page.140
夜が明けてすぐ、正装姿のマイルが部屋に来た。
「エイトさん、朝早くから申し訳ありません。」
「どうした?マイル。」
俺は寝衣のまま扉を開けた。
「父がエイトさんに来て欲しいと言っております。1時間後に王宮へ行くとのことです。申し訳ありませんが、ご準備お願いします。」
マイルの表情は固い。彼女に会うんだ、落ち着かないんだろう。
「分かった。すぐ支度をするよ。」
俺たちが不在になることは、アルトから皆に伝えてくれるそうだ。リヴァリエル卿は馬車の中で俺たちにそう話した。
「かなり早い時間の謁見なのですね。いつもこんな感じなのですか?」
リヴァリエル卿に聞いてみた。
「いや、そうでもない。ただ、王の寵妃に男性ばかりでの訪問は身内でも目立つのでな。それでこんな時間になった。」
なるほど、外聞を気にしてのことか。偉い人たちは大変だ。
「ところでエイト殿は、フィルマルト王国で大活躍だったと聞いている。エルフのユニコーンを駆り、勇敢にもひとりで危険なダンジョンに乗り込んで、魔法陣を封印したとのことだな。いや、素晴らしい。」
「……あ、ありがとうございます。そんな話はどこから?」
「ギルドから聞いたよ。この辺りでももっぱらの噂だ。特に吟遊詩人たちが広めているようだが。」
ヤメてぇぇ!これ以上俺を晒し者にしないでぇぇぇぇぇ!!
真っ白になったままの俺を乗せた馬車は王宮に到着した。
「リヴァリエル卿、おはようございます。第八妃はお部屋でお待ちです。」
「うむ、ありがとう。」
侍従が出迎えてくれ、俺たちはエルの部屋へと案内された。あの奇跡の妙薬が彼女の命を救って以来だ。
「お父様、おはようございます。マイルも来てくれたのね。」
「ああ、おはよう。エルティアナ、体調はどうかね?」
「はい、お父様。私も子も元気にしておりますわ。」
エルはリヴァリエル卿に挨拶をしてからマイルに輝くような笑顔を向け、それから俺を見た。
「覚えておるかな?お前を救ってくれた勇者のエイト殿だ。」
「はい、かすかにですが覚えております。エイト様、本当にありがとうございました。」
彼女は完璧なカーテシーをし、柔らかな笑みを見せた。さすがお妃様だ。
「い、いえ。第八妃がご無事で良かったです!無事のご出産おめでとうございます!」
焦って言う俺に、彼女はくすくす笑った。
「ここではエルで良いですわ。そのほうが落ち着きます。さあマイル、こちらに来て私の子を見てくださいな。本当に可愛い女の子なのよ。」
エルはマイルの手を取り、上品な飾りのついている赤ちゃん用のかごのところへ連れていった。
「ね、可愛いでしょう?抱っこしてあげてね。大切な弟のマイルに早く抱いてもらいたかったのよ。」
「……ああ、本当だ。とっても可愛いよ。」
マイルは赤ちゃんに微笑みかけながら優しく抱いていた。本当は辛いだろうな。エルはマイルがずっと好きだった義理の姉なんだから。
そんなことを考えていたら、マイルが俺を見て言った。
「エイトさんも抱いてあげてください。エイトさんはこの子の命も救ったのですから。」
「ええっ!?いや俺は……」
赤ちゃんなんて抱っこしたことない!?なんか怖いよ。するとエルも嬉しそうにしながら俺に言ってきた。
「エイト様、お願いします。抱いてくださるとこの子も喜びますわ。」
「さあ、エイトさん。」
俺はマイルから恐る恐る赤ちゃんを受け取った。うわ…ちっちゃい。この子がダルメル王とエルの子どもなのか。
「エル、この子の名前は?」
マイルが聞いたが、エルは顔を横に振った。
「名前はまだなの。王がつけてくださるので、どんな名前になるのか楽しみにしているわ。」
「そうか…楽しみだね。」
「うん、とても。」
そう話すエルは、とても幸せそうに笑っていた。
帰りの馬車の中で、リヴァリエル卿がマイルに言った。
「可愛い姫君だろう。これでリヴァリエルと王家の関係も安泰だな。」
「そうですね、父上。」
マイルは微笑みながら返答していた。
先に馬車を降り、着替えてきますと言ったマイルを見送り、リヴァリエル卿とふたりきりになった。
「エイト殿。私もマイルの想いは知っていたのですよ。しかし、エルは王家に嫁がせる為に親類から引き取った娘。決まっていたことだったのです。」
「リヴァリエル卿……」
俺は何も言えなかった。家同士の結びつきは必要なことなのだろう。それで悲しい思いをする人がいたとしても。
マイルはこれからどうするのかな…そんなことを考えながら別館に戻った。
するとそこには、まさに衝撃の光景が俺を待っていたのだ……!




