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ハクのおかげでかなりの距離を進むことができた。だがキャンプのできる村までは微妙な距離だ。
「マイル、どうする?村まで歩いてもいいけど、下手すると着く前に日が落ちるかもしれない。」
「そうですね、この辺りで安全な場所を見つけて野宿の方がいいかもしれません。」
マイルが森の中を見回しながら言った。奥の方は鬱蒼としているが街道沿いは開けているので、テントを3つ張れる場所さえあれば大丈夫か。
「うん、そうしよう。ただ、この辺りはいくつかダンジョンが固まっているようだし、モンスターがいないかどうか、ちょっと様子を見てくるよ。皆のことは頼むな。」
「はい、任せてください。じゃあまた後で。」
俺は皆と別れて森の奥へと足を向けた。マイルがいれば大丈夫だろう。アルトも魔導士だし。まあまだアルトの実力を見たことは無いけれども。
「ダンジョンか、俺も見学しよう。」
突然背後から聞こえた声に、俺は弾かれたように振り返った。
は?アルト?
「何で?皆と居るはずじゃ。」
「こっちの方が面白そうだからついてきたに決まってるじゃないか。」
「いやおま協調性!?」
「マイルにはメッセージ飛ばしておいたから大丈夫だよ。」
マイルと同じ顔なのに、やること想像つかなぎる。
あれ?でも声を聞くまで気配を感じなかったような。
「……じゃあついてきてもいいけど、はぐれるなよ?」
「言われなくても分かっているよ。」
そう言ってにっこりするアルト。確か昨日もそう言ってなかったか?うーん、不安すぎる。
俺は仕方なくアルトを伴って、ダンジョンに足を踏み入れた。
なんかこのダンジョン……入った時からずっと見られているような気がするな。
俺は念のために、退魔の加護がかけられている銀の剣を取り出した。
ランプは後ろを歩くアルトに持たせたが、時々あちこちに向けてかざすので、灯りがチラチラして気が散る!
「アルト、ランプはしっかり持ってくれないか。気が散るんだ。」
「そうなのか、分かった。そうする。」
ほっ、おとなしく聞いてくれた。これで集中できるぞ。
降りてゆくほど、ダンジョンの中はじめっとしていて、時々スライムが現れたり、怪しい煙を吐くキノコがところどころに生えていた。
「ねぇ、エイト。このキノコ、夕食用に持って帰る?」
「そんな怪しいの要らんわ!」
本気で言ってるのかどうか分からないが、アルトと行動するのってこんなに疲れるのか……
そんな掛け合いをしていた時、急に周囲の空気が変わった。ゾクッとする嫌な気配だ。
すると前方から音もなく近寄ってくるものがいた。
「まさか……レイスなのか!?こんなに何体も!?」
レイスはダンジョンに一体居るかいないかの悪霊じゃないか。それが10体以上も現れるとは……こんなの俺の銀の剣の力だけで捌ききれるのか!?
すうっと一体のレイスが前に出た。俺たちの方を指さして、地を這うような声で言った。
「その濃い匂い……お前はリヴァリエルか……」
レイスたちは「おおぅぅ………」と怒りとも嘆きともつかない悲痛な声をあげている。何だ?
レイスたちのその声はダンジョン中に響き渡るように大きくなり、呪いの気配が濃く漂い始めた。まずい!完全に悪霊化しようとしている。
「アルト、逃げろ!お前が狙われている!俺がなんとかするから!早く!!」
振り返ってアルトを見たら、彼は俺を押しのけるように前に出た。彼のその声が柔らかく響く。
「ガルチェック家だね。我らはずっと君たちを探していたんだ。済まない、君たちをこんなところにずっと置き去りにしていて。リヴァリエルを代表して謝罪する。」
アルトは一歩も引かずにレイスたちに頭を下げた。
完全に悪霊化していたレイスたちの声が次第に小さくなってゆく。
「……まさかリヴァリエルが……お前は……」
アルトは頭をあげて、彼らに手を差し伸べた。
「さあ、皆帰ろう。俺が連れて帰ってあげる。」
アルトの手からダンジョンを全て照らしだすような、明るく柔らかな光が溢れた。その光に包まれたレイスたちは元の人間の姿を取り戻してゆく。
「なんと…我々はもう苦しまなくていいのか……!」
人の姿を取り戻した彼らは、まるで泣くような、それでいて歓喜のような声をあげ、やがてその姿は渦巻くようにひとつになった。そのままアルトの身体に吸い込まれるように消えてゆく。
「アルト!!!」
アルトは大丈夫なのか!?俺は必死に声を上げ手を伸ばしたが、俺の手は何かに弾かれたように届かなかった。
やがてその場に静寂が訪れた。
「……アルト?大丈夫か?」
俺の声に、彼はゆっくり振り返った。
「大丈夫だよ。ずっと探していた者たちが見つかったんだ。やっと連れて帰れる。」
そう言ってアルトは穏やかな笑みを浮かべた。
ダンジョンの出口に向かいながら、俺はアルトに聞いてみた。
「なあ、さっきのレイスたちはなんだったんだ?あんなにおとなしく消えるなんて。」
アルトは俺の方は見ずに話しだした。
「百年以上前にさ、魔族が人間界に侵攻した話は知ってる?」
「ああ、伝説の戦争だろう。人間がなんとか魔族を追い払ったっていう……」
「うん、その時に、何人もの同胞が行方不明になった。ガルチェック家は最後まで見つからなかったんだ。」
「そうなのか。でもアルト、よくあんなのを説得できたな。」
「俺にはこんなことしかできないからね。戦うのはマイルの方が得意だ。でも俺は弱いし、彼らと戦うなんてできないから。」
苦笑しながらアルトは言った。
いや、アルトは弱くなんてない。俺たちとは戦い方が違うんだ。そう思いながら、俺は何も言えなかった。
皆がテントを張っているところを見つけて手を振った。
「おーい!」
「あっ!エイトさんたち、お帰り!たった今夕食ができたところですよ。」
ジェリコが鍋をかき混ぜながら言った。今夜はシチューだな、良い香りがする。
マイルが声をかけてきた。
「すみません、アルトが勝手についていってしまって。エイトさんをひとりにできないって言って。」
確かにあれだけの数のレイスをひとりで相手にするのは厳しいが、アルトは何か分かっていたのか?
「いや、アルトが居てくれて良かった…のかな?」
マイルはシチューの味見をしているアルトを見ながら言った。
「アルトはとにかく優しいんですよ。僕が家を出る時にも、アルトが責任を全部かぶるからと言って両親を説得してくれたんです。僕は一生、彼には頭が上がりません。」
「ちょっとアルトさん!そんなに飲んだら味見じゃないでしょ!」
メイリンに注意されて、にこにこしているアルトを見ながら、俺は彼のことを少し思い違いしていたのかもと思った。
その夜、マイルはジェリコとユアンのテントで寝ると言ったので、俺はアルトとふたりになった。
アルトは「テントで寝るのは初めてだ!」とやたらと興奮して、俺が寝ようとするたび叩き起こされた。
「おお、テントって押すと揺れるんだな!」
「虫の音が聞こえる。エイト、あれは何という虫だろうか。」
「こんな固いマットレスは初めてだ。いかにも地面に寝ている気がするな!」
「……もう!アルト!いい加減寝ろ!!」
やっぱり協調性のない困ったやつだと思ったのは内緒だ。




