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夜にはなんとダンスパーティーが開催されるという。
さすが豪華客船だ。
俺は全力で遠慮したが、アルトの「せっかくエイトの服も用意しておいたのに…」 という泣き落としに抗えなかった。もちろんウソ泣きに決まってる。
しかし預かったあの大きいバッグのひとつに、そんな物が詰め込まれていたとは。
「アルトさん、本当にこんなドレス貰っていいの?前のも貰ってるのに。」
メイリンが遠慮がちに言っていた。今回は前のチャイナ風と違って、裾の広がるロングドレスだ。濃い目のブルーに銀糸の刺繍のドレスが、黒茶のロングヘアーを少し巻いたメイリンによく似合っている。
ヒマリのドレスも前のピンクとは違い、ふわりとしたレースが可愛い、淡いオレンジのもの。ヒマリも肩より長い茶髪をくるりと巻いてもらっている。
まあ、男の服なんてどうでもいいけど、俺たちのはまたまたマイルが仕立ててきた、フォーマルな紺にそれぞれ意匠の違う刺繍が襟に入っているものだ。
マイルはまたアルトにお揃いを着せられていた。今回はマイルが濃いグリーンで、アルトは濃いブルーの華美な仕立てだな。
会場は2階にある、だだっ広い豪華なホール。
ジェリコとユアンは入ってすぐに、壁際に並べられている軽い食事を食べに行ってしまった。ダンスなんて欠片も興味ないのが丸わかりだ。俺も合流しようかな。
そう思っていたのに、アルトに引っ張られ、船長に挨拶することになった。恰幅の良い男性だ。
「あなたが勇者エイトですか。お会いできて光栄ですな。お噂はかねがね聞いております。この船はいかがですかな?明日朝にまた別の島に立ち寄りますので、楽しみにしていてください。」
明日の早朝に立ち寄る予定の島のうちのひとつは『鳥の楽園』と呼ばれているらしい。それは面白そうだ。
アルトは知り合いの貴族が居たらしく、マイルを紹介する為に離れていった。
よし、今度こそジェリコたちに合流を…と思った俺の後ろから声が聞こえた。
「あの。もしよろしければ、私と踊っていただけませんか?」
美しい声に振り返ると、その声に負けない美しい女性が立っていた。
ロングの黒髪に大きくキラキラした黒い瞳、真っ白な肌にツヤツヤした唇。スタイル抜群なのがよく分かる繊細な意匠の、細身の赤いドレスだ。
俺は顔に血がのぼるのが分かった。なんだこの人、美しすぎる。
思わず固まった俺に、その女性は涼やかに言葉を紡いだ。
「勇気をだして誘っている女性に恥をかかせるおつもり?」
首を傾げるようにして微笑むその女性に、俺は思わず返事をしていた。
「俺で良ければ、喜んで。」
ワルツの音楽が流れる中、俺とその女性は踊り始めた。あ、向こうでアルトはメイリンと、マイルはヒマリと踊ってる。
「どなたか気になる女性でもいらっしゃるの?私と踊っているのに。悪い人ね。」
少したしなめるような、でも甘えるようなその口調にドキドキする。なんだこの気持ち。
「いえ、連れが踊っていたもので。あ…俺の名前はエイトと言うんだ。君の名前は?」
慌てたついでに彼女の名前を聞いてみた。
「アドリアーナよ。」
アドリアーナ……名前まで上品で綺麗だ。
「あら、エイトさんはお上手なのね。」
「あっすみません!声に出てましたか。」
「うふふ、嬉しいから許してあげるわ。」
俺は美女とダンスという初の体験に、なんだかふわふわしていた。彼女と話しながら、音楽に合わせてくるくる周るように、俺たちはゆっくりと踊り続ける。
「ここには旅行でいらっしゃったの?」
「ああ、今は学生グループの護衛の仕事をしていて。これはご褒美、みたいなものかな?」
彼女は俺の目を見つめて密着するようにしてきた。うっ近い!良い匂いがする。
「じゃあ、貴方は冒険者なのね……ずっと旅をしていて怖くはないの?」
「うーん、怖い時ももちろんあるけど、楽しい時もあるからね。良い仲間や相棒が居るから何とかなってる。」
「お仲間というのは、あちらで踊ってる方?相棒の方もここに?」
「いや…相棒はここにはいないんだ。旅の仲間っていうのかな……とりあえず、今は無くてはならない奴なんだ。」
「あら、そうなのね。素敵なこと。じゃあもし、旅なんてやめて私と一緒に居て、と言ったら?」
「えっ。」
その時、曲が終わった。思わず俺が彼女を見つめたら、彼女はとても機嫌が良さそうに微笑んだ。
「ありがとうエイトさん。とても楽しかったわ。また後で会えたら踊ってくださいね。」
そう言って、彼女は壁に近い辺りで話をしている多くの人たちの中に消えた。
うーん、からかわれたのか?きっとそうだろうな。でもほんと綺麗な女性だった。
その後、俺はアルトとマイルと一緒にプラチナフロアのバーで少し飲むことにした。
「エイトさんは誰と踊っていたんですか?遠かったのであまり顔が見えなかったのですが。」
「あ、声かけられて。名前しか知らないんだけどね。」
マイルに答えると、アルトが身を乗り出して聞いてきた。
「なになに?エイトは良い人見つけたのか?船長に客室がどこか聞いてこようか!」
「いやいや!アルト、そんなのいいから!」
さすがにそれは無理だ。まあたまにはこんなラッキーなことがあったってことで良いだろう。
俺は機嫌よく白ワインのおかわりを頼んで、またアルトと乾杯していた。




