行ってしまうか。
そう考えて踏み込んだ森の中で、突然声をかけられたのだ。
「もし、旅のお方。冒険者とお見受けするが。」
なんかの一団が居るなと思い、違う方向に行こうとした矢先だった。
「あ……はい、そうです。」
声を掛けられたら無視もできない。近寄ってきた彼らを見ると、皆風変わりな服装の上、大きな荷物を背負っている。何の集団なんだ?
「私はヨガーロと申します。我らは音楽家でしてな。誰が名付けたか『彷徨える楽団』と呼ばれております。」
若いのか、それともそこそこの歳なのか、よく分からない怪しげな風貌のヨガーロと名乗った人がリーダーらしい。
「はあ……で、俺に何か用でしょうか?」
ヨガーロはいきなり手をぱぁん!と打ち鳴らした。
わっびっくりした!
思わず引いた俺に構わず、何故か得意げにヨガーロは話しだした。
「よくぞ聞いてくださいました!我らは演奏しながら旅をしております。歌や演奏でなにがしかのお金をいただいておりましてな。」
「はぁ……」
「何やら今は、勇者エイトを讃える歌が吟遊詩人の間で流行っているとのこと。なので私もひとつ彼の歌を書いてみようと思いましてな。協力してもらえる冒険者はいないかと思っていたところにあなた様を見かけた、という訳でございますよ。」
げげっ!なに?今この世界の音楽界ってそういうことになってんの!?
これはまずい…この人にその当人だとバレる前に逃げなければ……
「ねぇ、団長。そんなこと言ってもさぁ。普通の冒険者に協力してもらって何になんの?やっぱり本人捕まえないと話にならないんじゃないの?」
いやいや、本人捕まえても話にならんよ。だって吟遊詩人たちの言ってることって、話盛りすぎてもうよく分からないことになってるし。
大体俺が超美形で、あまたの令嬢から求婚されていることになっているらしい。どこかの姫と婚約した話はどこへいったんだ?
「ヒガナ。お前の言うことももっともだ。」
ヨガーロは顎髭を触りながら、うんうんと頷いた。
「しかし、ヒガナよ。我々には金も無ければ人脈も無い。こうやって、黙って協力してくれそうな、人の良さげな冒険者を見つけるしか無いのだ。」
「団長、それは本人の前であまりに失礼では?」
俺の方をちらっと見ながら、ヒガナと呼ばれた男はヨガーロに言った。ヨガーロは胡散臭げにニヤニヤしている。
「しぃっ!彼には黙っておけばよいことだよ。お前は些細なことを気にしすぎなのだ。知られなければどうということはない。」
……えーっと、ヨガーロさん?あなたの話は全部聞こえてますけどー。堂々とし過ぎだろ。
こんな奴らには付き合いきれないな。俺はさっさと退散することにした。
「じゃあ、俺はここで。頑張ってな。」
何を頑張るかよく分からないが、俺は彼らにそう告げてその場を離れようとした。
「いやいや、ご遠慮など水臭い。勝手に着いていきますので、どうぞ我らにはお構いなく。」
そう言ってヨガーロが腕を掴まんばかりににじり寄って来た。
「まずはお近づきの印に我らの演奏を聴いていただきましょうかな。いやいやそんな、お代など全くお気になさらず。」
演奏の準備だろうか、彼らが背負っていた荷物を下ろし始めたので、その隙に俺は風魔法の高速移動でその場を逃げだした。
勘弁してくれ〜〜〜!




