page.137
チェックアウト後に、メイリンは親類の家に顔を出しにいった。皆でぞろぞろ行くと迷惑なので、マイルだけが付き添いだ。
その間、俺たちはスクロの観光だ。といっても、フィルマルト王国との国境に近いこの都市はさほど大きくもない。どうしても首都のビンスタスとの中継地点扱いだ。
そのせいかここの名物は、メインストリートを埋め尽くすほどの多くの屋台。食べ物や小物など、様々な種類の店が出てる。
「これ、ヒマリに似合いそうじゃない?」
ユアンが可愛らしい花の形の髪飾りを見ていた。
「ほんとだ、ヒマリこれ好き。ユアン、よく分かったね。」
そうヒマリに言われて、ユアンが真っ赤になっていた。ほんと微笑ましいよな、このふたり。ヒマリは全く気づいていないようだが。
ジェリコは相変わらず食べ物の屋台ばかり見ているが、なんとなく心ここにあらずだ。
「ジェリコ、どうかしたか?」
彼は何故か肩をぴくっと跳ねさせていた。
「あ…いえ、別に。店がいろいろ有りすぎて、どこから見ていいか分からない、みたいな?」
明らかに不自然だろ。目がちょっと泳いでるし。夜にでも聞いてみるか。
明らかに旅行者で賑わう通りを歩いていると、一際多くの客が集まっている店があった。聞き慣れすぎたあの大きな笑い声が響いている。
うわ〜、あれってまさか。
見てない振りして通り過ぎようとしていたら、ユアンが声をかけてきた。
「エイトさん、あそこにいるのはアマルガリタさんではないですか?」
ユアン、言うな。知らんぷりだ。
「あ、ほんとだ。アマルガリタさんだ。」
ジェリコ、シャットアップだ。
「アマルガリタさ〜ん、ヒマリです〜〜〜。」
ヒマリ、いいから手を振るな!
「あっはっは!エイトたち、元気かい!」
ああもう…今アマルガリタに会うのはややこしいんだよ……
彼女のところへいそいそと向かう皆に、俺も仕方なくついていった。
アマルガリタは皆にジュースを渡して、街路のテーブルに案内した。やっぱり俺は別のテーブルに呼ばれ、彼女は俺の正面によっこらしょと腰を下ろした。
美味しいねーと喜んでいるヒマリたちの声が聞こえる。
「あのさ、エイト。タルスのことだなんだけど……」
やっぱりそれか!俺が蒼のエルフを呼んでくれと言ったばかりに、彼は突然人間の女性と結婚なんかしてしまったんだ。
「面白いことになっちゃったねぇ。」
「はい?」
アマルガリタはニタニタ笑ってる。おかしくて仕方ないという感じだ。
「エルフ的には人間との結婚はOKなのか?」
「もちろん良いという訳でもないさ。白銀のエルフの王なんてひっくり返らんばかりに驚いてたさ。」
アマルガリタは自作のジュースをゴクリと飲んだ。
「でも我々は叡智のエルフだ。目の前に新しい知の刺激があれば抗えないものがある。言い方は悪いが、あれもまた新規の実験さね。」
「じゃあ……結婚の反対はしないんだな。」
「あたしはね。でも王はどうかな。そのうち動くかもしれんさ。」
そうか…それぞれ事情があるもんな。でもできればそっとしておいてやって欲しい気もする。あんな変なカップルだけど。
アマルガリタは俺を見つめて小さくため息を吐いた。
「あんたはまたお人好しなことを考えてるだろう。でもあんたにゃ優先的にすることがあるはずさ。しばらくあたしが様子を見とくから、そう心配するな。」
「そうか、じゃあよろしく頼む。」
アマルガリタはいつものようにニタリと笑った。彼女は蒼のエルフの長だ。なんとかしてくれるだろう。
「ところでふたり足りないね。別行動かい?」
「ああ、ふたりはメイリンの親類の家に行ってるんだ。」
「そうかい、あの子たちにもジュースの感想聞きたかったけどね。」
そう言いながらアマルガリタは立ち上がり、皆のところでジュースの感想を聞いていた。
いつもいろいろ気を使ってくれるんだよな。
俺はアマルガリタのどっしりした背中を見ながら、頼りにしている彼女に、心の中で礼を言った。
待ち合わせ場所にしていた宿の前に戻ると、マイルとメイリンが待っていた。
「ごめん、待ったか?」
「いいえ、僕たちも今戻ってきたところです。」
「あ、さっきアマルガリタに会ったよ。ジュース売りに来てた。」
俺がそういうと、メイリンが残念そうにしていた。
「そうなの〜?会いたかった!でももう出発しなきゃだからまたの機会にする!」
「そうだな。じゃあ行くか。」
俺たちは次の村を目指して馬車に乗り込んだ。これからはまた、野宿も入れての旅だ。気合入れて行くぞ!




