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翌朝、俺は王宮に行くことになった。
ダルメル王から、約束の物が用意できたとの連絡を受けたからだ。
「おお、勇者エイトよ。久しぶりだな。」
初めて会った時の愛想のなさはどこへやら。謁見の間で王は嬉しげに迎えてくれた。まああの笑い上戸の酒に長々付き合ったからな。
「お前が欲しがっていた、ドワーフの国への自由通行証だ。これを見せればいつでも入国できるぞ。」
「ダルメル王、本当にありがとうございます。感謝致します。」
事務官がお盆に乗せて持ってきたそれを、俺は恭しく受け取った。
「うむ。ただ、入国する前に、こちらに立ち寄ってもらえるか。ドワーフ王に渡してもらいたい物があるのだ。」
「分かりました。すこし先のことになりますが、必ず立ち寄らせていただきます。」
王はあごを触りながら言った。
「……しかし、本当に褒美はそれだけで良いのか?第八妃と姫の命を救ってくれたのだ。欲しい物があれば遠慮なく言うがよい。本当に、金や女はいらんのか?」
あんた前同じこと言って、王妃に肘鉄くらってただろ。でも俺が同じようにツッコむ訳にはいかない。
「はい、俺はこれだけで充分です。ありがとうございます。」
「うむ、無欲なお前はきっとそう言うと思ってな。おい、あれを持て。」
王はニヤリと笑って、事務官に合図をした。事務官はお辞儀をし、俺にまた違うお盆を持ってきた。何だ?
「それはクルーズ船のチケットだ。人数分ある。それで皆で遊んでくると良い。」
「ええっ!」
ホロウサで乗れるクルーズ船の!?行きに皆で内部見学したやつだ。俺も一度乗ってみたかったんだよね。しかもこれ、最高級のプラチナチケットじゃないか!
「王様、ありがとうございます!凄い!これは皆喜びますよ。……あれ?1枚多いようなのですが。」
「ああ、それはアルティウスの分だ。弟が長らく不在で寂しい思いをしていたようだからな。リヴァリエル卿にも話してあるので、一緒に行ってやってくれ。」
「そうなのですね、ご配慮ありがとうございます!」
「うむ。……まあ余ではなく、王妃の発案だがな。エイトよ、また会おうぞ。下がってよい。」
わ、これは凄い。皆、絶対喜ぶぞ。
俺はウキウキしながら、リヴァリエル邸に戻った。
クルーズ船のチケットを見せると、皆大興奮だった。チケット代が高額なこともあり、学生がなかなか乗れるものではない。
「俺も一緒に行けるの!?やった!」
皆と一緒になって、アルトも大喜びだ。
「でもアルト。ホロウサまでは、ハクで行っても1泊はキャンプ場か野宿になるけど、それでもいいか?」
アルトは三大魔導家の次期当主だ。そんな人を野宿させても良いのだろうか?
「キャンプ!?野宿!?やったことないよ、それはぜひともやりたいね。」
「アルト。僕や皆に無茶とかわがままは言わないでくれよ?キャンプには皆の協力と協調性が必要なんだ。」
「大丈夫。言われなくても分かってるよ。」
マイルもアルトの狂喜乱舞に呆れながらも嬉しそうだ。
「じゃあ、俺たちはクルーズ船に乗った後はそのまま帰る。アルトはそこからビンスタスに戻る。それでいいかな?」
「いいよ。俺は迎えを手配しておくから。」
さすがリヴァリエルのお坊ちゃま。それじゃもう心配は無いな。
「じゃあ明日朝に出発しよう。皆準備してね。」
マイルがそう言うと、皆は「はーい」と良い返事をした。帰りに楽しみが増えたな。
翌朝、俺たちはお世話になったリヴァリエル卿夫妻に見送られ、リヴァリエル家の豪奢な馬車で、ビンスタスの出入り門まで送ってもらった。
2台の馬車に別れて乗り、俺はアルトとマイルの双子と同じ方だ。
「マイルと旅行なんて、子どもの時以来だな。」
ウキウキしているアルトに、質問してみた。
「へえ、何歳の時?」
「うーん、6歳くらいかな?なあ、マイル?」
アルトは横に座っているマイルに話しかけたが、その時マイルは窓の外に見える宮殿の方を見ていた。アルトの言葉にふっと我にかえったようだった。
「え?ごめん、何か言った、アルト?」
アルトは黙ってマイルを見ていたが、ギュッと抱きしめて背中をぽんぽん叩いていた。マイルは驚いて目を見開いていたが、静かに目を閉じて言った。
「なんだか子どもの頃を思いだすね。あの時みたいだ。」
「そうだろう。俺は良いお兄ちゃんだからな。」
あの時がどんなことかは分からなかったけど、双子には何か通じるものがあるんだろう。そんな感じがした。
馬車は門に到着し、俺たちは街から出た。
「さて、これからどうするんだ?」
「うん、まずは森まで歩いてハクを呼ぶんだよ。」
俺の返事にアルトは目をキラキラさせた。
「噂のエルフのユニコーンだな!あの勇姿を生で拝めるとは!さぞかし繊細で優美な姿に違いない!!」
吟遊詩人の大仰な歌の内容を信じているんだな。いいえ、ばん馬サイズの脚ぶっといユニコーンです。まあ見てもらえば分かるか。
森に到着し、俺はいつもの通りエルフの指輪をはめてハクを呼び出した。
「…………なんか思っていたのと違うな。」
呆然とアルトが呟いた。目の前に現れた巨体が信じられないのだろう。まあ彼がこれまで見てきた馬といったら、大体サラブレッドサイズのものだからな。
「アルト、これがエルフのユニコーンのダイハクリョクだ。俺たちはハクと呼んでいる。可愛いやつだからよろしくな。」
「ああ……触ってもいいか?」
「どうぞ、って言うより、皆もうとっくに触ってるだろう?」
皆、我先にとハクにリンゴをあげようとしていたり、顔やおなかをなで回している。
そっと近づいていったアルトに気づいたメイリンが、彼の腕を掴んでハクのところに連れて行こうとした。
「ほら、アルトさんもハクに触ってあげて!」
急に引っ張られて、木の根に躓いたアルトがよろけると、ジェリコが咄嗟に支えていた。
「こら、メイリン!森の中は足元が危ないんだから気をつけるように言われてるだろ!」
「あ、ごめんジェリコ。ごめんなさいアルトさん。ちょっと興奮しすぎました。」
ペコリと頭を下げるメイリンに、アルトは微笑みかけた。
「いいよいいよ。それより俺もハクに触りたい。どうすれば良い?」
メイリンはアルトに笑顔を向けて、一緒にハクに触ろうと言っていた。最近仲良いよな。
アルトがハクに触れようとすると、何故かハクはすっと顔を背けた。そしてアルトのことをじっと見つめている。
「あれ?ハクどうしたの?」
メイリンが驚いて言った。確かにハクがそんなことをするなんて見たことないぞ。
「あれ?俺は嫌われているのか?」
アルトは腕組みしながら首を傾げた。マイルがハクをなでながら彼の兄に言う。
「思ってたのと違うなんて言ったから、嫌われたんじゃない?」
「うーん、そうか。繊細なのは繊細のようだな。」
「アルト、少しずつ仲良くなれば良いよ。ハクは優しいユニコーンだからさ。」
俺は励ますようにアルトに言った。
馬車を呼びだして皆で乗り込んだ。さあ、ホロウサに向けて出発だ。




