page.136
いよいよクヌルギへと戻る旅の出発だ。
「ウィンベルト、いろいろ世話になったな。」
「こちらこそ楽しかった。旅か…俺もまた冒険の旅に出たくなりそうだ。いや、しがない宿屋の親父が俺にはお似合いか。」
第一線で活躍していた剣士のウィンベルトが突然引退した理由を俺は知らないし、彼もまた語らない。
「寂しくなるね。また遊びに来てよ。」
カレンが皆にそう言って、ひとりずつハグしていた。
「カレンさん、お世話になりました。」
代表してジェリコが礼を述べていた。彼はフィルマルト料理もカレンからいろいろ教わったそうだ。
宿を出ようとした時、ウィンベルトが声をかけてきた。
「ああ、そうだ。言い忘れていた。お前に借りたあの鋼のソード、加護がかかっているんだろう。普通は、俺の腕を持ってしてもあんなあっさり切ることはできんからな。」
「うん、実は俺の持ち物のほとんどは、聖女テレンツィアの加護がかかっているんだ。」
「過信しすぎるなよ?」
「え、どういうことだ?」
テレンツィアの加護を過信するな?ウィンベルトは何を言ってるんだ?
「いや、過信はちょっと違うかもしれんな。だが、加護というのは力を借りるということだ。あれくらいの敵なら大丈夫だろうが、もっと大きな敵と戦うことになった時には、その聖女にかかる負担も大きい。それを覚えておくんだな。」
「そうか、そういうことになるんだよな。」
「エイト、鍛えておけ。心も身体もだ。お前自身がもっと大きくなるんだ。分かったな。」
俺自身が強くないと、テレンツィアにかかる負担が大きくなる。ウィンベルトはそれを教えてくれている。
「ありがとう、ウィンベルト。心しておくよ。」
「ああ、何かあったら頼ってこい。もちろん授業料はたっぷり徴収するがな。」
「こいつ…!」
俺たちは笑い合いながら固く握手した。ずっと剣を握って戦っていたウィンベルトの手は大きく、その手のひらはまだゴツゴツしたままだった。
さて、これからどうするかはマイルと相談して大体決めてある。
まずこの西区から東区へ馬車移動。そこからファルナートへの馬車に乗る。ここで夕方になる。
ファルナートの外れの森でハクに来てもらい、一気に国境を抜けて、ダルメル王国の南端の都市スクロに今夜は宿泊する。宿はギルドを通して予約済み、完璧だ。
東区へ向かう馬車から、先日行った王宮が見えた。王様、500ゴールドありがとうと心の中でお礼を言っておいた。
「来る時にスクロは寄らなかったよね。スクロには親類がいるのよ。少し会って来てもいい?」
メイリンがそう言った。
「もちろん良いよ。でも着くのは夜だから、時間によっては明日にしようね。」
マイルがそう答えた。今日中に着く予定とはいえ、馬車旅は時間が読めないところがある。馬の体調によるからな。
話しているうちに馬車は東区に到着した。ここからシェルナートへの馬車が出ているんだ。今回シェルナートへはハクに送ってもらったから馬車は使わなかった。
寂れて空き家が多かったシェルナート。あれはなんとかならないんだろうか。
俺は頭を振ってその考えを遠ざけた。俺が考えてどうにかなるもんじゃない。王様が何か対策を考えているだろう。
「エイトさん、馬車が来ましたよ。」
「ああ、乗ろう。ファルナートに着いたら昼飯にしような。」
「やった!フィルマルト国最後のご飯は何にしようかな〜。」
ジェリコらしい返事に苦笑しながら、俺たちは馬車に乗り込んだ。




