page.144
朝から、ハムと葉野菜を挟んだだけのサンドイッチに、アルトが何故か超感動するという謎イベントが起きていた。
まあ彼にとって初の、そして最後かもしれない野宿を楽しんでもらえて何よりだ。俺は寝不足だけど。
俺たちはホロウサへ向かう為に、いつものようにハクに来てもらった。今日のハクは機嫌が良くなったのか、自分からアルトに顔をスリスリしていた。
「わ!くすぐったいな。」
アルトは嬉しそうだ。嫌われているんじゃないかと思ってたもんな。皆もそれを見て笑顔になっていた。ヒマリとユアンが笑い合いながら言ってた。
「良かった。ヒマリ、アルトさんとハクが仲良しなの嬉しい。」
「本当だね。嬉しいね。」
ハクの馬車でホロウサのすぐ近くまで送ってもらった。アルトはハクにリンゴをあげながら「元気でな。」と顔をなでていた。そうか、アルトは明日はもう別行動だから、ハクに会うのも最後になるのか。
帰るハクを見送り、俺たちはホロウサのクルーズ船乗り場へと向かった。
「わあ凄い、結構乗る人いるんだ!」
メイリンが興奮気味に話している。出航までには1時間以上あるが、もう乗り込んでいる人たちがいる。
俺たちが乗るのは、ホロウサで一番大きな豪華客船のアクレスティード号。行きに俺たちが見学したものより遥かに大きい船だ。
この船は、今日の正午に出発し、明日の正午までの丸一日かけて湖上を周遊する上、近くの島にも寄るということだ。もちろんこの近辺だけだけど。
「ふわぁ…なんかもうお城みたいですね。」
「エイトさん、もう乗っちゃいますか?」
ユアンとジェリコもウキウキしているし、皆早く乗りたそうだな。
「よし、じゃあ乗っちゃおう!」
俺が言うと、皆「おー!」と元気に返事してた。
ダルメル王がくれたのはプラチナチケットなので、プラチナフロアの専用スタッフがまず部屋に案内してくれた。
「うわぁ、広いね!」
まず俺たちの部屋を見たヒマリが声を上げた。俺たちが案内されたのは、向かい同士のファミリー用コネクトルルームだ。
「ベッドルームがふたつ、リビングルームと繋がってるんだね。メイリンたちの部屋も同じかな?」
マイルが俺たちの部屋を見ながら言っている。
「こっちはベッドが4つあるよ、向こうの部屋も4つかな?」
ユアンがリビングルームの向こう側にもあるベッドルームをチェックしに行ってた。しかし、こりゃ広いな。この3部屋続き、電車2両分くらいありそうかも。
「メイリンとヒマリの部屋は、2部屋が繋がってた。部屋の広さは同じくらいだ。」
偵察に行っていたジェリコが伝えてくれた。うむ、ご苦労。
スタッフさんは何でもご相談くださいと去っていった。このフロアに常駐しているようだ。
俺たちは荷物を置いて、早速船内探検に出かけた。皆、プラチナフロアの客であることが分かる、ちょっとおしゃれなネックレスを付けている。注意点はそれくらいで、フロアにドレスコードがないのが助かった。
船の3階にあるこのフロアには、24時間営業しているバーやカフェがあり、2階にあるゴールドフロアの客と一緒に利用できる食堂は、こちらも24時間食べ放題のビュッフェ形式だ。しかも常に各国の料理が提供されるとのこと。
「これ、1日で制覇できるかな?とりあえずダルメル王国のは要らないとしても……」
大量に並ぶ料理を見て、ジェリコが真剣な顔で悩んでいた。メイリンとヒマリも、目をキラキラさせながらデザートコーナーをチェックしている。
「後で昼食にしようね。先に探検だよ。」
マイルの号令で皆動きだした。ほんと引率の先生だよ。
「なあ、アルト。マイルって先生に向いてるんじゃない?」
皆の後ろを歩きながら、横にいたアルトに話しかけた。
「そうだな。まあ、マイルは器用だから何にでもなれそうだ。先生か…」
アルトの顔を見ると、彼はにっこり見返してきて言った。
「この船にはさ、地下に面白いところがあるんだ。後で行ってみよう。」
「へえ、そうなんだ。でもこの船、広すぎて周るのだけでも大変だな。」
「早めに乗っておいて良かっただろ。」
そう言ってウインクするアルト。マイルと同じ顔でも雰囲気違うよな。
この船では様々なイベントもあるようだ。複数のミニホールでのコンサートやリサイタル、芝居や大道芸なんかの時間が書いてあるボードを見ながらメイリンが呻いている。
「ねえ、ヒマリ。どれが良いと思う?」
「え…ヒマリ詳しくないから分からないよ〜。」
アルトがすっと近づいて、彼女たちにおすすめを教えていた。なんかアルトって貴族みたいだよな。三大魔導家は貴族ではないけど、それ相当の教育を受けているようだ。
「なあ、マイル。アルトは次期当主なんだろ?戦闘はマイルの方が強いと言っていたけど。」
マイルは驚いた顔をして俺を見た。
「アルトがそんなことを?まさか、アルトは僕なんかより遥かに強いですよ。僕は幼い頃に習った術をいくつか使えるだけです。なんせ10年リヴァリエルを離れていたんですから。」
「え、でも、アルトは戦おうとはしなかったぞ?」
俺は見たことをマイルに伝えた。マイルはそれを静かに聞いていた。
「そうでしたか。確かにアルトの強さは慈愛に基づくものです。しかしそれ以上に強大な魔力を欠片も漏らさないように制御している。彼は現代の最強の魔導士ですよ。僕なんか足元にも及ばないほどのね。」
マイルはにっこり笑ってそう言った。なんか、お互い褒め合っているだけのような気もするが。だってマイルからも同じものを感じるから。
優しい兄弟なんだな。
ひとりっ子の俺は、それをとても羨ましく感じた。




